劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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仮定の話をここまで広げるとは……


トゥマーン・ボンバ対抗策

 お茶会形式をとった達也による報告会の話題は『トゥマーン・ボンバ』と思われる攻撃魔法に移っていた。

 

「では達也くんにも術者の存在は知覚できなかったということですね?」

 

「ええ」

 

 

 勝成の質問に、達也が肯定の返事をする。

 

「その魔法がトゥマーン・ボンバだとすると……やはり、新ソ連は超遠隔照準補助システムを実用化しているということでしょう」

 

 

 勝成が断定的な結論につなげると、夕歌が首を傾げながら勝成に問いかける。

 

「超遠隔照準補助システム……マテリアルバーストに使うサード・アイのような?」

 

「推測される魔法の性質上、サード・アイのような精密照準は必要ないだろう。その一方で、無数の魔法式を複写し、それが同時に発動するような変数の設定は、一人の魔法師の演算能力で賄いきれるものではないように思われます。演算補助の機能を持つ大型コンピュータを組み込んだ複合システムを使っているのではないでしょうか」

 

「そうですね。達也さんはどう思う?」

 

「合理的な推測だと思います。付け加えるならば、その全ての機能を統合した大型CADで、通常ならば魔法師が入力する変数までもカバーした起動式を作成し、魔法師の負担を軽減しているのではないかと」

 

「魔法師が起動式を読み込むだけで魔法が発動されるということ?」

 

「起動式の読み込みすら、自動化しているかもしれません」

 

 

 真夜と達也の問答に、夕歌が口を挿んだ。

 

「それで本当に魔法師の負担を軽減している事になるんですか? 起動式の読み込みすら自動化されて魔法が発動するとすれば、魔法師が自分の限界を超えた魔法を強制される可能性すらあるわけですよね?」

 

「自分の処理能力を超えた魔法は発動しませんよ。『ブースター』を使えば別かもしれませんが」

 

「ブースターというと、香港マフィアが供給していた『ソーサリー・ブースター』のことですか? あれを作っていた組織は壊滅したんじゃなかったかしら」

 

「製法が失われたわけじゃないでしょう。まぁ、全ては憶測でしかありませんが」

 

「そうね」

 

 

 夕歌はまだ何か言いたそうだったが、真夜が相槌を打った事で引き下がった。

 

「魔法の仕組みにも興味はあるけれど、それより差し迫っては……」

 

 

 真夜はそこで言葉を切って、「分かるかしら?」という視線を深雪に向けた。幸い昨日の夜に達也と同じ会話をしたばかりだったので、深雪は答えに悩まなかった。

 

「急を要する課題は、トゥマーン・ボンバと思われる魔法をどう防ぐかだと思います」

 

 

 真夜が満足そうに頷く。彼女は深雪の答えが達也からの受け売りであることに気付いているようで、視線は達也に向けられていたが、それは一瞬の事で、達也以外には気づかれなかった。

 

「酸水素ガスを生成して爆発させるあの魔法が、トゥマーン・ボンバかどうかはとりあえず横に置いておきましょう。深雪さんならあの魔法をどう防ぎますか?」

 

「発動のタイミングを合わせられれば『凍火(フリーズ・フレイム)』で阻止できると思います。ただ肝心のタイミングを掴むのが相当困難だと思われますが……」

 

「なるほど。勝成さんならどうです?」

 

「そうですね……攻撃の規模にもよりますが、『密度操作』で生成直後の水素と酸素を分離すれば魔法を不発に終わらせることが出来ると思います」

 

「文弥さんはどう考えます?」

 

「僕には障壁を張って耐えるくらいしか出来ないと思いますが、姉の『極散』ならば魔法の発動を妨害出来ると思います」

 

 

 次々と提示される無害化手段に、楽観的な空気が形成されようとしていたところに、達也が警告を投げ込んだ。

 

「密度操作による無害化も、極散による発動阻止も理論的には可能ですが、問題は深雪が言ったように、相手の魔法にタイミングを合わせられるかどうかです。あの高速展開される連鎖的魔法式複写、自分は便宜的にチェイン・キャストと呼んでいますが、その完成前に後出しでこちらの魔法を完成させるのは、相当困難ではないかと思われます」

 

「ですが、トゥマーン・ボンバと仮定される魔法には攻撃範囲と同じ規模の広がりを持つ水が必要なんでしょう? 海上や湖の上ならともかく、陸上ならば事前に霧や水溜まりを作り出さなければいけないのでは? それである程度予測は可能だと思いますが」

 

 

 夕歌の口調は、今一つ本気で主張しているとは思えない節があった。だが達也は、余計な事を言わずにその意見を否定した。

 

「自分がこの魔法の術者なら、雨の日を狙います。中東の砂漠地帯ではなく日本です。機会を見出すのは難しくないでしょう」

 

 

 その言葉に夕歌が達也に向けて肩をすくめるような仕草を見せる。彼女にどういう意図があるのか、あるいは何も考えていないのか、達也には分からない。だが達也は一瞬悩んだだけで、気にしないことにした。

 

「繰り返しになりますが、チェイン・キャストは極めて高速です。確実にタイミングを合わせられるのでなければ、障壁魔法で可能な範囲だけでも防御した方が良いでしょう」

 

 

 障壁魔法というフレーズに、達也と深雪を除く列席者の目がなんとなく深雪の背後へ向いた。そこに無言で控えている水波が、五人分の視線を浴びてたじろいた。

 

「とにかく、トゥマーン・ボンバと思われる魔法に対抗する策は今のところ防壁魔法で防ぐくらいという事かしらね」

 

「そうですね。超遠隔照準補助システムを使っているのであれば、術者を見つけるのは困難でしょうし」

 

 

 達也がそう締めくくったお陰か、水波に向けられていた視線は再び達也に向けられ、水波は気づかれないように息をついたのだった。




ほぼ確定事項として見てるんでしょうか……

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