劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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しれっとリーナの片言語を止めました


危ない会話

 引っ越してきたばかりだが、キッチンには食材が豊富に用意されているし、茶葉も選ぶのに時間がかかりそうなくらい用意されていた。

 

「普通の日本茶でいいかしら?」

 

「かまいませんよ」

 

 

 達也が答えた後、他のメンバーも頷いたのを見て、響子がお茶の用意をする。これは抜け駆けとかではなく、響子の純粋な好意なので、誰も文句は言わない。

 

「このメンバーでお茶をすることになるなんて、初めて会った時には思ってもみなかったわね」

 

 

 笑いながら湯呑をそれぞれの前に置く響子の言葉に、愛梨とリーナが頷く。残った夕歌と亜夜子は、ここまで親しい間からになるとすら思っていなかったのだ。

 

「これも達也くんがつないでくれた縁かしらね」

 

「達也さんがいなければ、私と夕歌さんは貴女たちとこうして話す事も無かったでしょうし、そうかもしれませんね」

 

「私は、達也様とお付き合いが無かったら、リーナさんと出会う事も無かったでしょうね」

 

「そもそも私は、達也と縁が無かったら、こうして日本にいなかったでしょうし」

 

 

 響子の『縁』という言葉に、それぞれ違う形で同意する。そんな光景を、達也は苦笑いを浮かべながら眺めていた。一年の時の九校戦の際にも思っていた『こういう人の縁は分解できない』という過去の自分の言葉が、こうしてまた自分に戻ってくるなど思っていなかったのである。

 

「深雪さんには悪いけど、まさか深雪さん抜きで達也さんとお茶を飲む日が来るとは思ってなかったのは確かね」

 

「達也さんは兎も角深雪お姉さま優先でしたからね。まぁ、そういう風にされてしまったわけですし、仕方ないとは思っていましたが」

 

「そういえば、達也様は感情の殆どを消されてしまっているのでしたね。ただ、その『魔法事故』というのはどういった物なのですか? 詳しい事は何も教えていただけませんでしたし」

 

「そういえば私も、事故とは聞かされたけど、それ以上の説明は無かったわね」

 

 

 亜夜子がしまったという表情を浮かべたが、達也と夕歌の顔には表情らしい表情は浮かんでいなかった。また、その事故の内容を知っている響子は、そっと二人から視線を逸らした。

 同じ婚約者でも、知っている内容は異なる。その一つがこの「魔法事故」だ。

 

「事故の内容は俺も詳しくは知らない。目が覚めたらそうなっていたし、それ以前の記憶は曖昧にしか残っていなかったからな」

 

「そうなの? そういえば、その頃達也と深雪は、今みたいにべったりじゃなかった、とは聞かされたけど……記憶が曖昧だったからなの?」

 

「それもあるだろうが、一番は俺たちが『四葉』だという事だろうな。十師族の中でも、その頂点とさえ言われている四葉家の人間が、大した魔法を使えないとされていたんだから、深雪の母親が俺から遠ざけたいと思っても無理はない」

 

「兄妹だったとしても?」

 

「それが魔法大家、という事だろ。現に今年の新入生に、幼馴染だが家の事情で距離を作られた二人がいる」

 

「三矢詩奈さんと矢車侍朗さんですね?」

 

 

 名義上三高に籍がある愛梨だが、今年から一高の端末を使って授業に参加しているので、一高の事情も知っている。だから達也が例に挙げた二人の事もすぐに分かった。

 

「矢車には人とは違う能力があるが、人と同じ能力が無かっただけで魔法師として大したこと無いと判断され、そして優秀な人間から距離を取られたり、その周りの人間から距離を取れと言われる」

 

「達也くんが言うと、なんだか重みが違うわね」

 

 

 言葉だけ聞けば茶化しているように聞こえるが、響子はいたって真面目な表情で頷いている。また夕歌も、沈鬱な表情を浮かべながらも、達也の言葉を否定することなく受け入れていた。

 

「家の事情という、非常に馬鹿らしい理由で距離を取らなければいけないなんて、十師族って面倒なのね」

 

「君だって一応は十師族の一員、という事になったんだろ?」

 

「九島家は今、師補十八家に格下げされたから。誰かの母親の所為でね」

 

「別に母上が仕組んだことではない。あの人は『七草家』を降格させたかったのだから」

 

 

 リーナの冗談に対して、達也は大真面目で言い放つ。その言葉がどれだけの威力を持っているかなど、彼が考える必要などないので、特に気にした様子もなく。

 

「達也様……今のはさすがに外では言えないですわね」

 

「そもそも師族会議の内容は、後継者であろうと聞かされない事が殆どだ。話したところで『冗談』で済ませる事が出来るだろう。実際降格したのは九島家なら尚更だ」

 

「ほんと、達也には驚かされっぱなしね。最初達也も忍者なのかと思ったもの。右腕が消えたと思ったのに元に戻ったのも、忍術か幻術かと思ってたし」

 

「右腕が消えた? どういう事でしょう?」

 

「リーナが初めて日本に来た時、俺とリーナは敵対していた、ということだ」

 

 

 さすがにヘヴィ・メタル・バーストの事を話すわけにはいかないので、達也はお茶を濁して話題を切り上げた。

 

「そこからよく婚約者まで上り詰めましたわよね。普通なら四葉家全てを敵に回していたかもしれませんのに」

 

「達也が私を助けてくれたから、せめてもの恩返しとして私自身を達也にささげる事にしたのよ。その思いを、九島将軍が後押ししてくれただけ」

 

 

 亜夜子の嫌味に対して、リーナはウインクでもしそうな雰囲気で答えた。恐らく亜夜子の嫌味が通じなかったのだろうと、リーナを除く五人はそろってため息を吐いたのだった。




達也の方は兎も角、リーナの方は知らない人もいますし

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