劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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誰かを何処かで完堕ちさせたいな……


ピラーズ・ブレイク決勝戦

 ミーティングルームに到着した達也は、室内に深雪、雫、エイミィが居るのを此処に到着する前から知っていたが、他の人にはその事は知りようが無い。だから達也が呼ばれてる事に驚いた三人に、達也は少し驚きを覚えたのだ。

 

「時間に余裕がある訳じゃありませんから手短に言います」

 

 

 達也を含め、彼女たちを呼んだのは真由美。そしてミーティングルームにいたのも真由美一人だった。

 

「決勝リーグを同一校で独占するのは今回が初めてです。司波さん、北山さん、明智さん、ほんとに良くやってくれました」

 

 

 丁寧に、静かに、慌てて、三者三様ではあったが、三人は同時にお辞儀をして真由美の賛辞に応えた。

 

「この初の快挙に対して、大会委員会から提案がありました。決勝リーグの順位に関わらず学校に与えられるポイントの合計は同じになりますから、決勝リーグを行わず、三人を同率優勝としてはどうかと」

 

 

 三人が顔を見合わせる中、達也は皮肉げに唇を歪めた。

 

「(どう建前を取り繕っても、自分たちが楽をしたいだけなのが丸分かりだ)」

 

「時間はあまりありませんので、出来ればこの場で決めて下さい」

 

 

 真由美の言葉に、エイミィが視線を泳がし始めた。彼女自身、自分の実力じゃ深雪にも雫にも勝てない事が分かってるからだろう。

 さっきまでは三位で十分と思っていたのだが、同率でも優勝の可能性が出てきたとなれば、色気を出すなと言う方が無理だろう。

 

「達也君、貴方の意見を聞かせてくれないかしら。三人同時となると貴方もやり難いでしょうし」

 

「正直に言いますと、明智さんはこれ以上の試合を避けた方が良いコンディションですね。三回戦は激闘でしたので、あと一時間や二時間程度で回復出来るとは思いません」

 

 

 真由美の思惑を正確に把握した達也だったが、彼がその思惑を慮る必要は無い。ただ彼が知ってる事実のみを告げた。

 

「あの、私は今のお話をうかがう前から棄権でも良いと思ってました。体調が良く無いのは事実ですし、達也さんに相談してから決めようって……達也さんは私よりも私のコンディションが分かってますから」

 

 

 エイミィが辞退を表明したが、雫は違うようだ。彼女の目はずっと深雪に向いている。

 

「私は……戦いたいです。深雪と本気で競える機会なんてこの先何回あるか……私はこのチャンスを逃したくないです」

 

「そうですか……深雪さんは如何したいですか?」

 

「北山さんが私との試合を望むのであれば、私にお断りする理由はありません」

 

「そうですか……では大会委員には明智さんは棄権、司波さんと北山さんで決勝戦を行うようにすると伝えておきます」

 

 

 真っ先に一礼して部屋を辞したのは達也。その背中に続くように、深雪と雫が真由美にお辞儀をして、慌ててエイミィが「失礼します」と言って頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客席は超満員だった。二人のCADの調整を済ませた達也は、深雪にも雫にもつく事無く関係者観戦席の最後列に席を取っていた。

 彼の両隣には、真由美と摩利の姿もある。本当は一人で見る予定だったのだが、運悪く二人に捕まったのだった。

 

「本当は深雪さんの方につきたかったんじゃないの?」

 

 

 せっかくの良い話をぶち壊しにするように、人の悪い笑みを浮かべた真由美がそう問いかける。どうも彼女は達也に対すると子悪魔の度合が増すようだ。

 

「別にそのような事はありませんが、出来れば一人が良かったですね」

 

「何だい、あたしたちが邪魔だと言うのかい?」

 

「そうではありませんが、落ち着いて観戦するには、やはり一人の方が都合が良かったんですよ」

 

「都合って?」

 

 

 達也の言葉に引っかかりを覚えた真由美が小首を傾げたが、達也はその疑問には答えなかった。

 

「始まりますね」

 

「え、えぇ……」

 

 

 達也の視線が急に鋭くなったので、真由美は少し戦いた。だがそれと同時に彼女の顔が若干惚けたように摩利には見えたのだった。

 

「(真由美のヤツ、やはり達也君の事が……)」

 

 

 親友に(本人たちは悪友と言って聞かないが)漸く春が訪れるのでは無いかと思えた摩利だったが、達也の競争率はかなり高め。いくら真由美と言えどもそう楽な戦いにはならないだろうなと、決勝戦そっちのけでそんな事を考えていた。

 試合は表面上は互角。深雪の『氷炎地獄』が雫の陣地を襲うが、氷柱は持ちこたえていた。氷柱の温度改変を阻止する『情報強化』がなんとか『氷炎地獄』の熱波を退けているのだ。

 

「(届かない! さすがは深雪!)」

 

 

 雫の『共振破壊』は敵陣から完全にブロックされている。

 

「(だったら!)」

 

 

 雫はCADをはめた左腕を右の袖口に突っ込んだ。引き抜いた手に握られていたのは拳銃形態の特化型CAD。それは達也が雫に持たせた切り札だった。

 

「(二つのCADを同時操作!? 雫、貴女それを会得したの?)」

 

 

 雫の行動を見て、深雪の内心は穏やかでは無かった。二つのCADを同時操作するのは、彼女の兄の得意技(特異技)とも言える難度の高いテクニックだ。それを成功させた雫を見て、深雪の魔法が一瞬止まった。

 そこへ雫の新たな魔法が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫の新たな魔法に一番驚いたのは、深雪では無く真由美だったかもしれない。関係者用の観客席で真由美は大声を上げた。

 

「『フォノンメーザー』っ!?」

 

「良くお分かりですね」

 

 

 振動系魔法『フォノンメーザー』――超音波の振動数を上げ量子化して熱線とする高等魔法だ。達也が深雪を倒す為に雫に授けた作戦だが、彼の表情は冴えなかった。

 深雪がやられそうだからではない。結局この程度ではあの妹を凌駕する事は出来ないと分かってしまったからだ。

 熱線化した超音波射撃を受けていた深雪が魔法を切り替えた。雫の攻撃が止まった訳では無いのに、氷の昇華が止まり、それを上回る冷却が作用し始める。

 雫が『情報強化』の干渉力を上げたのが深雪と達也には分かったが、それでも深雪には勝てない。

 押し寄せてくる霧は冷気。温度変化を妨げるこの魔法は、この攻撃には意味が無い。

 

「……『ニブルヘイム』……だと? 何処の魔界だここは……」

 

 

 摩利の呻き声が、真由美と達也の耳にも届いた。 

 広域冷却魔法『ニブルヘイム』。この術式は本来領域内の物質を比熱、フェーズに関わらず均質に冷却する魔法。だが深雪が発動してるのはその応用的な使い方であり、その威力が最大レベルに上げられていては、雫には成す術が無かった。

 轟音を立てて雫の氷柱が一斉に倒れた。その轟音は氷柱が倒れた音だったのか、根元を掘り崩された音だったのか、はたまた蒸気爆発そのものの音だったのか……氷柱はその表面が粉々に弾けていて、爆発の激しさを物語っている。

 その光景に度肝を抜かれた訳では無いだろうが、一拍遅れて試合終了が告げられたのだった。

 

「それでは俺はこれで」

 

「え、えぇ……」

 

「ご苦労だった……」

 

 

 今の光景を見ても、全く動じない達也を見て、真由美も摩利も色々と聞きたい事があったのだが、言葉にする事は出来なかったのだった。




最近流行りの壁ドンでもやらせてみようかな……

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