劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1167 / 2283
みんなピリピリしてるな……


毒の強さ

 達也が部屋に逃げ帰った事に気付かなかったエリカたちは、さっきまで達也が座っていた席を見て首を傾げた。

 

「あれ? 達也くん何処に行ったんですか?」

 

「達也さんなら部屋で仕事をするって帰っちゃったわよ」

 

「部屋で仕事? 達也くんが仕事を家に持ち込むなんて珍しいですね」

 

「まぁ、達也さんは普通なら職場で終わらせちゃうけど、今回の研究は特に大切な研究だから、一から見直しておきたいと言ってましたわ」

 

「大切な研究ですか? 達也さんがそれだけ真剣になるなんて、どんな研究なんですか?」

 

 

 興味津々に尋ねるほのかに、夕歌は首を左右に振って彼女の質問に答える。

 

「残念ながら私には分からないわ。達也さん本人から聞くしかないと思うわよ」

 

「そうなんですか……深雪なら何か知ってるんですかね?」

 

「どうでしょうね。達也さんは公私混同したりしない人ですから」

 

 

 亜夜子の言葉に、ほのかは頷く。達也が深雪を大事に思っている事は誰もが知っている事だが、深雪だけを特別扱いする事は多くないと知っている。現に一年の時のアイス・ピラーズ・ブレイクの際には、深雪と雫、どちらにも最善の手を考えて勝負に挑んだのだ。

 

「まぁ、達也くんがいないなら仕方ないですが……そういえば、津久葉さんや黒羽さんは話し合いに参加しなかったようですが、何でですか?」

 

「私はあまり接点がない人と話すのが苦手だから。それに、みんなのように若くないから、盛り上がれなくて場の空気を悪くしちゃうのも避けたかったし」

 

「気にし過ぎじゃないですか? だってそれほど年が離れてるわけじゃないんですし」

 

「十代と比べられたらだいぶ年を重ねてるのよ」

 

「そんなモンですかね? ウチのバカ兄貴なんて、まだまだ学生気分が抜けてない感じがありますけど」

 

「立派な刑事さんだと聞いていますけど?」

 

 

 亜夜子の言葉に、エリカが顔を顰める。身内を褒められるのに慣れていないのもあるが、あの兄を『立派な』と評価するなんてありえないとエリカは思っていたからである。

 

「あんなナンパ野郎を立派なんて言うのは止めた方が良いわよ。前だって藤林さんの姿を見て鼻の下を伸ばしてたんだから」

 

「藤林さん相手なら仕方ないと思いますけど」

 

「どっからどう見ても脈無しなんだから、見惚れるだけ無駄だって分かりそうなものだけど」

 

「男性なら美人に見惚れるのは仕方のないことだと思うわよ。まぁ、藤林さんの気持ちは達也さんに向いてるのは分かり切ってますし、千葉さんが無駄な事だとバッサリ斬り捨てる気持ちも分からなくはないけどね」

 

 

 夕歌のまとめに、エリカも亜夜子も何も言えなくなってしまった。まったくもってその通りであり、それ以上の事は言っても意味がないと二人揃って思ってしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカたちが夕歌と話してる側で、真由美は不思議そうに彼女たちを眺めていた。

 

「真由美さん、何かおかしなことがあるんですか?」

 

「エリカちゃんって年上の人と話す時、あんなに大人しかったかなって思って」

 

「それは単純に真由美さんが尊敬するに値しないと思われているだけでは? 私と話す時はしっかりとした子ですよ」

 

「ちょっと!? 何で私はダメでリンちゃんは良いのよ」

 

「それは千葉さんに聞いてください」

 

 

 何となくその根拠に思い当たる節がある鈴音は、真由美に追及されないようにはぐらかした。真由美はいまいち納得していない表情を浮かべていたが、こうなった鈴音を追及しても何も話してくれないという事は、長年の付き合いから理解している為、子供っぽく頬を膨らませて視線を逸らした。

 

「まぁ、リンちゃんは落ち着いてるから大人っぽく見えなくもないものね。中身は結構子供っぽいところがあるのに」

 

「真由美さんのように、見た目から何から子供っぽい人よりかはマシだと思いますが」

 

「私の何処が子供っぽいというのよ!」

 

「そうやってすぐムキになるところなんか、子供っぽいと思わないんですか?」

 

「うっ……胸はリンちゃんより大人だと思うけど」

 

「身体の一部分で大人を主張するのはおかしいと思いますけどね」

 

 

 真由美の反撃に一瞬ムッとしたが、鈴音は大人の余裕で受け流す。この辺りもエリカが真由美と鈴音を区別する原因の一つだ。

 

「まぁ、リンちゃんの胸は私と出会った時からあまり成長していないみたいだし、言われたくないかもしれないけどね」

 

「……真由美さんの精神も、私と出会った時から成長してないようですけど」

 

「何ですって!? 私の何処が子供っぽいっていうのよ!」

 

「さっきから五月蠅いですよ。騒ぐなら外で騒いでくれません?」

 

 

 だんだんと声が大きくなっていたのに漸く気が付いた真由美と鈴音は、エリカの冷めた目を受けて居心地が悪そうに視線を逸らした。

 

「別に七草先輩の精神年齢が成長していなくても、市原先輩の胸の成長が遅いのもどうでも良いですけど、あまり騒がしいと集団生活不適格と言われかねませんよ」

 

「……ゴメンなさい」

 

「悪かったわね、エリカちゃん」

 

 

 鈴音は心から反省しているような態度で、真由美は不貞腐れた様子でエリカに頭を下げた。エリカは別に謝ってほしかったわけじゃないが、とりあえず反省したようだと判断して二人の側から去っていった。

 

「エリカちゃんが一番毒が強いかもしれないわね」

 

「達也さんが一番だと思いますがね」

 

 

 毒の強さは達也が一番だと、真由美も納得してしまった。とりあえず怒られてしまった以上騒がしくするわけにもいかないので、二人は部屋に戻ることにしたのだった。




エリカの毒も、達也に比べれば可愛いものです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。