劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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やはり水波は不憫としか言えないな……


数時間の我慢で…

 学校があるのにもかかわらず朝から新居にやってきたエリカ、雫、ほのかを加えて、高校生は朝食を済ませて出かける準備をする。ちなみに、朝食を用意したのは時間的余裕がある夕歌だ。

 

「エリカたちは何故この時間に? エイミィやスバルのように、放課後こっちに来ればよかったんじゃないか?」

 

「あたしは一刻も早くあの家を出たかったからよ。朝話した通り、行き遅れババアと陰険クソオヤジの顔を見たくなかったし」

 

「私たちは小父さんがあまりにも別れを惜しんで、昨日盛大にお別れ会を開いてくれたので、早めにこっちに来ないとまた引き止められると思ったので。ねっ、雫」

 

「うん」

 

 

 いい年して娘との別れを惜しむ父親を恥ずかしいと感じているのか、雫は俯きながら答える。父親というものに縁が無かった達也と、父親との関係が最悪のエリカは、そんな雫を愛おしく感じていたのか、二人揃って雫の頭を撫でる。

 

「そういえばリーナもいるんだよね? 後でからかってやろうかしら」

 

「あんまり派手に争うのだけは止めてくれよな。面倒だから」

 

「別に家をぶっ壊すまで暴れるつもりは無いし、そうなっても達也くんなら問題ないでしょ?」

 

「無機物だから問題ないが、なるべくなら壊さない方向で落ち着いたほうがいいだろ」

 

「まぁ、そうね」

 

「それじゃあ夕歌さん、俺たちはそろそろ出ますので」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 達也たちを見送る夕歌は、何故か幸せそうな笑みを浮かべている。達也はその笑みの意味が分からなかったが、一緒に出掛けるメンバー全員は、夕歌の笑顔の意味を理解していた。

 

「私たちもその内、達也さんを見送ることがあるのでしょうね」

 

「今から緊張しますわ」

 

「それの何処に緊張する要素があるんだ?」

 

「達也くんは相変わらずね……」

 

「まぁ、そこが達也さんの良い所でもあるから」

 

 

 亜夜子と愛梨が緊張しているのを見て首を傾げた達也を見て、エリカと雫が呆れながらも笑みを浮かべて頷く。

 

「あのですね、達也さん。達也さんを見送るというのは、旦那様を見送るというのと同意なんです。だから私たちも今からドキドキしてるんですよ」

 

「そういうものか」

 

 

 ほのかの説明を聞いて、漸く意味を理解した達也は、周りにいるメンバーの目がいつも以上に輝いている事に気が付く。恐らく深雪抜きで達也と一緒に行動している事が嬉しいのだろうと、達也はそう決めつけて最寄りの駅までの道のりを進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也がいない家で目覚め、達也がいないリビングで食事を済ませた深雪は、まるで達也を求めるかのように駅へ向かい、一高の最寄り駅で達也が現れるのを待ってきた。

 

「深雪様、学校で待たれた方がお身体が冷えないのでは……」

 

「大丈夫よ、水波ちゃん。私は氷属性ですから」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 いくら春先とはいえ、何時間も外で立っていればそれなりに身体は冷える。この程度で音を上げる水波ではないのだが、ガーディアンとして、そしてメイドとして深雪の体調を心配するのは当然だ。だが深雪はこの程度の寒さで体調を崩すはずもないと自信を持っているので、水波の忠告は深雪には響かないのだ。

 

「この気配はっ!」

 

「み、深雪様?」

 

 

 急に走り出した深雪を追いかける水波は、深雪がこうなった理由に心当たり、漸く一息つけるとホッとしていた。深雪が走り出した理由は当然、達也の気配を感じ取ったからである。

 

「達也様!」

 

「深雪? おはよう」

 

「おはようございます、達也様! お会いできて、とても幸せです!」

 

「大袈裟ね、深雪。今までだって達也くんと別々の場所で朝を迎えたことあるでしょ?」

 

 

 今にも抱きつきそうな勢いの深雪を見て、エリカが呆れながらツッコミを入れる。だが深雪の視界にエリカは入っていないので、そのツッコミも当然聞こえていなかった。

 

「僅か一日だけとはいえ、達也様がいらっしゃらない家で迎える朝は、とても寂しゅうございました」

 

「さすが深雪……周りに私たちがいる事に気付いていないなんて」

 

「それだけ達也さんに依存してるんだろうね」

 

 

 人目を気にしない――ではなく、人目があることを忘れている深雪の態度に、雫とほのかが引き攣った笑みを浮かべながら感想を述べる。

 

「深雪、少し落ち着け。ここで固まっていたら他の人の迷惑になるから、とりあえず学校に行くぞ」

 

「分かりました」

 

 

 達也にそういわれ、深雪は物分かり良く頷き、当たり前のように達也の腕に自分の腕を絡みつけた。

 

「さすがは司波深雪。当たり前のように達也様と腕を組むとは……」

 

「深雪お姉さまは、中学の頃から達也さんにべったりでしたから、たかが一日だけでも相当な精神的ダメージを負ったのでしょうね」

 

「でも、これからは達也様はあの家で生活するわけですし、これから先はどうするのでしょうか?」

 

「週末には元の家に戻られますので、それまではこうして駅で待ち伏せするのではないかと」

 

「まぁ、深雪だしね~」

 

 

 亜夜子の推測にエリカが呆れ気味に同意する。学校でも一緒にいられる時は殆ど一緒に行動しているのだから、それくらいはやりそうだとエリカも思っていたのだ。

 

「水波さんも大変ですね」

 

「いえ、私はこのくらい大丈夫ですので」

 

 

 亜夜子が水波に同情するが、水波はメイドとしての務めだとその同情は不要だと言い切る。そんな彼女たちの目の前では、深雪が思いっきり達也に甘えている光景が繰り広げられており、全員朝から胸やけしそうな思いをしながら学校までの道のりを進むのだった。




深雪の甘えレベルが上がった……

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