劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気にしてるのは独り身の人たち


別の問題

 一日中幸せオーラ全開な生徒か目立っていたためか、職員室でも達也の事は話題になっていた。ただ特に問題はないので、達也が職員室に呼び出されることはない。

 

「まったく、独り身の私に対する当てつけなの?」

 

「そんなこと言われましても」

 

 

 生徒会業務が済み、山岳部に顔を出そうとした達也を捕まえた怜美が達也を保健室に連れ込みながらそう尋ねる。

 

「学校中で幸せオーラが出てる子に出くわすから、保健室から出たくなくなっちゃうわよ」

 

「安宿先生はそれで良いのでは? 巡回などの業務には組み込まれていないのですし」

 

「そうは言っても、ずっと保健室に篭りっきりもつまらないからね~。授業中などは学校の中をぶらぶらと歩いたりしてるのよ」

 

「授業中なら生徒に会う事は無いのでは?」

 

「会わなくてもオーラは感じるわよ。教室からあふれ出てるもの」

 

 

 そもそも怜美が教室に近づかなければいいだけの話なので、達也としては何とも言えない。一通り愚痴を聞いて保健室を出た達也を、今度は遥が捕まえる。

 

「今度は小野先生ですか……」

 

「呼ばれた理由が分かってるなら話が早いわ。何とかしてくれない?」

 

「別に放っておいても問題ないでしょう」

 

「あるわよ! 何だか寂しい気分になってくるんだから」

 

「実害があるのは俺ではなく小野先生や安宿先生なのですから、ご自身でどうにかしたら如何でしょうか」

 

「君が原因なんだから何とかしてよ」

 

「俺が幸せオーラをまき散らさせているわけではないのですから、どうしようもありません」

 

 

 遥の頼みをバッサリと切り捨てて、達也はカウンセリング室から廊下に出た。ちょうどそのタイミングで向こうから美月がやってくるのが見え、達也は彼女に話しかける。

 

「美月、どうかしたのか?」

 

「あっ、達也さん……」

 

「まだ幹比古との事でからかわれたりしているのか?」

 

 

 達也が尋ねると、美月は慌てて両手を振って否定する。幹比古が見たらショックを受けそうな反応だが、達也はその事にツッコミを入れる事はしなかった。

 

「吉田君と付き合っているという噂は、達也さんのお陰で収まりました。ですが、今度は『何で付き合わないのか』という質問が多くて……小野先生にご相談しようと思っていたのです」

 

「大きなお世話だと言って終わりじゃないか? 誰が誰と付き合おうがそいつらの自由なんだから、周りがとやかく言う事ではないだろ」

 

 

 達也は極当然の事を言っているだけだが、美月は何故だか感動しているようだ。目を輝かせて達也に詰め寄り、両手を掴んで上下に振る。

 

「達也さんのお陰で何とか出来そうな気になりました! 誰が誰と付き合おうと、また付き合わなくてもその人たちの自由ですよね!」

 

「あ、あぁ……あんまりしつこいようならまた言ってくれれば何とかするが」

 

「はい! ありがとうございました」

 

 

 カウンセリング室に入ることなく帰って行った美月を見送り、達也は背後から鋭い視線を向けてきている風紀委員に声をかける。

 

「雫、どうかしたのか?」

 

「達也さん、美月と何を話してたの?」

 

「聞いていたんじゃないのか?」

 

「私が来たのはついさっき」

 

 

 確かに達也が雫の気配を感じ取ったのもついさっきなので、雫は嘘を吐いているわけではないということは分かる。だが何をそんなに気にしているのかは、彼には理解出来なかった。

 

「幹比古と付き合っているという噂が収まったと思ったら、今度は何故付き合わないのかという質問が増えたそうだ」

 

「それ、大きなお世話」

 

「俺もそう言った。それで自信になったのか、美月はカウンセリングを受ける事無く帰って行っただけだ」

 

「達也さんが美月をナンパしていたわけじゃないんだね?」

 

「俺はそんなことしない」

 

 

 頬を膨らませながら尋ねる雫の頭に手をやり、少し乱暴に髪を撫でる。その行動に雫は口では怒っている風を装っていたが、表情は幸せいっぱいであることを隠しきれていなかった。

 

「見回りだろ? 暇だし付き合おう」

 

「良いの? 達也さんは山岳部に顔を出すんじゃないの?」

 

「そのつもりだったんだが、保健室とカウンセリング室で精神的に疲れたからな。今日はもう顔を出さなくてもいいだろ」

 

「達也さんでも疲れたりするんだね」

 

「前にも誰かに言われたような気がするが、俺だって人並みに疲れたりもするさ」

 

「そっか」

 

 

 戦闘行動に支障が出るようなら勝手に回復するという事を知っている雫は、達也が口にしなかった部分まで正確に理解して、するりと達也の腕に自分の腕を絡ませた。

 

「雫?」

 

「朝深雪がしてたのを見て羨ましかったから」

 

「風紀委員が率先して風紀を乱すのはどうかと思うぞ?」

 

「これくらいは普通。千代田先輩なんて五十里先輩を押し倒そうとしていた」

 

「あの二人はな……」

 

 

 先代風紀委員長があれだったので、今更風紀を乱すなといっても効果は無いと理解し、達也はそのまま雫と見回りを開始した。

 

「そう言えば、あの家の食事当番とかはどうなってるの?」

 

「話し合いで決めているようだ。その内容は俺は知らない」

 

「そっか」

 

「気になるのか?」

 

「私はそれほど上手じゃないけど、ほのかなら文句のつけようがないくらいのものを作ってくれると思うよ」

 

「雫の料理も、十分美味しかったけどな」

 

 

 真顔で褒めてくる達也に対して、雫は何時もの無表情を保てずにいた。だが達也に雫を辱めて楽しむという人の悪い考えはなく、そのまま見回りに集中したのだった。




愛人組も入居させようかな……

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