横浜中華街にあるとあるホテルの最上階、スーツを着込んだ数人のアジア系の人間が集まっていた。
「首尾は如何だ?」
「計画通り一高はモノリス・コードを棄権するしか無い」
「そうか、渡辺選手も怪我でミラージ・バッドを棄権したし、その代理は一年だ。これなら一高の優勝はなくなるだろう」
九校戦にちょっかいを出している集団、無頭竜の集まりで、彼らは一高に九校戦優勝をされると困る事情があるのだ。
「本命に優勝されたんじゃ胴元が一人負けだからな。客にバレ無い程度の妨害で利益を得る、これなら今月分のノルマは達成出来るだろう」
「だが、協力者の話では、一高が何とか出来ないのかと抗議してたらしいぞ」
「何を悪あがきを……負傷したとしても選手の代えは出来ないだろうに」
自分たちの為には何だってする犯罪シンジゲート、何故そんな集団が高校生の競技にちょっかいを出してるのかと言うと、賭けをして利益を得ようとしてたからだ。そしてその賭けでも、一高は人気で前評判通り一高が優勝すると、無頭竜が大赤字になるのだ。
「強引だったが、これならボスの制裁も無いだろうな」
「新人戦の一高の快進撃には驚いたが、これならいけるだろ」
何度も自分たちが行った結果に満足して同じような事をつぶやきながら、彼らは酒を酌み交わした。
真由美に頼まれたので、達也は話し合いの後も何事も無かったかのように作業を始めた。達也としては何事も変わらないなんて感覚を持ち合わして無い為に、特に意識しなくとも平常心で作業する事は出来るのだ。
そしてそんな達也の何時も通りの姿を見て、これから競技に出る女子たちはホッとしていた。
達也ははじめ、達也に張り付いている深雪のおかげで平常心を取り戻したのだろうと思っていたが、如何やら視線は深雪にでは無く達也に向いていたのを感じ取り、如何やら自分は彼女たちの中にそれなりに影響を与えているのだと自覚した。
「お兄様、先ほど会長と何を話されていたのです?」
黙々と作業をしていたら、不意に深雪がそんな事を聞いてきた。
「今回も妨害工作が施されていたか如何かや、施されていたとしてその理由は何かとか、そんな事を聞かれただけだ」
「そうですか」
「何故そんな事を気にするんだ?」
会話をしながらも、達也は作業の手を止めたりはしない。深雪も別にその事で腹を立てたりはしないので、淡々と会話を続ける。
「いえ、わざわざ布一枚隔ててまで何の話だったのかと思いまして……会長もお兄様を頼りにしていらっしゃるんですね」
「どうも会長の中で、俺は弟みたいな存在らしい」
この前の冗談をそのまま使い、達也は深雪の追及をかわした。もちろん『弟』だとは真由美も本気では思って無いし、達也も真由美が自分に向けている感情が姉弟のそれでは無い事に気付いている。だがそれを言うほど達也も命知らずではない。
「さて、深雪は本戦だから関係無いが、そろそろミラージ・バットの決勝だ。悪いが俺は移動させてもらう」
「分かりました。お兄様、頑張って下さい」
「……頑張るのはほのかと里美だ」
深雪の声援に少し気の抜けた返事をし、達也はあえて見える場所で作業していたのを止めて選手控え室へと移動した。
達也の変わらない姿を見て一番安心したのはほのかかもしれない。雫同様達也の事を信頼しているほのかは、達也が動じないのを見て、これなら安心出来ると思い込んだのだ。
「決勝だからと言って、別に戦い方が変わる訳では無い。気力で勝負は厳禁だ。あくまで必要なのは冷静なペース配分」
達也に釘を刺されてスバルが首を竦める。
「練習でやったようにダミーを作るのも駄目だ。あれは体力の無駄だからな」
今度はほのかが首を竦めた。
「練習通りに出来ればワンツーフィニッシュはいただきだ。三高の愛梨や沓子も居るが、特に気にする事は無い」
「……名前で呼んでるんですね」
「ん? ああまぁな、昨日偶然あって頼まれた」
「相変わらず君は人気者だな」
「警戒されてるらしい……その前には一条選手と吉祥寺選手も顔を見に来た」
事実なので達也はその事も淡々と伝えた。
「こっちを見てる」
「視線は達也さんにみたいですね」
「やれやれ、俺は競技には出ないんだけどな……」
呆れながらも、達也は視線を三高のブースへと向ける。視線が合うと愛梨と沓子は恥ずかしそうに視線を逸らしたのだった。
達也に視線を向けていた二人は、急に向けられた視線にドキッとして慌てて視線を逸らした。
「今、気付かれましたね」
「うん。やっぱり達也さんは鋭いんだね」
試合前だと言うのに、参加する愛梨も沓子も対戦相手を気にしていない。気になるのは達也ただ一人なのだ。
「司波深雪は居ませんが、達也様が担当している以上、苦戦はするでしょうね」
「でも、愛梨なら勝てるんじゃない? この競技はピラーズ・ブレイクみたいに奇襲出来ないし」
「そうだと良いんですけどね……達也様の事だからきっと何か策があると思いますよ」
「ウチに達也さんが居れば最強だったのにね……」
「それは言っても仕方ないですわ。達也様は一高の生徒なのですから……」
口ではそんな事を言っていた愛梨だったが、頭の中では達也と同じ高校だったらと言う妄想でいっぱいになっていた。師補十八家の令嬢とは言え、愛梨も十五歳の少女なのだ。
競技が始まって、想像通り点数を稼いでいくのはほのかとスバル。愛梨と沓子も何とか食い下がってはいるのだが、二人には届かない。
「クソ、何であんな小さな起動式であんな複雑な動きが出来るんだ」
どの学校もレギュレーション限界までのハードを使っているので、起動式での差となるとそれはソフトの差になってくる。あずさは客席から達也の組み上げたCADの性能を見て感心していた。
「(さすが司波君だなぁ、私だったらあんな複雑な起動式は組めない)」
あずさは達也のエンジニアとしても腕を早くから認めていた。そして自分以上だとも思っている。だから達也が二科生だとかそう言った事は関係なく、達也の組み上げた起動式を見て感動出来るのだ。
「(何処で技術を磨いてるんだろう……深雪さんのCADを調整してるだけであそこまで技術が身に付くのかなぁ……)」
認めてはいるのだが、達也の技術力の高さには疑問を抱いている。
「まるでトーラス・シルバーじゃねぇかよ」
「ッ!?」
誰かがつぶやいた言葉は、あずさの耳にはっきりと届いてきた。
「(トーラス・シルバーみたい? ううん、これってトーラス・シルバー本人じゃなきゃ出来ないんじゃ……)」
選考会の時の完全マニュアル調整に始まり、氷炎地獄、フォノン・メーザー、ニブルヘイムと言った起動式が公開されていない魔法をインストールしたり、能動空中機雷を作り上げた技術力、それらを鑑みた結果、あずさの中に一つの事実が導き出された。
「(もしかして……)」
そう思った時、あずさの頭の中で達也の言葉が思い出された。
「(もしかしたら俺たちと同じ日本人の青少年かもしれませんね)」
「(まさか、まさか……)」
「あーちゃん? さっきから如何したの?」
隣で観戦していた真由美が、あずさの挙動がおかしい事に気がついたが、あずさはそれに反応する事は出来なかった。
「(聞いたら答えてくれるかな……)」
あずさの興味は、選手控え室にいる達也に全て向けられていたのだった……
アニメ版ではあーちゃんのこのシーンがお気に入りです。