劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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四葉関係者だからでしょうか……


好戦的な二人

 エリカたちが盛り上がっている最中に帰ってきた真由美たちは、何故エリカたちが盛り上がっているのかは気になったが、直接聞くことはしなかった。

 

「ねぇ達也くん。エリカちゃんたちは何の話題で盛り上がってるの?」

 

「すぐそこに本人たちがいるんですから、ご自分でお聞きになられては如何ですか?」

 

「私は達也くんに聞いているのよ。黒羽さんには聞いていないの」

 

「亜夜子、あまり七草先輩に突っかかるな」

 

「……申し訳ございません、達也さん」

 

 

 達也に注意されてはそれ以上出過ぎた真似は出来ないと、亜夜子は素直に頭を下げた。もちろん、真由美にではなく達也に。

 

「それから七草先輩も、もう少し年上の余裕を見せては如何でしょうか。亜夜子と先輩とでは三年の差があるのですから、もう少し年下の戯言を受け流す余裕があっても宜しいかと思いますが」

 

「達也くんみたいに、私は大人の中で揉まれてきたわけじゃないから、それほど余裕なんてないわよ。十師族の直系だと言っても、私は跡取りでもなかったし」

 

「それを差し引いたとしても、先輩はごく普通の家庭とは違うんですから」

 

「はーい」

 

 

 反省しているのか疑わしい返事に、亜夜子と夕歌は眉を顰めて真由美を睨みつけたが、達也は気にした様子もなく話を先に進める。

 

「エリカたちは俺の誕生日パーティーについて話し合っているようですよ。いろいろあって当日は何も出来なかったからと言って」

 

「そう言えばそうね。それじゃあ、私も加わってこようかしら」

 

「どうぞご自由に。ただし私たちは付き合いませんので」

 

「そんなこと言って。リンちゃんだって気になってるんじゃないの?」

 

「そんなことはありません。私は真由美さんと違ってお祭り好きというわけでもありませんので」

 

 

 今まで黙って話しを聞いていた鈴音が口を挿んだことで、真由美の興味は達也たちから鈴音へと移り、結局そのまま鈴音を引き連れてエリカたちの許に向かって行った。

 

「市原さんは可哀想ですわね」

 

「生徒会の時からあんな感じだったがな」

 

「つまり、少なくとも三年以上は七草さんの我が儘に巻き込まれている、という事かしら」

 

「強く否定しない所を見るに、鈴音さんも楽しんでいるのではないかと思いますがね」

 

 

 真由美たちが乱入してきた事で、エリカは少し不機嫌そうな表情を浮かべているが、彼女も強く真由美を否定しない辺り、本気では嫌がっていないのだろうと達也は思っていた。

 

「本気で七草さんを否定すれば、達也さんの心証が悪くなるからとか思ってるのかもしれませんよ?」

 

「俺の?」

 

「私たちは一応、同じ達也さんの婚約者という立場ですが、家柄を考えれば圧倒的に七草さんが上ですから」

 

「家柄ではそうかもしれないが、四葉家との関係を考えれば、七草家はここにいる他の家よりも下だと思うが」

 

「それはそうですが……」

 

 

 ここ数年真夜と弘一との関係は悪化の一途を辿っている。それに加えて最近では息子の智一も真夜と達也の逆鱗に触れそうになる行動をし、ますます関係は悪化しているのだ。それを加味すれば、真由美を拒絶したからといって、達也の心証が悪くなるはずはない。

 

「まぁ、ここにいるメンバーは好き好んで他のメンバーに喧嘩を売ったりはしないだろうがな」

 

「こちらから売るつもりはありませんが、売られたら買い叩いてやるつもりですわ」

 

「亜夜子さんも随分と好戦的よね」

 

「夕歌さんほどではありませんわよ。私は、私の考えで四葉家と他の二十七家との戦争を開始させる度胸なんてありませんから」

 

「そうかしら? 私は、亜夜子さんならそれくらい出来そうだと思ってるんだけど」

 

「それは考え過ぎですわよ」

 

 

 何やらこちらも不穏な空気が流れ始めたので、達也は音もたてずに席を立ち、早々に自分の部屋に引っ込もうとした。

 

「達也さん、何処へ行くつもりですか?」

 

「FLTの研究も佳境ですし、もう一度一から確認し直しておこうと思っただけです」

 

「達也さんが見落としなどするはずもありませんし、今更そのような事はしなくてよろしいのではありませんか?」

 

「何事も慢心していてはいい結果にはつながらない。過去の実績があるからと言って、今回も大丈夫だという保証はどこにもないからな」

 

「達也さんのその慎重な考え方は嫌いではありませんが、今回だけは賛同しかねますわ。明らかにこの場から逃げ出す理由に使っているようにしか聞こえませんし」

 

「実際その通りなんじゃないかしら? そもそも達也さんがこの家で仕事の事を話すなんてらしくないもの」

 

「お二人は全て知っていますから正直に話してるだけですが」

 

 

 さすがに亜夜子と夕歌の二人を同時に相手にするのは、達也にとっても些か分が悪い。何分自分の事を完全に知っているので、誤魔化そうとしても誤魔化しきれないのだ。

 

「まぁ、今回は達也さんの嘘に誤魔化されて差し上げますが」

 

「私たちが不穏な空気を醸し出していたのは事実ですものね」

 

「……自覚しているのなら、少しは自重してほしいものですがね」

 

「これでも随分と我慢してるんだけどね」

 

「ほんと、夕歌さんは好戦的ですわね……まぁ、私も人の事は言えませんが」

 

 

 どうやら夕歌と亜夜子も自分たちが好戦的過ぎるという事は自覚しているようだと、達也は少しホッとしてこの場を去るのだった。




夕歌は兎も角、亜夜子まで……

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