劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この二人が抜けたらきつそうだな……


軍の心配事

 FLTでの会議を済ませて家に帰る途中、達也は背後に知り合いの気配を感じ振り返った。

 

「お帰りなさい、達也くん」

 

「響子さんもこの時間でしたか。今日は国防軍での仕事の日でしたっけ?」

 

「武器開発部の方だけどね。独立魔装大隊の方には、最近顔を出してないし」

 

 

 情報部の暴走とされる事件が起きて以降、響子も国防軍に対する不信感が募っており、独立魔装大隊に顔を出すのを止めている。もちろん、仕事が来ればしっかりとこなしているが、あくまでもデータを送るだけでその場に居合わせる事はしていないのだ。

 

「中佐もそれで構わないと言ってくれてるしね」

 

「元々俺は特殊な立ち位置ですし、何時いなくなってもおかしくないと思われていたのかもしれません」

 

「サード・アイがなくても達也くんは十分強いしね」

 

「四葉の方で、サード・アイに変わるCADを作ろうという動きがありますし、そもそも頻繁にあのCADを使わなければいけないような状況になるとも思えませんし」

 

 

 サード・アイはマテリアル・バーストを使用する際に最適なCADであり、そのサード・アイを頻繁に使わなければいけない状況というのは、達也には想像出来なかった。

 

「そんな頻繁に戦略級魔法に頼らなければいけない程、日本の国防軍は弱いとは思いません」

 

「まぁ、それ以外にも十師族がいるしね。国を守る為、要人を守る為に作られた家だってあるわけだし」

 

「それは第十研出身魔法師に対する嫌味ですか?」

 

「本人たちに聞かれなければ、嫌味にならないのよ」

 

「そんなものですかね」

 

 

 響子のおかしな理屈も、見方を変えればその通りだと感じたので、達也はツッコミを入れる事無くその事を受け入れた。

 

「さて、物騒な話はここまでにして、ちょっと寄り道していかない?」

 

「寄り道といっても、ここら辺に手ごろな店など無かったと思いますが」

 

「この間見つけたのよ。ちょっと奥まったところにあるから分かりにくいけど、それが逆に良いのよね」

 

 

 恐らくは他の婚約者に邪魔をされないからなのだろうと、達也は響子の本音を見抜いたが、少し落ち着いた雰囲気の場所で一息吐くのもいいかと感じたので、そのまま響子に付き合う事にした。

 

「――こんなところに喫茶店があったんですね」

 

「私もびっくりしちゃったわよ。普通ならもう少し目立つようにするんだろうけど、ここは所謂『隠れ家』的な雰囲気が売りみたいよ」

 

 

 店に入りコーヒーと紅茶を注文して、二人は飲み物が来るまで黙って座っていた。テーブルもしっかりと仕切られているので、確かに人に聞かれたくない話をしたり、密会したりするには最適な店だと達也も感じていた。これで後は味が伴えば、通い詰めてもいいと思えるくらいに。

 

「――まぁ、こんなものですか」

 

「達也くんの判定は厳しいからね。私は十分美味しいと思うけど」

 

「悪くはないですが、アイネブリーゼの方が良いですね、俺は」

 

「一高の側にある喫茶店ね。達也くんたちが行きつけにしてる」

 

「最近は忙しく寄れてませんがね」

 

 

 最後に寄ったのは何時だったかと、達也は昔を懐かしむような表情でマスターの顔を思い出していた。

 

「実は千葉寿和警部が情報屋として付き合ってるマスターの息子さんが経営しているのよね、そのお店は」

 

「そういえばそんなことを聞いたことがある気がします。横浜に父親が経営している喫茶店があるから、どっちのコーヒーが上手いか比べてみてくれと」

 

「まぁ、親が情報屋だなんて言わないでしょうけど、達也くんにはお見通しみたいだったみたいね」

 

「街の情報屋に頼るよりも、響子さんに頼った方が確実ですからね」

 

 

 平然と言ってのける達也とは違い、響子は嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になる。他の客に見られる事はないが、達也に見られるのが恥ずかしく、響子は俯いて達也から視線を逸らして気持ちを落ち着かせることに専念した。

 

「それで、何故今日ここに誘ったのですか? 少しでも一緒にいたかったから、というわけではありませんよね」

 

「さすがにお見通しね。この間達也くんが襲撃に使ったフリードスーツ、国防軍の中で問題視する声があるわ。サード・アイまでとはいかなくても、遠距離照準補助が付いているんじゃないかって」

 

「視ただけで分かるような造りはしていないはずですが」

 

「だから、あくまでもついているんじゃないかって疑ってるだけよ。それで、あのスーツは独立魔装大隊が使っているムーバル・スーツの改良版よね?」

 

「そうですね。元々俺が考案したものですから、四葉家が作ろうとしても不思議ではありません。そして、国防軍に文句を言われる筋合いもありませんよね」

 

「その通りね。でも、四葉家の態度を気にする人間が多くいるという事なのよね。師族会議や若手を集めた会議で四葉家が対立しているのも、もしかしたら四葉家を担ぎ上げて別の組織を作るんじゃないかという噂が飛び交っているのも、今回の一件に絡んでるようだし」

 

「担ぎ上げようとするのは勝手ですが、こちらは大人しく神輿になるつもりはありませんので、その不安はまったくの無意味です」

 

 

 達也がバッサリと斬り捨ててくれたお陰で、響子の心も少し晴れやかになった。そもそも深雪を担ぎ上げようとした事に反発した達也が、大人しく神輿になるわけがないと今更ながらに思い至り、響子はそれ以上頭を悩ませることはしなかった。




敵対しなければ大丈夫……か?

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