劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あっさりと終わったけど……


詩奈奪還

 女性兵士へエリカが脇差を向け、自己加速魔法で一気に飛び込もうとしたその直前、監視の女性兵士はCADを含む武器を足下に落として両手を上げた。

 

「……降参するという意味?」

 

 

 エリカは返事があるとは思っていなかったが、その女性兵士は、エリカの言葉をあっさり認めた。

 

「投降します。自分が投降した事により、本演習は奪還側の勝利で終了しました」

 

「はぁ? 演習?」

 

 

 しかし続くセリフはエリカにも侍朗にもすぐには理解出来ないものだった。女性兵士がロックを解除し、扉を開ける。未だその意味が分からぬままだったが、心が状況に追いつく前に、侍朗の身体は詩奈を求めて部屋に踏み入っていた。

 

「侍朗くん!?」

 

「詩奈!」

 

 

 彼の目が詩奈を捕らえるよりも早く、彼の耳に詩奈の声が飛び込んだ。侍朗は勢いよく足を踏み出したが、その脚で身体が前に進むのを止めた。彼の身体は何も考えず詩奈を抱きしめようとしたが、彼の意思がそれを止めさせた。

 

「何で侍朗くんがここに?」

 

「助けに来たんだ! 詩奈、怪我はないか? 何も酷いことはされていないか?」

 

「助けに? 何で?」

 

 

 侍朗の言葉に、詩奈は心底不思議そうに尋ねる。しかし、侍朗にとっては詩奈のこの反応の方が信じられないものだった。

 

「まさか、洗脳……?」

 

「えっと、侍朗くんが何を言っているのか本気で分からないんだけど。私は国防軍の演習に協力していただけだよ?」

 

「演習……?」

 

 

 侍朗がポカンと口を開け、呟いた後も口は開きっ放しだった。エリカがドアを開けてから再び両手を上げた女性兵士に目を向ける。

 

「どういう事か、説明して貰える?」

 

「それは捕虜に対する訊問ですか?」

 

「そうよ!」

 

「でしたら、刀を下げてください。身体的な危害を匂わせる事で捕虜を脅迫する行為は、交戦法規により禁じられています」

 

「あんたねぇ! ……これでいい?」

 

「それから、腕を下ろしても良いでしょうか」

 

「――良いわよっ!」

 

 

 女性士官が表情を変えず手を下ろし「休め」の姿勢を取る。

 

「今回の演習課題は要人奪還です。奪還側と道営側に分かれ、奪還側は本日十八〇〇までに要人役の民間人をこの館から所定の場所まで送り届けるのが当初の達成条件でした。しかし奪還側に生じた事故により、この部屋に奪還側が到達した時点で状況が終了となるよう条件が変更されました」

 

「つまり? 詩奈がその『要人』役ってこと?」

 

「肯定です。三矢様には、昨日よりご協力頂いております」

 

「……あたしたちは国防軍の人間じゃないわよ」

 

「存じ上げております。しかし演習中断の通知がありませんでしたので、貴女方を奪還側として演習を継続しました」

 

「~~~っ! ……もういいわよ。あたしは国防軍の敵じゃないから、捕虜とか関係ないわ」

 

「失礼します」

 

 

 女性兵士はエリカに敬礼して、廊下を小走りに駆けていく。丸腰のままなのは、彼女の側にも敵意が無い事を証明する為だろう。

 

「まったく……とんだ茶番ね」

 

「詩奈……今の話、本当なのか?」

 

「本当って、演習の事? そうだよ。私はつかささんに頼まれて、軍の人たちに協力していたの」

 

「つかささん?」

 

「遠山つかささん。国防軍情報部の曹長さん。侍朗くん、会った事なかった? よく第三研に来てるんだけど」

 

「……知らない」

 

「それより! 何で軍の演習の邪魔をしたの!? 大怪我したかもしれないんだよ! それに何だかお咎め無しみたいな雰囲気になってるけど、公務執行妨害で捕まったらどうするの!?」

 

「公務執行妨害にはならないわよ」

 

 

 詩奈が侍朗に詰問し始めたが、エリカが横から口を出す。詩奈はこの場に第三者がいたことを思い出して、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

 

「千葉先輩……」

 

「国防軍と言えど、市街地で勝手に暴れるなんて許されないわ。演習の申請も許可も出ていないんだから、警察に捕まるのはむしろあいつらの方よ」

 

「はぁ……ですがその理屈は、一緒になって暴れた先輩たちにも適用されるのでは?」

 

「あたしたちは警察の協力者だから。ところで三矢さん。あたしの事知ってたのね」

 

「どうぞ、呼び捨てにしてください。出来れば、詩奈と呼んでもらえると嬉しいです。……千葉先輩は一年生の間でも有名ですから」

 

「そう。んじゃ詩奈。侍朗を弁護するわけじゃないけど、こいつが無茶をするのも仕方が無いと思うわよ? だって詩奈は、誘拐されたと思われてたんだから」

 

「えっ!?」

 

 

 エリカの言葉に詩奈が硬直する。数秒を経てぎこちなく侍朗に顔を向け「本当?」と尋ねた。

 

「そうだよ! 千葉先輩だけじゃなく、香澄さんと泉美さんもここに来ている。光井先輩や北山先輩にもずいぶん心配掛けて……大騒ぎだったんだぞ」

 

「そんな……だって、つかささんがちゃんと話してあるって」

 

「詩奈が悪いとは言わないわ。どうせ、上手いこと言いくるめられたんだろうから」

 

「あぅっ……」

 

「でも、心配掛けた分はちゃんと謝っときなさいよ」

 

「はい、千葉先輩、申し訳ございませんでした」

 

 

 素直に頭を下げる詩奈。これにはエリカも毒気を抜かれてしまう。

 

「……いや、あたしはいいから。ほのかとか雫とか泉美たちに」

 

「はい、分かりました」

 

「……何かやりにくいわね」

 

 

 エリカがボソッと呟く。美月のように天然気味というわけでもない。詩奈はあまりにもクセが無さ過ぎて、エリカにはかえって扱いにくかった。

 

「話は変わるけど」

 

「はい」

 

「詩奈、さっき『情報部』って言わなかった?」

 

「はい、つかささんは国防軍情報部で防諜のお仕事をされているとうかがっています。それが何か?」

 

「別に。情報部ね……達也くんが言ったとおりだわ」

 

 

 後半のセリフは詩奈の耳には届かなかった。エリカは情報提供者の顔を思い浮かべ、苦笑いを浮かべたのだった。




怒ってたはずが逆に怒られる侍朗……
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