劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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原作15巻の発売日です。ちなみに購入済みですがまだ読めてません


三高女子の反省

 ミラージ・バット決勝の結果は、ほのかが優勝でスバルが準優勝で、達也が試合前に宣言したように一高のワンツーフィニッシュで幕を下ろした。

 その結果を受けた三高一年は、ミーティングルームを使って話し合いの場を設けようとしたが、ミラージ・バットに参加した愛梨と沓子が参加しないとの事だったので結局話し合いは行われなかった。

 何故愛梨と沓子が参加しなかったのかと言うと、自分たちの部屋での反省会を開く為に、そっちには興味が薄かったからだ。

 

「惜しかったね、愛梨」

 

「沓子さんも残念でしたね」

 

「一高の二人に上位を取られたけど、愛梨が三位で私が四位ならまだマシだよ。大きく離された訳でも無いし、一高は残念だけどモノリス・コードは棄権するだろうし」

 

「そうですわね……私たちが勝てなかったのは残念ですが、三高が勝てばまだ良いですわね」

 

 

 モノリス・コードの事故の事は、愛梨たちにはかなり衝撃を与えていた。自分たちのチームに対抗出来る可能性があるとすれば一高だけだったのが、その一高が棄権するしか無い状況になった時点で、将輝と真紅郎を擁する三高に対抗出来る高校は無くなったと言っても過言では無いのだ。新人戦の成績で、今現在の一位である一高と二位の三高との差は、モノリス・コードでひっくり返せる差なのだ。

 

「でも結局、達也様には敵いませんでしたわね」

 

「ミラージ・バットでも達也さんの力は飛びぬけてたもんね」

 

「観客席で愚痴ってた人が居たもん。『あれじゃあトーラス・シルバーじゃないか』って」

 

「確かに達也さんの凄さは際立ってましたけど、世界的エンジニアが高校生の競技には参加しませんよ」

 

 

 まさか達也がその『シルバー』本人だと思っても無い四人は、誰かがこぼした愚痴を笑い飛ばした。

 

「達也様に担当してもらった選手は、結局互いに負けただけですわね」

 

「まだ本戦の司波深雪が残ってる」

 

「いくら達也様の力が強大でも、本戦で一年生が勝てる訳が無いよね」

 

「如何でしょう。あくまで噂ですが、渡辺選手にも匹敵する魔法力を、司波深雪は有しているとの事です」

 

「才能があるのは認めますけど、その才能を活かしきる事が出来るか如何かは別問題ですわ」

 

「でも、達也さんの妹だし」

 

「ずば抜けててもおかしくは無いよね」

 

 

 ピラーズ・ブレイクで深雪が見せた『インフェルノ』と『ニブルヘイム』を思い出して、栞と沓子は震え上がる。ミラージ・バットでは攻撃性の魔法は関係無いが、あれだけの魔法を操れるのだから、上昇と下降の二種類の魔法くらい簡単に使いこなせるのではないかとも思い始めていた。

 

「恐らくですが、達也さんが担当するので決勝には残るかと思います」

 

「忌まわしき司波深雪……達也様に担当していただけるだけでも羨ましいのに、妹と言う事で随分と甘えてる様子……」

 

「愛梨? 見せちゃ駄目な顔してるけど……」

 

「兄妹なんだから仕方ないよ」

 

 

 精一杯の慰めの言葉も、今の愛梨には届かない。写真を見て興味を持ち、実際に話してみて完全に達也に魅了されてしまっているのだ。

 もちろん他の三人も程度に差はあれども達也に興味は持っているのだが、今はそれ以上に愛梨を止めなくてはマズイと思っているのだ。

 

「疲れてるんだよ、愛梨は。だから寝よ。ほら横になって」

 

「疲れていると苛立ちやすいですから。寝れば収まりますよ」

 

「沓子さん、香蓮さん、私は別に疲れてませんよ?」

 

「完全に怒ってる……」

 

 

 栞がこぼした言葉に、沓子と香蓮は頷いて同意した。愛梨は今怒ってる、それが三人の共通認識だった。

 

「……少し外に出てきますわ」

 

「付き合いましょうか?」

 

「いえ、一人で大丈夫です」

 

 

 頭に血が上ってると自覚していた愛梨は、冷静さを取り戻す為に部屋から出て行った。そんな愛梨を見送りながら、三人はホッと胸を撫で下ろす。

 

「愛梨があそこまで怒るなんて珍しいよね」

 

「うん、よっぽど達也さんの事が気になってるんだね」

 

「それと同時に司波深雪に対抗心を燃やしてるんだと思いますよ」

 

「確かに普通の兄妹にしたら仲良すぎるとは思うけど、香蓮のお父さんが調べた通り、ご両親が別に暮らしてるんでしょ?」

 

「ええ、実父は後妻の持ち家に入り浸ってるようですし、実母は既に故人だと」

 

「それでお兄さんである達也さんに依存しちゃってるのかな」

 

 

 あくまでも憶測ではあるが、三人の考えは大体当たっていた。深雪が達也に完全に依存するきっかけは母親の死と父親に対する不信感が募りに募った結果だ。

 もちろんそれ以前から深雪は少なからず達也に依存していたのだが、今の状態になったのには両親の事が大きいのだ。

 

「もう一度くらい達也さんに接触は出来ないかな?」

 

「出来るとしたら九校戦終了後の合同パーティですかね」

 

「あれってダンスパーティーだっけ?」

 

「別に踊れない人は参加しないで食べてるだけでも良いんだよ」

 

「そっか、達也さんは出るのかな?」

 

「如何でしょう。一高の結果次第でしょうが、もし一高が総合優勝を決めていれば、その立役者たる達也さんも参加するでしょう」

 

「新人戦は兎も角、本戦には七草家の令嬢と十文字の御曹司が居るんだもんね。一高の力が頭一つ抜けてるのは仕方ないよ」

 

 

 一年だけなら愛梨と将輝、そして自分たち百家の人間が多く居る三高の方が上だとは思えても、全体で見たらやはり一高の三年生の実力は脅威なのだろう。冷静な分析をした栞の考えに、沓子も香蓮も頷いて同意する。

 

「せめて新人戦の優勝はしたいな」

 

「でも、私たちはもう何も参加出来ない」

 

「残りは男子モノリス・コードだけですからね。一条君と吉祥寺君が居るから大丈夫だとは思いますけど」

 

「あの二人が負けるとも思えないし、一高が棄権するしか無いんだから、新人戦はウチの優勝かな」

 

 

 一高が棄権しても、三高が二位までに入らなければ一高が優勝の点数差なのだが、彼女たちの中で将輝と真紅郎が負けるビジョンは全く無かったのだ。

 まだ結果は出てないにしても、既に新人戦は三高の優勝と言うムードが、他の学校にも流れており、それが現実になるのもそう遠くは無い。明日にはモノリス・コードで三高が優勝し、そのまま新人戦も三高の優勝と言う結果が待っていると、今の段階で三人は確信していたのだった。

 だが、その考えは十師族の力と、彼女たちがあこがれ、そしてほんのりと好意を向けている達也によって脆くも砕かれる事になるのだった……




そろそろ達也が大活躍しますかね

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