劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女はからかわれて輝くタイプですから


からかい甲斐の無い人と有る人

 学校まで達也にべったりだった深雪は、とりあえず教室に向かう為達也と別れた。一科生と二科生、魔工科生と昇降口が違うので仕方ないが、もし一緒だったら教室までべったりだったりに違いない。

 

「おはよう。見ていたが深雪は司波君と別れられないんだね」

 

「私たちも朝から引っ越せばよかったよ~」

 

 

 今日新居に入るメンバーの内、朝から行かなかったスバルとエイミィが昇降口で合流し、一科生たちは教室に向かう。

 

「それにしても深雪、まだ半日も経ってないんでしょ? そんな調子で大丈夫なの?」

 

「私も、あそこまで達也様欠乏症になるとは思ってなかったわ。ちゃんとお電話も貰って、心配していただいていると分かっていたのに」

 

「電話? 達也さんから電話してもらってるの?」

 

「寝る前に達也様にご挨拶しなければ眠れないのよ。お仕事で忙しい時は兎も角、中学からの習慣だから」

 

「中学から? そういえば達也様と司波深雪は幼少期はあまり仲が良くなかったとか」

 

「まぁ……いろいろとありましたから」

 

 

 愛梨の質問に、深雪は視線を逸らしながら誤魔化す。その「いろいろ」の全てを知っている亜夜子は、深雪と同じように視線を逸らした。

 

「私はここで失礼しますわね」

 

 

 タイミングよく亜夜子はこの集団から抜け出し、深雪が恨みがましい視線を亜夜子の背中に送ったが、気付かないふりをして教室に逃げ込んだ。

 

「まぁ、深雪と達也さんの過去は、四葉家の闇とも言える事らしいから、あんまり深く踏み込むと大変だって前に聞いた」

 

「そういえばそんなこと言ってたね。結婚したら教えてもらえるのかな?」

 

「どうだろう……まぁ、今は深雪が達也さんにべったりだという事実だけ分かれば良いんじゃない?」

 

「でも、あんまりべったりが過ぎると、その内限界突破して暴走しちゃうんじゃない?」

 

 

 エイミィがイタズラっぽい笑みを浮かべながら呟くと、全員がその光景を想像して寒気を覚えた。

 

「大丈夫よ。そうなる前に新居に行くつもりだから。会えないのなら会いに行けばいいだけだもの」

 

「てか、テレビ電話だってあるんだから、それで我慢出来ないのかい?」

 

「達也様のお顔を拝見してしまったら、触りたくなっちゃうでしょ?」

 

「そ、そうかい……」

 

 

 昔から「重度のブラコン娘」と陰で言われていたが、まさかこれほどまでだったとはスバルも思っていなかったようで、深雪の答えにそれしか返せなかった。

 

「とにかく、学校にいる間は達也様に好きなだけ触れますから、今はそれで我慢するわ」

 

「てか、私たちも達也さんと一緒にいたいから、それは許してよね?」

 

「もちろんよ。二人きりになったら何をするか分からないもの」

 

「それ、自分で言う事じゃない」

 

 

 雫のツッコミに、深雪以外全員が同意し頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔工科のクラスでは、美月と千秋が談笑していた。そこに達也が現れると、二人は同時に達也に挨拶をする。

 

「おはようございます、達也さん」

 

「おはよう、司波君。相変わらず妹さんと仲良しなんだね」

 

「平河さん、もう深雪さんは『妹』ではありませんよ?」

 

「でもどう表現すればいいのか分からないじゃん? 婚約者は沢山いるわけだし」

 

「それはそうですけど……」

 

 

 千秋の反論に何も言えなくなってしまった美月は、困ったように視線を達也に向けたが、当然の如く達也からのフォローは無かった。

 

「あんまり仲がいいところを見せつけられると、私も我慢出来なくなるんだけど?」

 

「千秋は明日だろ」

 

「何でこのメンバーなのか分からないけど、まぁ明日は覚悟してよね」

 

「別に今いるメンバーとだって、大したことをしているわけじゃないんだが」

 

「そうなの?」

 

「いったい千秋は何をしていると思っているんだ?」

 

 

 達也の質問に、千秋は気恥ずかしそうに視線を逸らした。それだけで千秋が何を考えていたのか理解した達也は、これ以上の追い打ちは面倒になると考えて話題を変えた。

 

「美月の方は、もう噂は落ち着いたようだな」

 

「達也さんのお陰です。私も吉田君も、あの噂には困っていたので」

 

「そうなの? でも柴田さんも吉田委員長も、互いに意識してるのバレバレなのに、何で付き合わないの?」

 

「ひ、平河さんっ!」

 

「冗談だから……そんな顔を真っ赤にして叫ばなくても聞こえるよ」

 

「美月の悲鳴が聞こえたかと思ったら、またミキとの事を言われてただけか」

 

「エリカちゃん!」

 

 

 窓から顔を出して美月をからかったエリカに、美月が大声を出して詰め寄る。そんな美月を見て、エリカは笑顔で両手を顔の前で合わせて軽く頭を下げる。

 

「別にからかうつもりは無いわよ。あんたたちにはあんたたちなりのペースがあるんだろうし、周りがとやかく言う問題じゃないって、達也くんにも言われたしね~」

 

「別に無理にくっつく必要はないが、美月と幹比古は俺から見てもお似合いだと思う」

 

「もう、達也さんまで……」

 

 

 他の人と違う感じのからかいに、美月は結構本気で照れてしまい、それがバレないようにと必死に俯いて視線を逸らした。

 

「あっ、照れちゃって可愛い~」

 

「エリカちゃん!」

 

「うわっ! ゴメンってば~」

 

 

 追い打ちをかけたエリカを追いかける美月を眺めながら、魔工科クラスにはほっこりとした空気が流れた。

 

「柴田さんは癒しだね」

 

「あんまりからかってやるなよ」

 

「とどめは司波君じゃなかった?」

 

「エリカだろ」

 

 

 真顔で責任転嫁をする達也を見て、千秋は声を抑えて大笑いしたのだった。




からかわれてほっこりされる美月……

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