劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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彼女の本業ですから


お出迎え

 達也の誕生パーティー当日、エリカから招待された美月は、達也たちの新居の最寄り駅で待ち合わせをしていた。

 

「柴田さん」

 

「あっ、吉田君。レオ君もこんにちは」

 

「おぅ」

 

 

 エリカが招待したのはこの三人で、今日参加するメンバーでただ三人の外部メンバーである。

 

「あれ? 十三束君は?」

 

「都合が悪くなっちゃったって、達也に連絡したって連絡を貰ったよ」

 

「そうだったんですね」

 

「まぁ十三束も百家の一員だからいろいろあんだろうな」

 

「どういう意味ですか?」

 

 

 レオが零した感想に、美月が本気で分からないというように首を傾げて、幹比古に問い掛けた。

 

「えっと、今四葉家と七草家の関係が悪化しているのは、柴田さんも何となく知ってるよね?」

 

 

 美月が頷いたのを見て、幹比古も小さく頷き返して説明を続ける。

 

「七草家を利用した他の家が、四葉家を孤立させようと動いてるって噂が流れているんだ。十三束家としては、そんな噂の中息子が四葉家の次期当主の誕生パーティーに参加したのを知られたら、四葉家に与すると思われるかもしれないって考えたのかも」

 

「ですが、達也さんと十三束君はクラスメイトですし、個人的にも友好な間柄ですよね? お友達のお誕生日を祝うくらい平気だと思うんですけど」

 

「うん、そうだね。僕たちの常識なら柴田さんが正しいと思うよ。でも、達也たちがいる世界は僕たちとはまた違った世界だからね。数字付きにしか分からない世界なのかもしれない」

 

「まぁ、エリカだったら気にしなかったかもしれねぇがよ」

 

「そもそもエリカは達也の婚約者の一人だからね。千葉家としては、長男の寿和さんを助けてもらった恩もあるだろうし、全面対立になっても四葉家の味方をすると思うよ」

 

「魔法師同士で対立してる場合じゃねぇと思うけどよ。俺らには考え付かないような考えがあっての事かもしれないがよ」

 

 

 日に日に反魔法師運動が過激になっている中で、魔法師同士が足並みを乱してる場合ではないとレオは感じている。だからといって、達也の方が歩み寄るべきだとは思っていなかった。

 

「それにしても、レオ」

 

「あん?」

 

「君って何も考えていないようで考えてるんだね」

 

「褒めてないだろ、それ」

 

「感心してるんだよ。普段の君の言動を見ていて、そんなことを考えているようには思えないからね」

 

「俺だってちゃんと考えてるっての。というか、どうやって達也の家に行けばいいんだ?」

 

 

 普通に建物に近づくことは出来るだろうが、勝手に入っていいのだろうかという疑問を投げかけるレオに対して、幹比古も美月も答えることが出来なかった。

 

「柴田様、吉田様、西城様、お待ちしておりました」

 

「桜井? なんだその口調は」

 

「本日、お三方様を屋敷までご案内するよう、達也さまから仰せつかりました。四葉家使用人が一人、桜井水波と申します」

 

「なるほど、達也から頼まれたのか」

 

 

 制服姿の水波しか見たことが無かったレオではあったが、あまりにも似合っているメイド服に対してツッコミを入れることは無かった。幹比古と美月は、水波のかしこまった口調にも圧倒されたが、それに動じないレオにも驚いて何も言えなかった。

 

「それじゃあ桜井、案内頼むわ」

 

「かしこまりました」

 

 

 レオが水波の相手をしてくれたお陰で、幹比古と美月は失礼な視線を水波に向ける事無く屋敷に案内してもらえたが、前を歩く水波をどうしても意識してしまっていた。

 

「おいどうしたんだ? 幹比古や美月だって、桜井と会った事あるだろ?」

 

「うん……当然あるんだけど……」

 

「私がどうかなさいましたか?」

 

「水波ちゃん、普段はメイド服なんですか? それって達也さんの趣味なんでしょうか……」

 

「いえ、普段は普通に洋服を着ていますが、今日は使用人として参加しておりますので、この服を着させていただけるよう達也さまにお願いいたしました」

 

「そうなんですか。とても似合っていますよ」

 

「恐縮です」

 

 

 同じ女子という事で、美月の方が幹比古よりも早くこの状況に順応した。一人おいていかれたような気分になった幹比古は、意識しないよう心掛けて何とか平常心を取り戻したのだった。

 

「一応聞いてはいたがよ……」

 

「これは、凄いね……」

 

「お城みたいです」

 

 

 新居を見て絶句するレオと幹比古とは違い、美月は憧れるような目で新居を見詰める。

 

「こちらを首からお掛けください」

 

「これは?」

 

「関係者パスでございます。監視システムが作動しないよう、達也さまが術式を組み込んでいますので、屋敷内では絶対に外さないでくださいませ」

 

「外したらどうなるんだ?」

 

「四葉家の技術力をつぎ込んだ防犯システムが作動し、即座に捕えられます」

 

「スゲェな……」

 

「我々と致しましても、達也さまや深雪様のご学友を捕える事は避けたいですので、絶対に外さないでくださいませ」

 

「あれ? でも達也が僕たちは来客として設定されてるから、監視システムには引っ掛からないって言ってたような……」

 

「達也さま個人で組んだ監視システムには、お三方は登録されていますが、四葉家が組んだシステムは、あの家の住人と四葉家の関係者以外は不審者として識別されるようになっておりますので」

 

「それはそれで怖いね……」

 

 

 屋敷に四葉家の秘密が隠されているとは考えにくいが、それくらい達也が四葉家にとって重要な人物なのだろうと幹比古は考え、そして冗談でもパスをエリカに外されないように気をつけなければと決意したのだった。




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