達也としては一人でゆっくりと湯船に浸かりたかったのだが、さすがに五対一では分が悪いということで、諦めて五人と入ることにした。
「こうして達也さんと一緒にお風呂に入ることが出来るなんて、夢にも思いませんでしたわ」
「まぁ、私たちの幼少期は普通とは違ったからね。普通なら親戚付き合いがあって、同年代で一緒にお風呂に入ることもあったかもしれないのにね」
「四葉家が特殊、というより、達也くんが特殊と言った方が良いかもね、貴女たちの場合は」
亜夜子、夕歌、響子が談笑している横で、愛梨とリーナは達也の身体にある無数の傷痕に驚いていた。軍属であったリーナは、それほど盛大に驚いている様子では無かったが、愛梨の驚き方は予想外だった。
「た、達也様……その傷痕はいったい……」
「あら? そういえば達也さんの傷痕の事、説明していなかったんでしたっけ?」
「まぁ、普通あんなこと聞かされても信じませんし、仕方ないのではありません?」
「お二人はご存じなのですね?」
達也の傷痕について当然のように話す夕歌と亜夜子に、愛梨は詰め寄って尋ねるが、すぐに彼女たちではなく達也に聞くべきことだと思い直し二人に頭を下げる。
「知っているメンバーの方が多いと思っていたが、母上は説明していなかったのか」
「恐らく知っている方が少ないと思うわよ? 今日のメンバーは二人身内で、私は何度か見た事あったから驚かなかったし、それを見た時の『普通』の人がどういう反応をするかという事を失念していたけど」
「リーナは兎も角、愛梨には先に説明しておくべきだったか」
「何で私は兎も角なのよ」
響子が「普通」という言葉に強調して、達也が「愛梨には」と言ったことに、リーナは頬を膨らませて抗議する。まるで自分が「普通」じゃないとでも言いたげじゃないかと、彼女は抗議したのだ。
「今の反応の違いを見れば、少なくともリーナは『普通』じゃないだろ? 普通の女子は、愛梨のような反応をするものだ」
二年前の夏、北山家が保有する別荘での時もそうだが、この傷痕を見た時の反応は、武術を修めているエリカとその他とでは違った。全員驚きはしたが、やはりエリカだけは少し落ち着いていたように見えたのだ。
「普通の人間は傷痕に驚くが、知識がある人間は傷痕の原因に驚くんだ」
「原因、ですか……?」
「刺し傷、切り傷、火傷の痕……原因によって残る痕が違うのよ」
リーナに言われて漸く、愛梨にも傷痕に違いがあることが分かった。そして、この傷痕が達也が努力してきた証だという事に思い至り、驚いたことを恥じる。
「申し訳ございません、達也様……」
「何故愛梨が謝る」
「傷痕の理由を考える前に、気味が悪いと思ってしまったので……」
「それが普通の感想だ。あまり気にするな」
「ですが! 達也様の努力を、私は『気味が悪い』と思ってしまったのですよ! 謝って済む問題ではありませんが、謝罪はさせてくださいませ」
「……一色さん、達也くんにそういう感情は無いから大丈夫よ。もちろん、達也くんだってこの傷痕を見られたらどう思うかなんて分かってたんだから、必要以上に謝ることはないわよ。ね?」
「そうですね。感情云々は置いておくにしても、愛梨が必要以上に罪悪感を懐く必要はない」
「……分かりましたわ。達也様、ありがとうございます」
何に対してのお礼なのか、達也には理解出来なかった。だが、それを尋ねるような失礼な真似はしない。
「終わりましたか? それではさっそく入りましょうか」
「黒羽さんは落ち着いているのね……この中で一番年少ですのに」
「私は四葉家の分家筋の人間ですので。達也さんがどんな特訓をしていたのかも、全て知っていますもの。実際に刺され、斬られ、焼かれ……普通の人間なら気が狂いそうになるような思いにも耐えられたからこそ、今の達也さんの強さがあるのですから」
「そう…ですわね……横浜の時も、達也様の強さに助けられたのですから」
横浜事変の事を思い出し、愛梨は改めて達也の強さに感謝する。達也がいなかったらあの場から逃げられなかったという考えは、決して大袈裟ではない。
「さぁ、もう達也さんの過去について話すのはおしまいにして、目の前の達也さんの事を考えましょう」
「服の上からでも思ったけど、かなり逞しいわよね、達也って」
「この身体にくっつけるのは深雪お姉さまだけだと思っていましたが、こうして直にくっつける日が来るとは」
「ご当主様でも、服の上からでしたからね」
「四葉家のご当主は、達也くんにべったりだって噂を聞いたことがあるけど、どうやら大袈裟って感じじゃなさそうね」
「それはもう。ご当主様は達也さんを溺愛していますから。本当の力が封じられている内から、達也さんを次期当主にしようとしていたくらいですから」
「周りが黙っていませんでしたが、本来のお力を開放されてからは誰も文句を言わなくなりましたものね。裏では言っているのかもしれませんが」
「意外と面白いんですね、四葉家の内情って」
今の話を聞いて、何処が面白かったのかと達也は思ったが、同じように外部の響子とリーナも楽しそうにしているのを見て、外から見ればそれが普通なのかと考え、その疑問を頭の隅に追いやったのだった。
自分の非を認められる愛梨はいい子