劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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香澄がちょっと暴走気味……


達也からの返信

 詩奈を乗せた大型セダンは、単に広々としているだけでなく乗り心地も最高だった。リムジンでこそないが、快適さはそれ以上だったかもしれない。

 一高の駐車場を出発したセダンは、途中カートレインを利用する事も無く軽井沢まで走った。到着したのは「今時こんな館が残っていたのか」と思わず言ってしまいたくなるような古い洋館だった。ホラー映画のロケにでも使われているような雰囲気がある。現に詩奈は、車を降りて無意識にブルっと身体を震わせた。

 

「詩奈ちゃん、外は寒いでしょう? 遠慮せず中に入って」

 

 

 もう四月も半ばを過ぎた。いくら軽井沢でも寒いという程ではないが、だた外に立っていても意味は無いので、詩奈はつかさに誘われるまま館に入った。

 

「わぁ……」

 

 

 詩奈の口から、思わず感嘆が漏れる。古びた外見の洋館は、中に入ってみればクラシックな佇まいはそのままに、豪華な雰囲気を漂わせていた。

 

「詩奈ちゃんのお部屋はここ。自由に使ってね」

 

 

 つかさに案内された部屋は、ロビーに負けず劣らず、貴族趣味の豪華なものだった。特に詩奈の目を惹き付けたのは天蓋付きの大きなベッド。鏡台も金細工をあしらったアンティークなデザインで、いったい幾らするのか、それなりに高級品を使い慣れている詩奈にも見当がつかない。

 

「クローゼットの中に着替えが入ってるから。サイズは合っているはずよ。予定では一泊してもらうだけだけど、それでも必要でしょう?」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。私の方が協力してもらっているのだから、この程度当然よ」

 

「あの……家に連絡しちゃダメなんですよね?」

 

「ゴメンなさい。それもアルバイトの内だと思って」

 

「分かりました」

 

「ご飯の用意が出来たら呼ぶから」

 

 

 つかさが部屋を出ていく。鍵を掛けた音は聞こえなかったが、詩奈は試してみようとは思わなかった。私物を入れた鞄は生徒会室に置きっ放しだが、携帯情報端末は上着の内ポケットに入っている。彼女はそれを取り出して、電波状況を確認した。

 

「やっぱり……」

 

 

 思った通り、アンテナは立っていなかった。詩奈はクローゼットを開けてラフなルームウェアに着替え、天蓋付きベッドの感触を確かめた。

 彼女はつかさが親や兄に口止めしているのを知らない。生徒会の先輩や侍朗に黙って下校したのは悪かったと罪悪感を懐いているが、家族が事情を説明してくれていると思い込んでいた。詩奈は、自分が行方不明になっているとは想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 返信メールを読み終えたほのかの顔に浮かんでいる感情は、当惑だった。

 

「深雪、何だって?」

 

「達也さんからだった」

 

 

 エリカの問いに、ほのかはエリカに端末を手渡した。

 

「……なるほど。達也くんらしいわね」

 

「見せて」

 

 

 エリカが読み終えるのを待って、雫がその端末を覗き込んだ。

 

「警察に任せた方が良い、か……でも、普通の警察は動いてくれないだろうから、エリカのお兄さんたちに頼んだ方が良い、だって」

 

「何で普通の警察じゃ駄目なんですかね?」

 

 

 雫が読み上げた内容を聞いていた香澄が、首をひねりながら雫に尋ねる。だがそれに答えたのは双子の妹だった。

 

「司波先輩は、詩奈ちゃんが自分でついて行った可能性もあるから、普通の警察は取り合ってくれないと考えたのではないでしょうか」

 

「たぶんそうね。ウチのバカ兄貴なら、今は休職中とはいえ警察内部にそれなりに影響力があるし、相手が相手だもん」

 

「達也さん、『相手は国防軍の人間かもしれない』って、何処で相手の事を知ったんだろう?」

 

「あたしが教えておいた。達也くんなら知ってるかなーって思って」

 

 

 あっさりと白状したエリカに、雫がため息を漏らす。

 

「エリカ、達也さんたちは今日忙しいから休んでるんだよ? 私が達也さんじゃなくって深雪にメールしたのだって、休んでる理由は達也さんの方が重要だから深雪に教えたのに」

 

「雫も達也くんとメールしたかったの?」

 

「そうじゃないけど……」

 

 

 照れくさそうに視線を逸らした雫に、エリカはニタニタとした笑みを浮かべながら眺める。

 

「三矢家が警察に届け出るにしても、相手の危険性が分からなければ三矢家は動かないかもしれないじゃん! 達也先輩は相手の事を知ってるんだよね? 何でそこまで教えてくれないのさ!」

 

「香澄ちゃん、先ほど言いましたが、詩奈ちゃんが自分の意思でついて行っていた場合はどうしようもないのですよ?」

 

「相手が危険だと分かっていてついていくような子じゃないよ! ちょっと達也先輩に相手がどれだけ危険なのか聞きにいかないと!」

 

「ちょっと、香澄ちゃん! 司波先輩が何処に行かれているのか知っているんですか!? ……あぁ、もう! すみません、光井先輩。本日は失礼いたします」

 

 

 生徒会室を飛び出していった香澄を追いかけるように泉美も駆け出していった。その後に残された風紀委員会の端末に、雫がやれやれという目を向けた。

 

「ほのか。これ、置いてて良い?」

 

「それは、構わないけど」

 

「それで、俺たちはどうする?」

 

「決まってるじゃない。ウチには警察関係者が大勢いるの。調べようとすればいくらでも調べられる。達也くんも分かっててああいう事を書いてたんだと思うしね」

 

「公権力の私的濫用」

 

「い、良いのかな」

 

「あの達也くんが大丈夫だって思ってるんだから平気よ。ほんとミキはビビりなんだから」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

 

 問題があっても達也が何とかしてくれる、とエリカは思っていた。それは雫やほのかも同じなようで、幹比古は心配そうな表情を浮かべながらも、結局は千葉剣術道場へ向かうのだった。




警察関係に強い千葉家……ある意味最強?

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