劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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基準が違うので仕方ないですが……


凝り固まった思考

 響子と一緒に帰るとまたいろいろと言われそうだったので、達也は先に響子を帰して、自分は少し時間を潰してから帰る事にした。

 

「あっ、達也くんお帰り~」

 

「エリカか……紗耶香さんは随分と疲れてるようだが、何をしてたんだ?」

 

「別に普通だって。さーやは最近防衛大学のメニューばっかりで基礎訓練を疎かにしてたから、ちょっと基礎を叩き直してただけ」

 

「防衛大学だって基礎を疎かにしているわけではないと思うんだが?」

 

「でも、結果的にさーやはついてこられなかったんだから、基礎を疎かにしてる証拠じゃない?」

 

「千葉剣術道場の基礎と、一般的な基礎とではズレがあるんじゃないのか? 現に矢車だって最初の頃はヘロヘロだったんだろ?」

 

 

 達也に指摘されて、エリカは自分たちの基準が他所とは違うのかもしれないという考えに思い至った。どれだけ実家を嫌おうが、刷り込みでそれが基準だと思い込んでいたのかと、エリカは少しショックを受けている様子だ。

 

「そっか……ゴメンね、さーや」

 

「だ、大丈夫よ……達也さんにも恥ずかしい姿を見せたわね。ゴメンね?」

 

「いえ、お気になさらずに」

 

「さーやも一回あたしのメニューをこなしてみる? そうすれば防衛大のメニューがより楽になると思うけど」

 

「え、遠慮しておくわ……楽だと感じる前にギブアップしそうだし」

 

 

 大学でギリギリの肉体を、これ以上苛め抜くなど紗耶香には考えられなかった。桐原や巴も入学してそれほど経っていない今、他の事をしようと考える気力が萎えているというのに、その二人より劣っている自分がそんなことをすれば、大学のメニューについていくことすら難しくなると思ったのだろう。

 

「ところで達也くん、今日は何処にお出かけしてたの?」

 

「FLTで俺が企画した計画について、最終会議が開かれたから、そこに顔を出しただけだ」

 

「顔を出すだけって、達也くんが中心になってやってく研究なんでしょ? 達也くんがいなきゃ意味ないと思うんだけど」

 

「俺は何か口を出す立場じゃないからな。周りが俺の計画をどう捉えて、今後どうするかを話し合う為に開かれた会議だ。俺は結果だけ聞けば十分だったんだが、いないと始まらないと言われたから顔を出したんだ」

 

「本当に、達也くんはあたしたちとは全然別の次元に存在してるんだね。普通なら高校三年生が大企業の中枢にいるなんてありえないって」

 

 

 エリカの感想に、達也は首を傾げたかったが、紗耶香が頷いているのを見てズレているのは自分なのかと理解して何も言わなかった。

 

「達也くんからしてみれば当たり前なのかもしれないけど、あたしやさーやがどう頑張ったってそんなことは出来ないもん」

 

「エリカや紗耶香さんは、頭脳労働じゃなくて肉体労働の方が得意だからだろ?」

 

「達也くんはどっちでも出来るじゃない。三高の吉祥寺君は、頭脳労働は超高校生級だけど、肉体労働には向いていないじゃない?」

 

「あー、なんとなく分かるかもしれない。あの子、ちょっとひょろっとしてるしね」

 

 

 吉祥寺が聞けば顔を真っ赤にして否定しそうな事を言う二人を前に、達也はここにいない吉祥寺に同情した。確かに頭脳労働が主体の真紅郎ではあるが、別に肉体労働が苦手なわけではない。一条家が集めた有志にも加わったりしてるし、実戦経験もそれなりに積んでいるのだ。

 

「後は一条君も何となく頼りなさそうな感じがする。自分一人で突っ込む分には強そうだけど、不測の事態が起こった時にどう対応すればいいのかに迷いそう」

 

「それも分かる。達也くんならすぐに対応出来そうだけど、一条くんは何となくダメそうだよね。京都で一緒に行動した時も何となく頼りなかったし」

 

「私たちの基準がおかしいのかもしれないけど、二人とも達也さんをライバル視してるんだから、それくらい出来てもらいたいって思っちゃうんだよね」

 

「そもそも、力も技も制限されていた達也くんに真っ向から挑んで負けたんだから、一条くんも吉祥寺君も自分の方が下だって認めないといけないと思うんだけどね」

 

「あら。三高の生徒の悪口が聞こえたと思ったら、一条と吉祥寺の事でしたか。それでしたら、思う存分言って差し上げてくださいませ」

 

 

 エリカと紗耶香の会話が聞こえたようで、その輪に愛梨も加わり、あっという間に一条と吉祥寺の悪口大会のような様相になってしまった。

 

「自分が優れていると思い込んで達也様に喧嘩を売り、あっさり負けたくせにそれを認められないだなんて、二十八家の人間として、世界的に認められている研究者として、潔くありませんわよ」

 

「一度自分の方が優れていると思うと、そう簡単に負けを認められないんじゃないのか?」

 

 

 達也は、別に二人の味方をするつもりは無いが、一般的に言われている事をいう事でこの様相をどうにかしようとしたのだ。だが結局効果は無かった。

 

「そういう凝り固まった考え方では、新しい事は出来ませんもの。あの二人は負けるべくして負けたのですから、その事をしっかりと反省して次に生かそうとしなければいけなかったのですわ」

 

「愛梨の言う通りだよね。結局去年の九校戦だって、達也くんに執着し過ぎて、結局達也くんにいいようにやられたわけだし」

 

「明智さんの散弾型インビジブル・ブリットがいい例だったわね」

 

 

 結局この後しばらく、三人の悪口を聞き続けた達也は、今度二人にあった時少しは同情してやろうと心に決めたのだった。




いない人が可哀想だ……

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