劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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パラサイト事件の際の遺恨が……


エリカと真由美

 達也が朝稽古をしていると、家に近づいてくる気配を二つ感じ取った。

 

「あの人は兎も角、もう一人は巻き込まれたんだろうな……」

 

 

 気配の持ち主を識別して、達也は巻き込まれた方の人に同情した。だが必要以上に同情はしない。恐らく彼女もいち早くここに来たかったから付き合っているのだ、ということがなんとなく理解出来たからだ。

 

「おはよー! 相変わらず達也くんは早起きね」

 

「まだ寝てる人もいるんですから、あまり大きな声を出さないでもらえますか」

 

「達也くん、相変わらずお姉さんの扱い方が雑じゃない?」

 

「真由美さんは達也さんの姉ではないはずですが」

 

 

 あえてスルーしていた達也に代わり、真由美と一緒に新居にやってきた鈴音がツッコミを入れる。もちろんこのやり取りも数えきれない程してきたので、殆どツッコミに効果はない。

 

「とりあえず達也くんには、お姉さんたちの部屋に案内してもらいたいんだけどな~?」

 

「入ってすぐのところに書いてありますので、ご自分で確認されては如何でしょうか?」

 

「真由美さん、あまり達也さんの邪魔をしてはいけませんよ。そもそもこんな時間に来る理由など無かったのですし」

 

「一刻も早く達也くんと同じ家で生活したいと思うのは当然でしょ? そもそも、その為に昨日リンちゃんの家に泊ったんだから」

 

「お陰で私は寝不足です……達也さん、引っ越してきて早々で申し訳ないのですが、私は休ませてもらいますね」

 

「それは構いませんが、講義は良いのですか?」

 

「今日は午後からなので、問題はありません」

 

 

 真由美をおいてすたすたと家の中に入っていく鈴音を見送り、真由美は達也の稽古を見学する事にした。

 

「こうやって達也くんの稽古を間近で見るのは初めてね」

 

「そもそもが人に見せるものではありませんからね、稽古は」

 

「そうなの? でも新勧とかで見せてる部活はあるじゃない?」

 

「あれは演習です。稽古とはまた違ったものですので」

 

「ふーん……なんだかいろいろあって面倒ね、武道って」

 

 

 それほど面倒な事ではないのだが、真由美がそう思っているのをあえて正す必要もないので、達也は彼女の言葉を無視して稽古を続ける。

 

「達也くんおはよー! って、七草先輩」

 

「あら千葉さん。おはよう」

 

 

 吸血鬼騒動以来、この二人の関係は何処となく刺々しさを感じる。もちろん、達也がその程度で動じることも無く、また気にすることも無く稽古を続ける。

 

「そう言えば七草先輩は今日でしたね」

 

「えぇ、そうよ」

 

「同じ十師族でも、一色さんや藤林さんたちの方が先なんですね」

 

「だからどうしたというの? 先に引っ越してきたからといって、先に達也くんと結ばれるわけじゃないんじゃないかしら?」

 

「それは達也くん次第じゃないんですかね? 噂に聞くと、先輩の家は深雪を広告に仕立て上げようとしたらしいですし、達也くんの心証は悪くなってるんじゃないですか?」

 

 

 バチバチと火花を散らし始めたのを見て、さすがに達也も放置するのを止め口を挿む。

 

「エリカ、あまり先輩に喧嘩腰で話すのは止せ」

 

「でもさ!」

 

「先輩も年上なら、もう少し余裕を持って対応しては如何でしょうか」

 

「……誰しもが達也くんみたいに余裕綽々でいられるわけじゃないのよ」

 

「先輩はまだ荷解きが済んでいないのですし、部屋に行かれては如何です?」

 

「そうするわね……」

 

 

 とりあえず真由美を部屋に向かわせることで気持ちを落ち着かせることにした達也は、真由美の姿が見えなくなるまで待ってからエリカに視線を向ける。

 

「エリカも必要以上に突っかかるのは止めたらどうだ」

 

「頭では分かってるんだけどね……どうしても先輩とは上手く付き合えないのよ」

 

「渡辺先輩と親しいからか?」

 

「ううん、アイツは関係ない……と、思う。ただ最近の七草の動きを見る限り、あの人は疑ってかかるべき人だと思うのよね」

 

「それは香澄も、ということか?」

 

「ううん、あの子は裏表がないから心配しなくてもいいと思うよ。嫌いなものは嫌いって、はっきり言うだろうし」

 

 

 エリカの考えには達也も同意する部分がある。そもそも真由美の婚約は弘一が四葉の内情を探ろうとしたという疑いが晴れていないのだ。

 

「でもあの人は何枚も猫の皮を被ってるから、人をだます事にも罪悪感なんて懐かないと思う。この前だって、達也くんが正論で言い負かしたのにも関わらず説得しようとしてたわけだし、完全に達也くん側の人間じゃない事は確かだしさ」

 

「俺があの人を名前で呼ばないのも、そこが関わっている」

 

「あっ、やっぱり? 達也くんが名前で呼ばない婚約者って、あの人だけだもんね」

 

「もし俺の秘密をバラそうものなら、その時は相応の対処をするつもりだ。あの人が一番口が軽そうだしな」

 

「あたしやほのか、雫たちは達也くんの秘密を他人に話そうなんてしないもの。リーナや藤林さんは、軍属だけあって守秘義務をしっかり守るだろうしね。一色さんたちも、完全に達也くん側の人間だし、香澄は知らない事の方が多いしね」

 

「とにかく、エリカが必要以上に七草先輩を警戒しなくてもいい」

 

「達也くんも疑ってるなら、あたしは放置しておくわね。さぁ、一緒に身体を動かしましょうか!」

 

「……相変わらず切り替えが早いな、エリカは」

 

「それが取り柄だもん」

 

 

 さっきまでの雰囲気と打って変わって明るい表情のエリカに、達也は苦笑いを浮かべながら朝稽古を再開するのだった。




自分で言うなよ……

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