生徒会のメンバーと、部活終わりのメンバーが合流し、達也たちは駅までの道を大人数で歩いていた。途中、行きつけのアイネブリーゼが視界に入ったが、さすがにこの人数で入るのは憚られるので、誰も寄って行こうとは提案しなかった。
「それでは達也様。また明日お会いできるのを楽しみにしております」
「そうか」
別れを惜しむ深雪を見送り、水波に視線で深雪の事を頼み、達也たちは複数の個型電車に乗り込み新居に近い駅まで向かう。達也と同じ小型電車に乗り込んだのは雫、ほのか、エリカの三人。これは早い者勝ちではなく、事前に彼女たちの中でじゃんけんが行われていた結果である。
「そういえば、今年は達也くんの誕生日をお祝いしなかったわね」
「事後処理とかでそれどころじゃなかったからだろ。引っ越しもあったわけだし」
「ウチのお父さんは今年も場所を提供するつもりだったらしいけど、どうする?」
雫がコテンと首を傾げる。気を許している相手にしか見せない仕種だが、ここにいるメンバーは既に見慣れた仕種なので、特にその事を指摘することはなかった。
「今の家でも十分な広さだからな。今年は遠慮させてもらおう」
「それじゃあ、今度の休みにでも達也さんの誕生日パーティーを開こう。それだったら、深雪や水波も来られるだろうし」
「そんな急に言われてもな……他の人の都合もあるだろうし」
「大丈夫よ。達也くんを祝いたい人の殆どがあの家にいるわけだし」
エリカのセリフに、ほのかと雫が力強く頷く。達也としては祝われる歳でもなくなってきていると感じているので、お祝いの言葉だけで十分だと考えていたのだが、どうやら彼女たちは盛大に祝いたいようなのだ。――エリカに関しては、お祝いにかこつけて騒ぎたいだけなのかもしれないが。
「そうと決まれば、今度買い出しに行く人とかを決めないとね。とりあえずリーナは買い出し組で決まりだろうけども」
「さすがにまだリーナに料理は任せられないしね」
「あの壊滅的な料理を美味しく食べれるわけ無いし」
三人がどんどん話を進めていく中、達也は笑みを浮かべながら三人を眺めていた。高校に入学する前、中二からの二年は深雪が祝ってくれたが、それ以前は誰にも祝われること無く過ごしてきたので、これほど自分が生まれた日を喜んでくれる人がいるという事は、彼にとっても幸せな気分になれる出来事なのだ。
「珍しいね、達也くんがそんな表情を浮かべてるの」
「そうか?」
「うん。深雪相手なら何回か見たことがあったけど、深雪がいない場所でその笑みは本当に珍しいと思うよ」
「私も一回くらいしか見たこと無い」
「何を考えてたんですか?」
「自分の誕生日を祝ってくれる人がこれほどいる、という幸せをかみしめていただけだ」
「達也くん……それ、聞いてる方も結構恥ずかしいよ」
「そうなのか?」
「まぁ、達也くんの事情を考えれば仕方ないのかもしれないけどね」
ここにいるメンバーは、達也の秘密の殆どを知っているので、伏せる事はしなくても良いのだが、公共の場所という事を考えて全員具体的な事は言わなかった。
「一色さんたちも達也さんの誕生日を祝いたいと思ってるだろうし、今週末は忙しくなると思うよ」
「今から準備して間に合うかな?」
「どれだけ豪華なパーティーにするつもりなのよ。普通にケーキや料理を食べて、達也くんをお祝いするだけなんだから、一日あれば準備出来るわよ」
「確か、ドレスはクローゼットにしまったはずだし……」
「ドレスコードがあるの?」
「たぶん、深雪が目一杯おしゃれして来るだろうから対抗意識を燃やしてるんだと思う。私も負けられない」
ほのかと雫が静かに燃える横で、エリカが苦笑いを浮かべながら達也に助けを求める。
「達也くんからも何とか言ってよ。このままだととんでもない誕生パーティーになっちゃうわよ?」
「おしゃれしたいのなら、それで良いんじゃないか? もちろん、普段着でも構わないだろうし」
「うーん……でもさ、深雪たちがおしゃれしてるのに、あたしだけ普段着だなんて、何か負けた気分じゃない?」
「なら、エリカもおしゃれすればいいじゃないか」
「あたしが着飾ったって、深雪や雫のようにはなれないわよ。ほのかだって、雫の付き合いでパーティーに参加したりしてるだろうし、きっと凄いと思うのよね……」
「何処を見ているんだ?」
ほのかの身体の一点に視線を固定して呟いたエリカに、達也が呆れ気味にツッコミを入れる。
「エリカは自分の事を卑下しがちだが、俺はエリカも十分美少女だと思っているが」
「んなっ!? ……まぁ、達也くんがお世辞でもそう言ってくれるなら、あたしもおしゃれしてみても良いけど」
「お世辞のつもりは無いんだが」
「~~~~~」
言葉にならない呻き声を上げながら、エリカは赤面した頬を達也から隠すようにそっぽを向いた。達也に褒められたことを羨むような視線が二本、エリカに突き刺さっていたが、エリカはその視線に気付くことは出来なかった。
「これはますます負けられない」
「雫、なんだかすごく燃えてる?」
「ほのかだって、かなり気合入ってる」
親友でも譲れないものがあると言わんばかりに、ほのかと雫の間にも火花が散っていた。達也はそんな三人をただただ見ていたのだった。
展開的にそれどころじゃないのは分かりましたが、やっぱり触れておきましょう