劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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一高内が色めきだってる……


学内の話題

 朝から深雪に付き合わされて早い時間から駅前で待っていた水波は、それなりに目立っていた。ただでさえ四葉家の関係者として注目されているのに、一切周りを気にせず一点を見詰めている深雪の側にいたので、深雪だけではなく水波も不審な目を向けられていたのだ。

 

「ねぇ水波」

 

「何でしょうか、香澄さん」

 

「今朝はどうしてあんな所に突っ立ってたの?」

 

「香澄ちゃん、言い方があるでしょうが」

 

 

 クラスメイトの香澄と、遊びに来ていた泉美に尋ねられ、水波は今朝の経緯を話す。

 

「達也さまが元々の家を出られたのはご存知ですよね?」

 

「うん。明日はボクもそこに引っ越す事になってるからね」

 

「つまり、今司波家では深雪様と私の二人だけで生活しているのです」

 

「深雪先輩と二人きり……なんて羨ましい」

 

「……話を進めても?」

 

「うん、放っておいて良いよ」

 

 

 妄想に突入した泉美は、ひとまず放置する事で香澄と水波の意見は一致した。こうなってしまったらなかなか現実に復帰しないのはこの一年で十分理解させられたのだ。

 

「昨晩達也さまからのお電話を受けた後、深雪様は酷く寂しそうになされていました。今まで達也さまと同じ家で生活してきたのですから、仕方がないかとも思いましたが、まさか一日もたずに錯乱気味になるとは思いませんでした」

 

「つまり、司波会長が達也先輩に会いたいがために、水波も朝早くから一高最寄りの駅まで来て、達也先輩が来るまで待たされていたってこと?」

 

「ざっくり言うのであれば、その通りです」

 

「達也先輩に電話して早く来てもらおうとはしなかったわけ?」

 

「深雪様は達也さまの生活に介入するおつもりはないと仰られていましたので、あくまでも達也さまのタイミングで登校していただきたかったようです」

 

「まぁ、学校ではいつも通り――いや、いつも以上に達也先輩にくっついてたもんね」

 

「学校では深雪様が優先されるようです。深雪様が暴走したらどうなるか、皆さん重々承知のようですし」

 

「水波だけじゃ止められないんだっけ?」

 

「私のような魔法師では、深雪様の本気を受け止める事すら出来ません」

 

 

 水波は学年でもトップクラスの魔法力を有しているのだが、その水波ですら受け止める事すら出来ない程の魔法力を深雪は有している。香澄も深雪が四葉家の人間だと知ってからはそれも当然かと納得はしたのだが、同じ十師族の一員ですら、深雪の魔法力は高すぎるのではないかと感じている。

 

「達也先輩もいろいろと規格外だけど、司波会長も相当なんだね」

 

「当り前ですわ! なんせ、深雪先輩なのですから!」

 

「あー、はいはい……泉美はそろそろクラスに戻った方が良いんじゃない?」

 

 

 盛り上がっている双子の妹を軽くあしらって、香澄は水波と顔を見合わせて苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の深雪の奇行は、あっという間に学園中に広まり、その理由もすぐに広まった。深雪が在籍しているA組では、なるべく達也の話題を出さないようにとクラス中が深雪に気を遣って午前中が過ぎた。

 

「深雪、食堂に行こう」

 

「そうね。達也さまもいらっしゃるだろうし、早く行きましょう」

 

「生徒会長が廊下を走ったらダメだよ?」

 

「分かってるわよ。というか、ほのかや雫だって、なんだかわくわくしていないかしら?」

 

 

 深雪に注意している雫も、今にでも走り出しそうな雰囲気を醸し出しているし、ほのかに至っては心ここにあらずといった様子である。

 

「今までも一緒に食事してたけど、なんだか今日はいつもと違う気がする」

 

「朝から達也様とご一緒だったのだから、それだけで昨日の景色と違って見えるのも仕方がないわよ。私だって、たった一日側にいてくださらなかっただけで、この世が地獄のような気分になったもの」

 

「深雪は物凄く達也さんの事が好きなんだもんね」

 

「えぇ。でもそれは雫やほのかだってそうでしょ?」

 

 

 深雪に問われ、雫もほのかも当然だと力強く頷く。生憎この場にこの三人にツッコミを入れられる人間は存在しなかったので、深雪の言葉は満場一致という事になってしまった。

 

「このような状態になって、渡辺先輩のお気持ちが分かるようになったわ」

 

「今は恋人と同棲しているって聞いたけど」

 

「正式に婚約したようですし、その内結婚式の案内が届くんじゃないかな?」

 

「私たちは渡辺先輩とそれほど付き合いがあったわけじゃないよ。達也さんを介しての知り合い、程度だと私は思ってる」

 

「雫は風紀委員じゃない」

 

「私が入った時の委員長は千代田先輩」

 

「そっちも結婚しそうだけどね」

 

 

 花音と五十里は元々婚約者だと知っているので、突然結婚すると言われても驚きは摩利よりかは少ないだろうと三人は顔を見合わせて笑い合った。

 

「何だか楽しそうね」

 

「あらエリカ」

 

「何の話し?」

 

「千代田先輩と五十里先輩が結婚するのは、渡辺先輩が結婚すると聞かされるより驚かないって話よ」

 

「まぁ、啓先輩は千代田先輩と結婚するでしょうしね。渡辺摩利は知らないけど」

 

「エリカ、相変わらず渡辺先輩とお兄さんがお付き合いしているのが気に入らないのね。やっぱりエリカだってブラザーコンプレックスじゃないの」

 

「……早く行きましょう。達也くんと美月が待ってるはずだから」

 

 

 露骨に話題を逸らしたエリカは、早歩きで廊下を進んでいく。その背中を見ながら、深雪は実に楽しそうに笑ったのだった。




誰が一番早いか分からないな……

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