劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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鈴音の考え

 達也たちが学校に出かけた後、荷解きを終えた鈴音と真由美はリビングで遅めの朝食を摂っていた。

 

「そういえば、この家の炊事などの担当ってどうなってるんだろうね?」

 

「先ほど津久葉さんに聞きましたが、当日に担当を決めるとのことです」

 

「何時の間に聞いたのよ……」

 

「真由美さんが達也さんの鍛錬を眺めている間に、です」

 

 

 真由美の質問を軽くあしらいながら、鈴音は食事の味に驚いていた。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、このレベルの食事が出てくるのなら、私は炊事の担当は避けた方が良いと思っただけです」

 

「気にし過ぎじゃない? 達也くんならそこまで気にしないだろうし」

 

「あら、そんなことはないわよ?」

 

 

 真由美の言葉に、鈴音ではなく背後から声が返ってきた。

 

「津久葉先輩……」

 

「夕歌で良いわよ、真由美さん」

 

「それで、そんなこと無いとは、どういう意味ですか?」

 

「そのままの意味よ。達也さんの味の基準は深雪さんだから、あんまり酷いと手をつけてもらえない可能性があるということよ」

 

「そういえば、深雪さんはこの家に来ないんでしたっけ?」

 

「そうでなければ、今までの同居が認められなかったからね。今頃、学校で目一杯甘えているんじゃないかしら」

 

 

 その光景が容易に想像できた真由美は、呆れ半分羨望半分の気持ちになっていた。

 

「そろそろ食べ終わったかしら? この家でのルールとして、作った人が片づけもすることになってるのよ。もちろん、時間の都合でいなくなる時は自分たちで片づけるんだけど」

 

「そうだったんですね。では、お願いします」

 

 

 夕歌に洗い物を任せ、真由美は再び鈴音に話しかける。

 

「深雪さんがいないという事は、チャンスがあるという事よね?」

 

「抜け駆けをしようものなら、ここで生活しているすべての魔法師から攻撃を受ける事になるでしょうがね」

 

「エリカちゃんや愛梨さんの攻撃はきつそうだけど、他はそれほどじゃないんじゃないかしら?」

 

「シールズさんはあの司波さんと同等といわれる程の魔法力の持ち主ですが」

 

「そう言えばそうだったわね……」

 

 

 リーナがスターズ所属であることまでは知っていても、その正体が『アンジー・シリウス』であることまでは聞かされていない真由美は、リーナの実力を正確に把握しているわけではない。だがそれでも、深雪と互角に戦う事が出来る、という事は知っているので、抜け駆けの計画は実行に移すことなく頓挫した。

 

「そもそも達也さんが高校を卒業するまで『そう言う事』をしないと宣言しているわけですし、抜け駆けしたとしても追い返させるのがオチです」

 

「普通の高校生男子なら、これだけの美人・美少女に囲まれて暮らしていれば、そういう気持ちになるとは思うんだけど、達也くんはいろいろと普通じゃないしね……」

 

「ところで、私は午後からの講義だから良いんですが、真由美さんは午前中にも講義があるのではなかったでしたっけ?」

 

「まだ平気よ。そんなことより、何で私がこの順番なのか、リンちゃんはどう思う?」

 

「何度聞かれても私には見当もつきませんよ。真由美さんの家と四葉家は対立しているのですから、真由美さんたちが四葉の内情を探るためのスパイだと思われているのかもしれませんが、それを調べる手立てが私には無いので、何度聞かれても憶測でしかものを言えないんです」

 

「その憶測が当たってそうで嫌なのよね……最近構内でも変な噂が流れているし……」

 

「真由美さんが十文字くんに乗り換えた、という噂ですか?」

 

 

 鈴音の口から聞かされ、真由美は盛大にため息を吐いた。その噂の事でも頭を悩ませているのだが、友人の口から聞くと、憂鬱加減が違うのだ。

 

「何でそんな噂が立ってるのか、私にはさっぱりなんだけど」

 

「食堂で十文字くんと楽しそうに話す真由美さんの姿が目撃されたから、ではないのですか? 遮音フィールドで会話の内容は聞こえなかったが、表情は楽しそうだったとか」

 

「それってこの前の事でしょ? 十文字くんは『どくしんじゅつ』ってのを気にして何も話してくれなかったから、場所を改めましょうって話してただけなんだけど」

 

「読唇術ですか……十文字くんらしいですね」

 

「ところで、その『どくしんじゅつ』って何なの? テレパシーじゃないってのは分かったんだけど」

 

「心を読む方の『読心術』ではなく、唇を読む方の『読唇術』です。十文字くんが気にするほど、会得している大学生はいないと思うのですが、内容によっては気にして当然ですね。それで、どんな話をしていたのです?」

 

 

 鈴音から読唇術の説明を受けて、漸く真由美はあの場所で克人が何も言わなかったことに納得がいった。

 

「ちょっと前の会議の事でね……達也くんを説得しようと十文字くんに持ち掛けようとしたんだけど」

 

「説得というと、司波さんを広告塔に仕立て上げ、魔法師の社会貢献アピールをする、というあれですか?」

 

「リンちゃんも知ってたんだ」

 

「なるほど……だから真由美さんの順番が下がったのでしょう」

 

「どういう事よ?」

 

「それはご自身でお考え下さい」

 

 

 鈴音に突き放され、真由美は不満そうに頬を膨らませる。ただ鈴音としては、これ以上真由美と行動を共にして、自分にも四葉家に不利益をもたらさんとする意思があると思われたくなかったのだった。

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