劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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真由美って意外とおバカキャラ?


真由美の好奇心

 魔法大学は教育内容こそ特殊だが、その雰囲気は他の大学とそれほど変わらない。独特の空気を漂わせているという意味では、付属の魔法科高校の方がよほどその傾向は強い。午後のカフェテリアは、空き時間になっている学生で賑わっていた。交わされる会話はファッションやグルメではなく、魔法に関する話題が大半を占めている。それでも、学生たちは楽しそうだ。魔法師であっても、不穏な時代であっても、自由がある限り若者が青春を謳歌出来ない理由にはならない。

 とはいえ、カフェにいる学生の全員が賑やかに論を交わし、お喋りをしているわけではない。静かに読書をしている者も、物思いに耽っている者もいる。例えば、一人で何事かに悩んでいる克人のように。

 

「こんにちは、十文字くん。ここ、良い?」

 

 

 そして、そんな人間にちょっかいを掛けてくる学生も、タイプとしては珍しくない。ただ十文字家当主として大学内に知られ、それに相応しい風格を醸し出している克人の邪魔をする存在となると、七草真由美くらいしかいなかった。

 

「七草か……構わない。座ってくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 真由美は遠慮の素振りも見せず、克人の向かい側に腰を下ろした。こんな態度を取っているから「四葉家次期当主から十文字家当主に乗り換えた」などという噂話が止まないどころか広がっているのだ。真由美は噂されるのを嫌がっているくせに、自分のわきの甘さに気付いていない節がある。

 

「十文字くん、なにか悩んでるみたいだね」

 

「いや……」

 

 

 口で否定の返事をしながら、克人は迷惑そうな目を真由美に向けた。この場で触れてくるなというアイコンタクトなのだが、残念ながら克人の願いは真由美に伝わらなかった。

 

「日曜日の会議の件じゃない?」

 

 

 克人が思わず目を左右に動かす。顔を固定したまま、周囲の学生に警戒している事を悟られないように。

 

「大丈夫。遮音フィールドを張っているから」

 

 

 しかし、真由美には克人の用心が理解出来ていないようだった。

 

「……七草、読唇術という技術を知っているか?」

 

「どくしんじゅつ? テレパシー?」

 

「……いや。とにかく、ここでその話はしないでくれ」

 

「んーっ?」

 

 

 真由美は顎に人差し指を当てて目だけ上を向くというあざとい仕草を見せた。それでも幼いイメージにならないのは、根っから「あざとさ」が身についているのだろう。そして、真由美が克人に笑顔を向けると、克人は半ば本能的に身構えた。そして、その直感は正しかった。

 

「分かった。じゃあ、何処ならOK?」

 

「……あくまでも首を突っ込んでくるつもりか?」

 

「その言われようは心外ね。私にも一応、関係がある話のはずだけど? これでも『十師族の若手』よ?」

 

「……分かった。駅前の『静寂(ジャクソン)』という喫茶店は知っているか?」

 

「分かると思うわ」

 

「その店の二階に五時半でどうだ」

 

「分かった。邪魔しちゃ悪いから、私は退散するわね」

 

 

 そう言って真由美が席を立つ。その時になって克人は今更のように、真由美の前に飲み物も何も置かれていなかったことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学からの帰り道、真由美は古風な構えの喫茶店に立ち寄った。店の名前は『静寂(ジャクソン)』。「静寂が存在する所」という意味らしい。

 

「ふーん……『静けさを楽しむ方、お待ちしております』かぁ。演出かな? 徹底してるわね」

 

「そうだな」

 

「どうしたの、摩利。なんだか疲れてるみたいだけど」

 

「みたい、ではなく、あたしは疲れているんだが」

 

「老け込むには早いわよ?」

 

「魔法大学と違って、防衛大は身体を酷使する事が多いんだよ!」

 

 

 防衛大の学生は、戦闘魔法師育成を目的とする特殊戦技研究科であろうと基本教練や戦闘訓練から逃れられない。今日もさんざんしごかれて、摩利は正直なところくたくただった。本当は今すぐにでも風呂を済ませてベッドに飛び込みたいところなのだ。特殊技研究科は窮屈な寮生活を免除されているので、そういう贅沢が許されているのだ。

 

「まぁまぁ摩利。三月に修次さんとの件で散々つき合わせれたんだから、これくらい付き合ってくれても良いじゃないの。それとも、一刻も早く修次さんに甘えたいのかしら?」

 

「くっ……やけに素直に相談に乗ってくれてたと思ったら、こういう事を企んでいたのか……」

 

「あら、心外ね。悪友の相談に乗ってあげたのは、本当に善意からよ? ただ、摩利があまりにも嫌そうな顔をしてたから、あの時の事を引き合いに出しただけで」

 

「この悪女め! ……はぁ、まあいいか。それより早く入ろう。重要な話があるんだろう? 十文字も待たせてるんだろうし」

 

 

 摩利は腕時計に目をやりながら真由美のそう声をかける。どうやら摩利は早く座りたいようだ、と真由美は思った。

 

「そうね。十文字くんの事だから、絶対に時間前には来てるだろうしね」

 

 

 何だかおばさんくさい、というセリフは自重して、真由美も中に入ることに賛同する。

 

「それにしてもこの喫茶店、随分と渋い造りだな……」

 

「如何にも十文字くんが好きそうなお店よね」

 

 

 真由美と摩利は顔を見合わせて同時に噴き出した。如何にも克人らしいという感想は、どうやら摩利も同意見のようだった。

 

「そういえば摩利、修次さんとは上手くっているの? この場合、エリカちゃんと、って聞いた方が良いのかもしれないけど」

 

「か、関係ないだろ。とにかく、早く行くぞ」

 

 

 あからさまに話題を逸らした摩利を見て、真由美は後でからかおうと決心したのだった。




小悪魔キャラだけど、どことなく匂うおバカ臭……

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