劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ちょこちょこ入れていかないと……


きな臭い計画

 家の中に戻ってきた達也を待っていたのは、一人でお茶を飲んでいた響子だった。

 

「何を見ているんですか?」

 

「USNAの方で不審な動きが見られると、真田少佐から報告があったのよ」

 

「USNAで、ですか……」

 

 

 先日スターズの兵士を助け出したばかりだというのに、またUSNA絡みでの面倒なのかと、達也はため息を吐きたい気持ちを何とか抑えて、響子の端末を覗き込んだ。

 

「この計画はUSNAだけじゃなくロシアも噛んでいるようだし、なんだかきな臭い噂もあるとかで心配してるのよね」

 

「主に迷惑を被るのは俺になりそうですね、この計画は……」

 

 

 興味が失せたのか覗き込むのを止めた達也は、響子の正面に腰を下ろした。

 

「達也くんも飲む?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「遠慮しなくて良いわよ」

 

 

 達也が腰を下ろしたのを見て響子が腰を浮かして達也の分のカップを持ってきてお茶を淹れる。達也としてはあってもなくても構わなかったので、淹れてもらった以上飲まないという選択肢は無かった。

 

「表向きは立派な計画ですが、この計画には裏がありそうですからね」

 

「自分たちにとって邪魔な魔法師を、地球上から追い出す目的かもしれないし」

 

「とにかく、正式に発表されるまではこちらから手を打つことは出来ないようですし、気にするだけ無駄だと思いますよ。そもそも、そんな計画が発表されたからといって、こちらに手伝わなければいけない理由は無いのですから、相手にするだけ無駄です」

 

「達也くんみたいに裏まで見通せる人ならそう考えるでしょうけども、表向きは立派な計画だから、指名されたら名誉だとかなんとか言って世間が黙っていないでしょうね」

 

「そうなったらなったで、こちらが温めていた計画を公表すればいいだけです。どちらが魔法師にとって有益かどうか、少し考えれば分かるでしょうし」

 

「相変わらず人が悪い笑みね」

 

 

 最初から相手にならないことが分かっている響子としては、達也の表情を見ても自信過剰だとは思わなかった。そもそもが達也の言っている通りなので、ここで達也を相手に討論する意味すらないのである。

 

「考えても意味のないことに時間を割くのは響子さんらしくありませんよ」

 

「そうかもね。そもそもの手札が違うんだから、心配するだけ無駄よね」

 

 

 既に加重系魔法における三大難問の一つである飛行術式を完成させ、重力式熱核融合炉の実現にも目途を立てている達也なら、あの程度の計画をご破算にするくらい簡単な事だと思い直して、端末の電源を落として立ち上がる。

 

「お風呂に入ってくるわね」

 

「では、俺も部屋に戻ります」

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

 

 達也の横を通り過ぎていく際に、頬に口づけをして響子は浴室へ向かって行った。達也はその背中を見送ってから、さっきから盗み聞きしている二人に声をかける。

 

「いい加減出て来たらどうだ?」

 

「あはは……やっぱ達也くん相手に盗み聞きは無理だったわ」

 

「私はエリカが隠れてたのが気になっただけよ」

 

 

 素直に盗み聞きを認めたエリカと、人のせいにしつつも頭を下げながら出てきたリーナに、達也は苦笑いを向けた。

 

「最初から隠れてるつもりなんて無かっただろ。距離があったから響子さんは気づかなかったようだが……いや、気付いてて気づかないフリをしていたが」

 

「やっぱり藤林さんにもバレてたんだ……剣士としてもっとうまく気配を殺せるようにならないと駄目ね」

 

「俺や響子さんはエリカより場数を踏んでるからな。こればっかりは実戦を積み重ねて磨くしかないからな」

 

「でもそう考えると、あたしより多くの実戦を積んでいるリーナがバレてるのって問題じゃない?」

 

「リーナは諜報向きじゃないから仕方ないだろ」

 

 

 バッサリと斬り捨てられて、リーナは少なからずショックを受けていた。確かに気配を殺すのには不慣れだが、ああもはっきりと言われる程下手なつもりはなかったのだろう。

 

「ところで、何の話をしてたの?」

 

「大したことは話してない。USNAを含む複数の国の戦略級魔法師がくだらない計画を立てようとしているという話だ」

 

「くだらないって……達也くんだからそう思えるとかじゃなくて?」

 

「少し考えれば分かることだろうが、表向きの発表だけではメディアは踊らされるだろうな」

 

「そうなっても、達也くんなら逆に情報操作を仕掛けるんでしょ? 前の恒星炉実験の時みたいに」

 

「あの時は情報操作を仕掛ける必要はなかったがな」

 

「今更だけど、日本の高校生の頭ってどうなってるのよ……」

 

「魔法科高校に通ってる高校生と、ごく普通の高校生を同列に見るのは良くないと思うが」

 

「少なくとも、あたしたちは普通じゃないからね。美月とかは割と普通だけど」

 

「達也やエリカが普通じゃないというのは分かってるけど、当たり前のように情報操作だなんだって、普通ありえないわよね?」

 

「それくらい簡単に出来る家柄だからな」

 

 

 達也の言葉で納得がいったのか、リーナはそれ以上何も問いかけてこなかった。エリカはまだ何か聞きたそうな顔をしていたが、達也は相手にせず部屋に戻ろうと立ち上がった。

 

「最後に一つ。なんでキスされてたの?」

 

「それは響子さんに聞いてくれ」

 

「じゃああたしも!」

 

 

 恐らく「したいからした」と答えるであろうと分かっていたエリカは、自分もしたいからと達也の頬に口づけをしたのだった。




相変わらずの規格外……

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