劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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上官との会話は無理なので……


リーナの心情

 四葉家の用意した住まいで寛いでいたリーナに、マクシミリアン襲撃事件が知らされたのは、事件から数時間後だった。

 

「リーナ、大変です!」

 

「ミア? 何があったの?」

 

 

 普段は大人しいというか、たどたどしい態度のミアが、リーナの部屋に飛び込んできたのを受けて、リーナは余程大変な事が起こったのだろうと理解した。

 

「マクシミリアンの研究施設が、日本軍に襲撃され、工作任務中だったUSNA兵を捕虜として連れ去りました! その中にシルヴィア准尉の名も……」

 

「シルヴィーが!? というか、日本軍が何で……同盟国でしょ!?」

 

「その辺りはまだ不明です……」

 

「すぐに出ます! ミアも用意して」

 

「いえ……スターズからの連絡で、リーナ及び私はこの件に一切関わるなとの事です」

 

「何でよ!? 仲間が捕まってるんだから、助けるのが普通でしょうが!」

 

「リーナも私も、名簿には載っていますが、実際はスターズから抜け出した身ですので……公然の秘密とはいえ、USNA軍としては、リーナが軍から抜けたという事を認めたくは無いのでしょう。アンジェリーナ・クドウ・シールズではなく、アンジー・シリウスはUSNA軍の切り札とも言える存在ですから」

 

「……それで、シルヴィーの安否は?」

 

 

 ミアの正論に反論出来ずに、リーナは友人の安否を尋ねる。

 

「それもまだ……ですが、施設内には血痕などは無く、死体も残されていなかったそうです。その点から考えるに、シルヴィア准尉は無事ではないかと」

 

「そう……良かったわ」

 

 

 シルヴィアが何の任務で日本に来ていたか、リーナはシルヴィア本人から電話で聞いている。もちろん軍務を外部に漏らすのは違反なのだが、シルヴィアは気にした様子は無かった。

 

「グレイト・ボムの使用者の特定……日本軍は余程タツヤの存在を隠したいという事かしら」

 

「どうなのでしょう……そもそも、今回マクシミリアンを襲撃したのは、日本軍の中でも諜報部隊だそうです」

 

「諜報? 何でそんなところが出張って来てるのよ」

 

「参謀本部も良く分かっていないようです。抗議しようにも、工作活動をしていたのはUSNA軍なわけですし、日本軍に正当性があるらしく……」

 

「そうよね……? ミア、随分詳しく知ってるっぽいけど、誰から聞いたの?」

 

「それが……」

 

 

 歯切れの悪いミアの態度に、リーナはかつての上官としての威厳を表に出し、ミアを問い詰める。

 

「ミカエラ・ホンゴウ! 答えなさい。貴女は誰からこの情報を聞いたの」

 

「……タツヤ・シバです」

 

「タツヤ? いったいどういう――」

 

 

 そこでリーナは、部屋の外に別の気配があることに気が付いた。

 

「えっ、ちょ、何で……」

 

「電話ではあれだと思ってな」

 

「あっ……タツヤも知ってるのね」

 

「一応事の顛末くらいはな。それで、リーナとしてはどうしたいんだ?」

 

「もちろん、シルヴィーを含めた同胞を助けたい」

 

「自分は軍を抜けているのにか?」

 

 

 達也の意地の悪い聞き方に、リーナは口を開けたまま固まってしまう。確かに自分は軍から逃げ出し、アンジー・シリウスの任務から逃げ出した。軍の仲間からは裏切り者と思われていても仕方がない。今更同胞と言ったところで、向こうがそう思ってくれているかは分からない。

 

「今は大人しくしておけ」

 

「どういう意味よ」

 

「今回襲撃の中心として動いていると思われる相手は、リーナじゃ相手に出来ない」

 

「どういう意味よ!」

 

 

 先ほどと同じ言葉を、違う感情で放つリーナに、達也は苦笑いを浮かべて答える。

 

「この程度の言葉で激昂するようでは、相手の思うつぼだ。下手をすればリーナをUSNAとの取引のカードとして使おうとまで考えるかもしれない相手だ」

 

「……どういう人間なのよ」

 

「首都防衛の切り札として『作られた』魔法師だ。USNAが日本に危害を加えようとした時に、リーナを盾にする可能性だって十分にある」

 

 

 彼女にそこまでの効果があるとは、達也も思っていない。既に軍を抜けているリーナを盾に取られたからといって、USNA軍が大人しくなるなんてことは、限りなくゼロに近いだろう。

 だが情報部の研究に、洗脳などの項目があることを知っている達也としては、リーナを洗脳し、USNA軍の情報を引き出そうとしたり、四葉家の内情を探る可能性は十分にあると考えていた。直接の面識はないが、話に聞いた相手なら、それくらいはしそうだと。

 

「とにかく、今リーナが出ていくと話がややこしくなる。こちらで掴んだ情報では、なにもしなければ数日中に帰国させるとの事だからな。下手に暴れて彼らの身を危険にさらすのは、リーナとしても不本意だろ?」

 

「……それ、本気で思ってるわけじゃないわよね? タツヤの目、かなり警戒してる目よ」

 

「こちらに何もしてこなければ、俺から奴らに攻撃するつもりはない」

 

「つまり、ミユキに手を出したら容赦しないと?」

 

「さてな。釘は刺したからな。余計な真似をして四葉家を敵に回したくなければ、大人しくしておけ」

 

「……分かったわよ」

 

 

 最後に眼光鋭い視線を向けられ、リーナはこの言い付けを破ればどうなるかを理解した。理解せざる得なかった。

 

「それにしても『作られた魔法師』って……」

 

「聞けばよかったじゃないですか」

 

「怖くて聞けないわよ……」

 

 

 達也が帰った後、リーナはぽつりとつぶやき、ミアもその考えに同意した。あの時の達也からは、下手な事を聞けば容赦しないというオーラがあふれ出ていたのだ。




相変わらずポンコツ臭が……
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