劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気にする人は気になっちゃいますよ


女子の気持ち

 ほのかと雫が用意した夕食は、普段学食や出来合いのもので済ませていた人間にはかなり美味しいと思える料理だった。

 

「防衛大は時間無いから、こんな手の込んだご飯食べるのは久しぶりよ」

 

「軍属も似たようなものですが、そこまで急がなくても良かったんじゃない?」

 

「ちゃんと人数分作りましたから、焦らなくても良かったんですが」

 

 

 防衛大に通っている紗耶香にとって、手の込んだ料理は本人が言っているように久しぶりだったのだろう。響子やほのかが指摘したように、紗耶香の食べるスピードは速かったのだ。

 

「達也さんの前で、はしたなかったかしら……」

 

「美味しそうに物を食べる人は嫌いじゃないですよ」

 

「そもそもあたしたちだって達也くんの前で早食いしたことあるしね」

 

「ケーキバイキングの時? 確かにあの時のエリカと深雪は凄かった」

 

 

 雫がうんうんと頷くとなりで、エリカが恥ずかしそうに頭を掻いている。本人も自覚しているのと同時に、達也の前だというのにガツガツ食べていたのが今更になって恥ずかしくなったのだろう。

 

「エリカは兎も角として、深雪があんなに食べるとは思わなかった」

 

「深雪はケーキが好きだからな。食べ放題だから箍が外れたんだろう」

 

「あれだけ食べても太らないんだから、深雪ってずるいわよね」

 

「エリカだって十分細いじゃん」

 

「あたしは稽古とかでかなり動いてるからね。でも深雪って部活やってるわけでもなければ、何か特別運動しているわけじゃないじゃない? なのにあの細さは反則よ」

 

「確かに、深雪の細さは羨ましいよね」

 

 

 スタイルの話になり、達也はそっとこの場から離脱しようとしたが、がっちりとエリカに腕を掴まれてしまい逃亡に失敗した。

 

「達也くんなら、深雪のスタイルの秘訣を知ってるんじゃない?」

 

「残念ながら、特別何かをしているという事は、俺が知っている限りないな」

 

「そうなの? 特別に何かしてなくてもあの細さなら、同じ女として羨ましくもあり妬ましくもありね」

 

「普段あまり食べないのがそうなのかもしれないが」

 

「確かに……深雪ってかなり小食よね……でも、何でケーキだけはあんなに食べられるのかしら? やっぱり人間には別腹があるのかしらね」

 

 

 エリカの力が緩んだところで、達也はスルリと抜け出してその場から移動する。

 

「達也さん、何処に行くの?」

 

「部屋で少し休んでから風呂に入ろうと思っている」

 

「お風呂……私たちも一緒に入ってもいい?」

 

「やっぱり、考える事は昨日の子たちと一緒ね」

 

 

 雫の言葉に、響子が楽しんでいる事を隠そうともしない表情と口調で達也に声をかける。それだけで昨日のメンバーは達也と一緒にお風呂に入ったんだという事が、今日引っ越してきたメンバーに伝わってしまった。

 

「それじゃあ、今日はあたしたちの番だね。エイミィやスバルも準備して」

 

「こういう時の千葉さんの動きは俊敏ですね」

 

「面白そうな事には率先して首を突っ込むタイプだからな」

 

 

 亜夜子の感想に対して、達也は既に疲れ切ったような声で答えて、部屋に逃げ込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也が部屋から出てくるのを待ち構えていた六人は、達也が出てきたのと同時に一斉に駆け寄った。

 

「……さすがに逃げはしないぞ?」

 

「達也くんならそれくらい出来るでしょ? だからこうして警戒してたの」

 

「お陰で休めなかったんだが」

 

 

 達也が少し責めるような口調で喋るが、エリカは特に気にした様子は無さそうに、エイミィとスバルに目線で合図を送っていた。

 

「さっきあたしたちは腕を組んだから、今度はエイミィとスバルの番」

 

「お風呂から出たら雫とほのかが組む、という事に決まったんだ。達也さんは不本意かもしれないが、我慢してくれたまえ」

 

「別に我慢するほどの事ではないが」

 

 

 基本的に達也からスキンシップを行う事は少なく、このメンバーの中では雫の頭を撫でるくらいだ。だからこちらから積極的にスキンシップを仕掛けないと、ただただ一緒に過ごすだけになってしまうのではないかと危惧したエリカが、面白半分で焚きつけたのだが、やはり他の人が達也とくっついているのが面白くないのか、紗耶香を連れてすたすたと風呂場に向かっていく。

 

「エリカ、何処がお風呂場か分かってるんだね」

 

「さっき軽く汗を流してきたと言っていたから、その時に調べたんじゃない?」

 

「というか、ボクたち庶民の出からすると、この家はかなり広いから迷子になりそうだ」

 

「ボクたちって、私は一応由緒正しいゴールディ家の人間なんだけど?」

 

「そうだったかな? 普段のエイミィの行動を見ている限り、とてもじゃないが『由緒正しい家の人間』とは思えないんだが? 今も口の端にソースがついたままだし」

 

 

 スバルが笑いながら指摘すると、エイミィは慌てて口の周りを拭きだした。

 

「嘘だよ。だけど、この嘘に引っ掛かるという事は、普段そう言う事があるって事じゃないのかい?」

 

「スバル、何時か仕返ししてやるんだから!」

 

「出来るものならどうぞ。ボクはエイミィと違ってそこまで隙だらけってわけじゃないから、難しいかと思うけどね」

 

「二人とも、俺を挟んで喧嘩するな」

 

「「ゴメンなさい……」」

 

 

 達也に注意されてしまえば、二人とも反省するしかない。二人の喧嘩をハラハラしながら見ていたほのかは、ホッと一息ついたのだった。ちなみに、雫は楽しそうに二人の喧嘩を眺めていたのだった。




美味しそうに食べるならOKです

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