劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也は別の場所に引っ越す為無理のないように変更


ビルの正体

 達也たちが東京に戻ったのは、午後八時前だった。戻った場所は往路にも使った調布のビル屋上。達也、深雪、水波に、勝成、琴鳴、奏太の三人を加えた合計六人が小型VTOLからヘリポートに降りる。

 

「達也様、本日はこれで失礼いたします」

 

「花菱さん、ありがとうございました」

 

「もったいないお言葉です。私の事は、どうか兵庫とお呼びください。それではまた、改めてご挨拶にうかがいます」

 

 

 何の挨拶に来るのか少し気になったが、達也はそれを兵庫に尋ねず、離陸するVTOL機を見送った。

 

「達也さん、深雪さん」

 

 

 勝成の声に達也が振り返る。深雪はその前から、勝成たちに警戒の眼差しを向けていたが、勝成も琴鳴も奏太も、深雪の視線に込められた疑いの念を気にした様子は無い。

 

「お二人は、このビルの事を聞いていますか?」

 

「察するところ、四葉家の持ち物のようですが」

 

「このビルは東京における、四葉家の本部として建てられました」

 

「以前、そのような計画があることはうかがっていました。ここがそうなのですね」

 

「マンション部分は全て、四葉の関係者が入居します。戦闘員の一時的な宿舎としても機能します」

 

「なるほど。だからこんな、要塞みたいな造りになっているんですか」

 

 

 このビルは広い敷地の中央に建っている。堀の代わりに警備装置が幾重にも張り巡らされているのは、想像に難くない。三階までのオフィス部分には窓が全く無く光ファイバーで採光する構造になっている。

 

「私たちも近日中に、ここへ引っ越します」

 

「そうですか」

 

 

 勝成のこの言葉は、それほど意外でもなかった。これだけ大掛かりな物を造ったのだ。分家の次期当主が居を定めるのは、いろいろな意味で合理的と言える。

 

「それから、君たちの新居も、近いうちに完成するそうだ」

 

「母上がそう仰ったのですか?」

 

「そうです。本当なら達也さんにもここに住んでもらいたいと思っている様子でしたが、君の事情はいろいろと特殊だからね。四葉の本部に他家の人間を住まわせるわけにもいかないという判断だそうだ」

 

「分かりました」

 

「そして深雪さん。貴女はこちらに転居してもらう事になるそうです」

 

「ですが、あの家には達也様個人の研究データなどがありますので、そう簡単に手放すわけには――」

 

「そちらの処理も、四葉の者が行うとの事ですので」

 

「……分かりました」

 

「では、確かにお伝えしましたので」

 

 

 渋々了解の返事をした深雪に勝成が会釈をし、琴鳴と奏太の三人はビルの中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅のリビングに腰を落ち着けた達也と深雪がまず話題にしたのは、勝成に告げられた転居の事だった。

 

「達也様は、ご存じでしたか?」

 

「四葉家が東京に拠点を作るという話は、聞いた覚えがあるが、深雪までそちらに移ることになるとは聞いていなかった」

 

 

 深雪に問われ、達也は自分にとっても予想外だったことを白状する。

 

「この家にある研究データの大半は第三課にもあるものだから別にいいが、調整機器などはどうするつもりなのだろうか」

 

「叔母様に確認してみますか?」

 

「いや、母上の事だから、何か考えがあるのだろう」

 

「ですが、先月まで私はこの家に水波ちゃんと残る方向で話が進んでいたのに、何故今になってその予定が変更になったのでしょうか?」

 

「多分母上は、深雪の身の安全を図る必要を感じているからではないかな」

 

「何者かが、私たちを狙っているということですか?」

 

 

 ちょうどお茶を持ってきた水波の顔に、緊張の色が浮かぶ。達也と深雪が離れて暮らすようになれば、深雪の身の安全は水波が守らなければならないのだから仕方ないだろう。

 

「もしかしたら、そうなのかもしれない。だが俺はそれより、今後四葉家の関係者が害意に曝されるリスクに備えているように思われる」

 

「叔母様は他の二十七家と敵対する事をお考えだと?」

 

「二十七家に限らない」

 

「それは……政府を相手にするという事でしょうか?」

 

 

 深雪の声から余裕が失われる。

 

「いや、政府も一枚岩ではないから、国家権力と全面的に対立するという事態にはならないだろう。もしそんなことが起こるとすれば、引き金を引くのは母上ではなく俺だろう」

 

「達也様……」

 

 

 不安を露わにして縋りついてくる深雪の手を、達也は優しく撫でる。その行為で、達也の袖を握っている深雪の指に込められた力が少し緩んだ。

 

「母上には日本政府と対立する意思は無いと思う。だが国防軍と対立する可能性は、ゼロではない」

 

 

 しかし達也がそう言うと、再び深雪の指に力が篭った。それを感じ取り、達也が「大丈夫」と言うように笑い掛け、深雪の髪をそっと指先で梳いた。

 

「全面的な武力衝突というようなことにはさせないから安心してくれ」

 

「――それを聞いて、深雪は安堵しました」

 

 

 何時ものように、深雪が達也へ甘えてもたれかかるのを見て、水波は居たたまれなさを覚えるのではなく、不安が薄れていくのを感じていた。

 

「水波」

 

「は、はい」

 

 

 何処か安心感すら感じていた水波に、達也が声をかけた。水波にとって予想外だったのか、彼女の返事は少しぎこちなかった。

 

「四葉の人間も当然深雪の身の安全には気を配るだろうが、基本的には水波一人に任されるだろう。その時は、深雪の事を頼む」

 

「っ! お任せください」

 

 

 達也に改めて言葉にされた事で、水波は自分の役目を強く自覚し、達也に返事をする。彼女の気合いが伝わったのか、達也は一度頷いて、再び深雪を甘やかすのだった。




どれだけ原作とやろうとしてる事が被るんだか……

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