劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ここの会話は物騒だな……


リーナの疑問

 達也に手料理を振る舞おうと企画した五人だったが、まずリーナは除外された。本人も理由を把握しているため、大人しくリビングで完成を待つことになり、さすがに四人で作るのもということで、いろいろあった結果愛梨と亜夜子が料理を担当する事になった。

 

「あの二人で大丈夫なのか?」

 

「達也さんが何を心配しているのか分からないけど、亜夜子ちゃんの料理の腕はかなりのものよ」

 

「まぁ、チョコの出来具合からそれなりに出来るのは知っているが」

 

「達也くんの基準は深雪さんになってるものね。あのレベルを超えないと相当な腕とは言われないんでしょうし」

 

「そうなの? もしそうなら、私はどれくらい修行すればいいのよ……」

 

 

 自分の料理の腕が壊滅的だと自覚しているリーナは、絶望に染まった表情で達也に泣きつく。達也としてはそんなことで泣かれても困るのだが、響子と夕歌は面白いものを見ているような目で、二人を観察していて助けてくれそうにない。

 

「苦手なものは誰にでもある。それを克服しようとするのは良い事だが、高過ぎる目標設定は挫折の元だ。まずは普通に料理が作れるように頑張れば良いんじゃないか?」

 

「達也……貴方、人並みに人の事を心配出来るのね」

 

「随分な言い草だな……そんなに婚約解消されたいのか?」

 

「じょ、冗談よ! まったく、達也って表情が読みにくいからおちおち冗談も言えないわね……」

 

「もちろん、俺の方も冗談だったのだが?」

 

 

 鉄壁のポーカーフェイスに撃沈したリーナは、姿勢を戻して決意を新たにする。

 

「達也の言う通りね。まずは普通に作れるようになるところから始めないと意味がないわね。出来もしないのに究極を目指したって、実力差に絶望するだけだって、何で気づかなかったんだろう」

 

「それはリーナさんが深雪さんの事を必要以上にライバル視しているからではありませんか?」

 

「あの事件の時に、深雪さんの実力の一部を見たリーナさんなら分かると思うけど、深雪さんをライバルにしようだなんて、かなり無謀な挑戦なのよ?」

 

「二人とも、深雪が聞いたらエライ事になりそうなことを言わないでください」

 

「深雪さんはいないんだし、盗聴の心配もないんだから、これくらいの冗談くらい言わせてよ」

 

 

 ウインク混じりに冗談を言う響子につられて、達也も苦笑いを浮かべながら肩をすくめてみせる。たまの息抜きくらいならと思ったのだろう。

 

「次の引っ越し予定者って誰なのかしら?」

 

「母上から貰った予定表には、エリカ、ほのか、雫、エイミィ、スバル、紗耶香さんの六人ですね」

 

「あら? 真由美さんはいないのね」

 

「よっぽど深雪を広告塔に仕立て上げようとしたことが気に入らなかったのでしょう。俺も、その気持ちは理解出来なくもないですし」

 

「理解出来なかったら、あの場であのような態度を取らなかったんじゃないの?」

 

「達也くんのは鋼の闘気だからね。良く研がれた刀のような雰囲気だから、実戦を知っているもの程戦くのよ」

 

「私が対峙した時も、達也の闘気は物凄かったと思ったわ。でも、七草家がそんなことを画策しているというなら、真由美や香澄の婚約って大丈夫なの? もしかしたらスパイ工作かもしれないんじゃない?」

 

 

 リーナの問い掛けに、夕歌と響子も頷いて考え込む。少なくとも真由美と香澄は達也と、泉美は深雪と懇意にしたいというのは三人の行動から見て取れるが、ここにきて真由美は本気なのかと疑いたくなるような動きがみられるようになり、その裏には七草家の陰謀があるのではないかと邪推しているのだ。

 

「さすがに四葉家の内情を外に流すようなことをすれば、俺に『消される』と分かるだけの知識はあるはずですから、そこまで考え込まなくてもいいと思いますよ」

 

「達也くんが言うと洒落にならないわね……」

 

「そういえば藤林さんは達也さんの魔法を何度も見ているんでしたね」

 

「これでも軍属ですからね……初めて見た時は信じられなかったわ」

 

「まぁ、普通はそういう反応をするでしょう。私たちだって、初めて見た時はそうでしたから」

 

 

 響子は今でも『トライデント』を見る時は視線を逸らしたりするが、さすがは四葉家の縁者と言うべきか、夕歌はまったくもって気にすることなく見る事が出来るようになっている。

 

「私はまだ、ちゃんと達也の魔法を見たことが無いんだけどね」

 

「あら。リーナさんは見ているはずでしょう? 達也さんに魔法を消されて、消し飛ばしたはずの腕が生えてきたなんて、普通ならありえないんだから」

 

「だから『再成』の方は理解したけど『分解』の方が今一つなのよね……だって、達也は魔法の無効化が得意なわけでしょ? 夕歌や響子が身の毛もよだつ? ような体験とは思えないもの」

 

「また珍しい日本語を……」

 

 

 今ではあまり聞かなくなった日本語を使ったリーナに、達也は苦笑しながらツッコミを入れる。夕歌と響子も似たような表情を見る限り、リーナはまたおかしな日本語を使ったのかと反省する。

 

「使い方は間違っていないし、特に問題は無いんだがな……最近はめっきり聞かなくなったから」

 

「まぁ、あれは確かに身の毛もよだつと表現するしかないわね……」

 

「出来ましたわ」

 

「お待たせしました、達也さん」

 

 

 タイミングよく亜夜子と愛梨が料理を持ってきたので、この話題はここで打ち切られた。まだ少し聞きたそうなリーナではあったが、二人の料理を前にそんなことは忘れてしまったのか、以後この事を掘り返す事はしなかった。




腕消し飛ばしてよく婚約者までやってこれたよな……

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