劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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仲の良さは相変わらず


双子の最後の夜

 引っ越しの準備を済ませている香澄は、残り少ないこの家での時間を存分に楽しもうと、双子の妹である泉美の部屋に入り浸っていた。

 

「こうして泉美の部屋でだらだらするのも、今日で最後か……」

 

「婚約者から外されたら、何時でも戻って来ても良いですよ?」

 

「嫌な事言わないでよ……」

 

 

 同じ十師族でありながら、一色と九島に関係しているメンバーは既に新居に呼ばれているのに対して、自分と姉はまだだという事がどういう事なのか、香澄も薄々勘付いている。

 

「お父さんと兄貴が余計な事をした所為で、ウチと四葉家の関係はますます悪くなる一方だもんな……ボクとお姉ちゃんは政略結婚の道具だと見られていてもしょうがないか……」

 

「お姉様と香澄ちゃんが司波先輩と縁を深めるだけでは足りないのでしたら、私が深雪先輩と縁を深めますわ」

 

「ボク、泉美のそう言ったところ嫌いじゃないよ……」

 

 

 自分の欲望に忠実な双子の妹を見ながら、香澄は呆れながらそう呟く。もちろん皮肉なのだが、今の泉美にそれを理解出来るだけの冷静な判断が出来ないと分かっているから香澄も遠慮なく毒を吐いたのだ。

 

「今現在深雪お姉さまは、あの広い家に水波さんと二人きりだそうですから、今私があの家に行けば深雪お姉さまと縁を深められる事間違いなしです!」

 

「あの広い家って、ボクたちは司波会長の家を知らないじゃないか」

 

「知っていますわよ?」

 

「何処で知ったのさ」

 

「もちろん、家の人間を使って調べさせました」

 

「うわぁ……」

 

 

 普通のストーカーより質が悪いと感じたが、それを口に出す程香澄も愚かではない。今泉美を刺激するのはマズいと分かるだけの間柄だからこそかもしれないが……

 

「ですが、深雪お姉さまと司波先輩が四葉の関係者だと分かった今だと、あの家は些か小さすぎると感じますわね」

 

「元々達也先輩と司波会長の二人暮らしだったんでしょ? どんな家かは知らないけど、十分なんじゃないの?」

 

「四葉家の総資金はウチよりも遥かに多いはずです。その関係者である深雪お姉さまたちが暮らしている家が、あの程度で良いはずが無いじゃないですか!」

 

「そもそも達也先輩も司波会長も、四葉家との関わりを隠して生活していたわけだから、それと気づかれないためにも行き過ぎた豪邸に住むのはマズかったんじゃないの?」

 

「ですが、深雪お姉さまのお父上はFLTの本部長の職にあるという事ですし、豪邸に住んでいても不思議は無いと思いますが」

 

「またそんな情報を……」

 

 

 達也の婚約者である香澄ですら知らない情報が次々と出てくるので、香澄は泉美の事が少し怖く感じられていた。家の誰を使えば情報が手に入るか、香澄は詳しく知らないので尚更だ。

 

「司波先輩もFLTに出入りしているようですし、その程度は香澄ちゃんも聞いているのではありませんか?」

 

「だって、達也先輩の父親ってわけじゃないんだし、聞いていたとしても覚えてないよ」

 

「香澄ちゃんのそういうところ、直した方が良いと思いますわ」

 

 

 興味がないことにはとことん無頓着な双子の姉に、今度は泉美が毒吐く。自覚しているだけに、香澄は泉美に対して反論したり激昂したりはしなかった。

 

「司波先輩はFLTの第三課というところに出入りしているらしいですが、香澄ちゃんはそこで何をしているか聞いていないんですか?」

 

「聞いていたとしても泉美に話せないでしょ。話せる内容なら隠してないだろうし」

 

「それもそうですね……しかし、ウチの情報網と調査力を駆使しても分からないとなると、かなり重要な研究をしているのかもしれません」

 

「そうだね……(言えるわけがない……達也先輩が『シルバー』だなんて……)」

 

 

 シルバーに関しては四葉家が厳重に情報操作して正体が分からないようにしているのだから、例え七草家の調査力を駆使しても分かるはずがないのだ。

 

「ところで、何で香澄ちゃんとお姉様が別々に新居に向かうのです? 一緒に行けばいいじゃないですか」

 

「お姉ちゃんは明日、朝から講義がないみたいだから、まず新居に行くみたい。ボクは風紀委員の見回りがあるからそっちに行ってる時間が無いんだよ。泉美だってそれは知ってるだろ?」

 

「ですが、見回りと言ってもそんなに早い時間じゃないんですし、ちょっと寄ってからでも十分間に合うと思いますが」

 

「だって、あそこにはもう北山先輩がいるんだし……」

 

「なるほど」

 

 

 例え早い時間じゃないにしても、遅れるかもしれないという可能性を孕んだまま雫の前に顔を出すのは、彼女を恐れている香澄は出来ない事だと泉美も理解した。

 

「てか、ボクとお姉ちゃんはそこまで一緒に行動しているわけじゃないんだし、そんなにおかしいことかな?」

 

「同じ家から嫁ぐわけですから、一緒に行くものだと思っていただけです。そういう事情があるなら、別行動でも納得出来ましたが」

 

「というか、最近お姉ちゃんが裏でこそこそやってる事に巻き込まれたくないから、ちょっと距離を取っておきたいんだよね」

 

「こそこそ? そう言えばこの間司波先輩を説得するために克人さんと話し合ってましたし、あれも印象が悪いのではないかと思いました」

 

「うん。だからボクは関係ないって事を四葉家に分かってもらうためにも、別行動した方が良いんだよ」

 

 

 意外にも考えている双子の姉に、泉美は少し見くびり過ぎていたと反省したのだった。




泉美のストーカー気質、ちょっと怖いです

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