四葉家の用意した住まいで寛いでいたリーナに、マクシミリアン襲撃事件が知らされたのは、事件から数時間後だった。
「リーナ、大変です!」
「ミア? 何があったの?」
普段は大人しいというか、たどたどしい態度のミアが、リーナの部屋に飛び込んできたのを受けて、リーナは余程大変な事が起こったのだろうと理解した。
「マクシミリアンの研究施設が、日本軍に襲撃され、工作任務中だったUSNA兵を捕虜として連れ去りました! その中にシルヴィア准尉の名も……」
「シルヴィーが!? というか、日本軍が何で……同盟国でしょ!?」
「その辺りはまだ不明です……」
「すぐに出ます! ミアも用意して」
「いえ……スターズからの連絡で、リーナ及び私はこの件に一切関わるなとの事です」
「何でよ!? 仲間が捕まってるんだから、助けるのが普通でしょうが!」
「リーナも私も、名簿には載っていますが、実際はスターズから抜け出した身ですので……公然の秘密とはいえ、USNA軍としては、リーナが軍から抜けたという事を認めたくは無いのでしょう。アンジェリーナ・クドウ・シールズではなく、アンジー・シリウスはUSNA軍の切り札とも言える存在ですから」
「……それで、シルヴィーの安否は?」
ミアの正論に反論出来ずに、リーナは友人の安否を尋ねる。
「それもまだ……ですが、施設内には血痕などは無く、死体も残されていなかったそうです。その点から考えるに、シルヴィア准尉は無事ではないかと」
「そう……良かったわ」
シルヴィアが何の任務で日本に来ていたか、リーナはシルヴィア本人から電話で聞いている。もちろん軍務を外部に漏らすのは違反なのだが、シルヴィアは気にした様子は無かった。
「グレイト・ボムの使用者の特定……日本軍は余程タツヤの存在を隠したいという事かしら」
「どうなのでしょう……そもそも、今回マクシミリアンを襲撃したのは、日本軍の中でも諜報部隊だそうです」
「諜報? 何でそんなところが出張って来てるのよ」
「参謀本部も良く分かっていないようです。抗議しようにも、工作活動をしていたのはUSNA軍なわけですし、日本軍に正当性があるらしく……」
「そうよね……? ミア、随分詳しく知ってるっぽいけど、誰から聞いたの?」
「それが……」
歯切れの悪いミアの態度に、リーナはかつての上官としての威厳を表に出し、ミアを問い詰める。
「ミカエラ・ホンゴウ! 答えなさい。貴女は誰からこの情報を聞いたの」
「……タツヤ・シバです」
「タツヤ? いったいどういう――」
そこでリーナは、部屋の外に別の気配があることに気が付いた。
「えっ、ちょ、何で……」
「電話ではあれだと思ってな」
「あっ……タツヤも知ってるのね」
「一応事の顛末くらいはな。それで、リーナとしてはどうしたいんだ?」
「もちろん、シルヴィーを含めた同胞を助けたい」
「自分は軍を抜けているのにか?」
達也の意地の悪い聞き方に、リーナは口を開けたまま固まってしまう。確かに自分は軍から逃げ出し、アンジー・シリウスの任務から逃げ出した。軍の仲間からは裏切り者と思われていても仕方がない。今更同胞と言ったところで、向こうがそう思ってくれているかは分からない。
「今は大人しくしておけ」
「どういう意味よ」
「今回襲撃の中心として動いていると思われる相手は、リーナじゃ相手に出来ない」
「どういう意味よ!」
先ほどと同じ言葉を、違う感情で放つリーナに、達也は苦笑いを浮かべて答える。
「この程度の言葉で激昂するようでは、相手の思うつぼだ。下手をすればリーナをUSNAとの取引のカードとして使おうとまで考えるかもしれない相手だ」
「……どういう人間なのよ」
「首都防衛の切り札として『作られた』魔法師だ。USNAが日本に危害を加えようとした時に、リーナを盾にする可能性だって十分にある」
彼女にそこまでの効果があるとは、達也も思っていない。既に軍を抜けているリーナを盾に取られたからといって、USNA軍が大人しくなるなんてことは、限りなくゼロに近いだろう。
だが情報部の研究に、洗脳などの項目があることを知っている達也としては、リーナを洗脳し、USNA軍の情報を引き出そうとしたり、四葉家の内情を探る可能性は十分にあると考えていた。直接の面識はないが、話に聞いた相手なら、それくらいはしそうだと。
「とにかく、今リーナが出ていくと話がややこしくなる。こちらで掴んだ情報では、なにもしなければ数日中に帰国させるとの事だからな。下手に暴れて彼らの身を危険にさらすのは、リーナとしても不本意だろ?」
「……それ、本気で思ってるわけじゃないわよね? タツヤの目、かなり警戒してる目よ」
「こちらに何もしてこなければ、俺から奴らに攻撃するつもりはない」
「つまり、ミユキに手を出したら容赦しないと?」
「さてな。釘は刺したからな。余計な真似をして四葉家を敵に回したくなければ、大人しくしておけ」
「……分かったわよ」
最後に眼光鋭い視線を向けられ、リーナはこの言い付けを破ればどうなるかを理解した。理解せざる得なかった。
「それにしても『作られた魔法師』って……」
「聞けばよかったじゃないですか」
「怖くて聞けないわよ……」
達也が帰った後、リーナはぽつりとつぶやき、ミアもその考えに同意した。あの時の達也からは、下手な事を聞けば容赦しないというオーラがあふれ出ていたのだ。
相変わらずポンコツ臭が……