劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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新刊、読み終わりました


弱者の地位

 愛梨たちが部屋で反省会を開いてるのとほぼ同時刻、達也はほのかとスバルがワンツーフィニッシュを決めて盛り上がってる輪には加わらずに一高のミーティングルームに呼び出されていた。

 ミーティングルームで達也を待っていたのは、真由美、克人、摩利、鈴音、服部、あずさの一高幹部と、桐原と五十里だった。

 あんな事故の後だから喜びを表情に出さないのは理解出来たが、それにしても彼らの表情は硬すぎると達也には思えた。

 

「ご苦労様。今の段階で新人戦の準優勝以上の得点を稼げたのは間違いなく達也君のおかげです」

 

「選手が頑張った結果です。自分は何もしてません」

 

 

 達也がいくら謙遜しても、周りはそう思ってはくれていない。確かに深雪、雫、ほのかは誰が担当しても結果は変らなかっただろうが、それ以外はそうとは言い切れないのだ。

 

「いい加減認めたら如何だ。君以外の全員が君の功績を認めてると言うのに」

 

「はぁ……それで自分が呼ばれたのはその事をわざわざ言う為なのですか?」

 

 

 何時まで経っても本題に入ろうとしない上級生に、達也は若干の苛立ちを覚えていた。視線を真由美に向けると、彼女は克人を視線で抑えていた。如何やら自分で言いたいようだと、達也は理解し、それならば早いところ本題に入ってほしいと言う意味を込めて、真由美に視線を固定した。

 

「……さっき言ったように、今の段階で既に準優勝以上は確定しています。このままモノリス・コードを棄権したとしても、当初の目標だった準優勝以上は達成出来ると言う事なの」

 

 

 真由美に口ぶりでは、モノリス・コードを棄権するつもりが無いように感じ取れた。達也は何となく呼ばれた理由にあたりをつけ、そして内心でため息を吐いた。

 

「三高の一条君と吉祥寺君の事は知ってる?」

 

「ええ」

 

「そう……一条君は兎も角、吉祥寺君の事は達也君の方が詳しいわよね。それでその二人がモノリス・コードに参加しているので、三高がモノリス・コードを取りこぼす事はほぼありえない。始まる前は準優勝で十分だって思ってたけど、ここまで来たら優勝を目指したいの」

 

「……選手が負傷した場合でも、代替は認められてません。棄権する以外に他無いのでは」

 

「十文字君が交渉してくれたおかげで、選手の代えが認められました。そこで私たち幹部で話し合った結果、達也君にお願いするのが一番だと言う事になった。だからお願い! 達也君、モノリス・コードに参加してくれないかな?」

 

 

 本人抜きで勝手に決められてもと言うのが、達也の偽らざぬ本音なのだが、口に出したのは別の事だ。

 

「何故自分に白羽の矢が立ったのでしょうか?」

 

「競技なら兎も角、実戦なら君が一年の中でトップだからな」

 

「モノリス・コードは実戦ではありませんが……それともう一つ、一つの競技にしか参加してない選手が居るのに、何故技術スタッフである自分を選んだのでしょうか?」

 

「達也君になら任せられると思ったからよ。入学式の後のイザコザでも、達也君は森崎君に負けてなかったし、はんぞー君や桐原君にも勝ってるでしょ?」

 

「……しかし自分には荷が重すぎですよ」

 

 

 実戦経験があるにしても、その事は達也と深雪以外知らない。ここで達也が断っても誰も文句は言えないはずなのだが、一高幹部には達也に断らせないようにしようとしてる節が見受けられた。

 

「司波、お前なら出来るとリーダーの七草が判断し、俺たち幹部もその考えに同意した。補欠だと言う事に甘えないで、義務を果たせ。お前は我が校の代表に選ばれているのだから」

 

「………」

 

 

 正確には九校戦に補欠と言う概念は存在しない。その事は克人にも達也にも分かっている。逃げ腰だった達也を正面から捕らえ、そして真正面からぶつかってきた克人に、達也も白旗を上げた。

 

「分かりました。しかし他の二人は如何するんですか?」

 

「お前が決めろ」

 

「は?」

 

「俺たちはモノリス・コードの命運をお前に託す事にしたんだ。残りのメンバーはお前が好きに決めろ。責任は俺が取る」

 

「選手以外から選んでも良いんですか?」

 

「えっ、それはちょっと……」

 

「構わん。今更例外が一つや二つ増えても変わらんだろ」

 

 

 達也の悪乗りに、克人は全く動じずに応える。他の幹部は苦い顔をしているが、責任を克人が取ると言ってる以上、それに対抗出来るのは真由美くらいしか居ないのだ。そしてその真由美は抵抗するつもりは無さそうだった。

 

「では1-Eの吉田幹比古と、同じく1-Eの西城レオンハルトで」

 

「分かった。中条!」

 

「は、はい!」  

 

 

 あずさに手配を任せ、克人は鈴音を引き連れて二人の説得に向かった。説得と言うよりは通告と言った方が正しいのかも知れないが……

 

「それで達也君、何でその二人なんだ?」

 

「俺は男子の練習も試合も見てませんし、今から情報を集めても間に合いません。その点あの二人ならクラスメイトですし実力も知ってますから」

 

「なるほどな」

 

「ゴメンね、何だか無理矢理押し付けたみたいで」

 

「分かってるのならこんな強引なやり方をしないでくださいよ」

 

 

 真由美と摩利だけなら何とか言い包める事が出来ただろうが、さすがに克人相手では達也も分が悪いのだ。

 達也がモノリス・コードに参加する事が正式に決定し、達也は部屋に向かう前に外の空気を吸いに出た。

 

「愛梨?」

 

 

 しかしその場には先客が居た。三高女子のエース、一色愛梨だ。

 

「達也様? 如何かしたのですか? こんな時間に」

 

「それは俺のセリフだと思うんだがな……夜遅くに女の子が一人で外に居るなんて、いくら軍の施設だからって危険だぞ」

 

「少し頭を冷やしに来ただけです。達也様こそ何故こんな時間に?」

 

「少し考えを纏めたくてな」

 

「考え……ですか?」

 

 

 達也の言葉に愛梨が小首を傾げた。

 

「今更ながら厄介事を引き受けたと思ってな。だが引き受けた以上如何にかしないといけないからな」

 

「厄介事ですか? それはいったい……」

 

「ウチの先輩たちは諦めが悪いようでな。モノリス・コードの選手交代を運営側に認めさせたらしく、その交代選手に俺が選ばれた」

 

「本当ですか!? それじゃあ応援しなくては!」

 

「おいおい、愛梨は三高の選手を応援するのが普通だろうが」

 

 

 達也とのやり取りで別の意味で興奮してきた愛梨を、達也は苦笑いを浮かべながら見つめていた。如何も数字付きの女子とは妙な縁があるものだと、達也が考えていたのを、愛梨は気付く事は出来なかったのだった。




九校戦が終わったら、またIFでもやろうかなと考えてます

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