劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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珍しく女子が出ない


男三人

 達也の案内で道場に足を運んだレオと幹比古は、ここが何処か一瞬分からなくなってしまっていた。

 

「これが個人宅にある道場なのか? エリカの家の道場と比べても遜色ねぇじゃねぇか」

 

「個人宅とはまた違うだろうけども、確かに何処かの教室で使ってる道場じゃないかって思うよ」

 

「エリカや紗耶香さんがいるし、俺もたまに使うからちゃんとした道場を注文したらこうなっただけだ。それほど驚くようなものでもないだろ」

 

「いやいやいや、達也の普通は他の人とズレてるんだから、驚くに決まってるだろ。なぁ、幹比古」

 

「そうだね。達也が普通だと思っている事の大半は普通じゃないから」

 

「そうなのか?」

 

 

 自分がズレていることは自覚している達也ではあるが、そこまで言われるような事ではないと思っていただけに、レオに指摘に首を傾げる。逆にレオと幹比古は、達也が意外そうにしている事に驚きを隠せない様子だった。

 

「今度時間があったらここで稽古してみたいものだぜ」

 

「使うのは構わないが、その前にセキュリティシステムの書き換えなどをしないとな。運動した後シャワーを使う際にパスを外して、裸のまま捕まるのはレオも嫌だろ?」

 

「当たり前だ。てか、達也が簡単に書き換えられるのか?」

 

「レオ、達也なら何でもありだよ」

 

「それもそうか」

 

 

 それで納得されるのも複雑だが、達也としても詳しく説明しなくていいというメリットがあるので、幹比古のセリフにツッコミは入れなかったが、抗議するような視線は向けておいた。

 

「なんだかこの家に来て、達也が本当に結婚するんだなって改めて思ったよ」

 

「結婚といっても、高校を卒業するまでは婚約者のままだがな。だいたい紙切れ一枚役所に出すだけなんだから、それほど感慨深く捉える必要はないんじゃないか?」

 

「冷めてるね、達也は……普通結婚というのは相当な覚悟が無いと出来ないものだと思うけど」

 

「そんなものか?」

 

 

 レオに尋ねた達也だったが、レオも肩を竦めて分からないと返すだけで、幹比古の考えが正しいのかどうか理解出来なかった。

 

「そういえば幹比古」

 

「ん、なんだい?」

 

「この間は悪かったな。ウチの一年が間違えた所為でお前と美月の関係が噂になっちまって」

 

「あぁ、あれは達也が収拾に動いてくれたからすぐに収まったし、原因となった一年生も謝ってくれたから大丈夫だよ」

 

「なら良いがよ。一応部長として部の不祥事を謝らないわけにもいかねぇから、形だけでも謝らせてくれ」

 

「うん、分かった。それにしても、そういう事は思ってても言わないものだよ」

 

「そうか? まぁ、幹比古に隠し事する必要もねぇし、言っても気にしないだろ?」

 

「まぁね」

 

 

 あっけらかんとした態度で告げるレオにつられて、幹比古も本心を曝け出して応える。

 

「なぁ達也。他に面白そうなところはねぇのか?」

 

「レオが見て面白いと思うような場所は無いと思うけど」

 

「そもそもここは研究施設でもなければ道場でもないから、それほど面白い場所は無いぞ。大体が個人の部屋だからな。後は客室が何個かとCAD調整用の部屋と室内実験室があるくらいだ」

 

「実験室って、何を実験するんだ?」

 

「開発、調整した魔法のテストをするための部屋だ。学校にもあるような簡易的なものだがな」

 

「それも個人宅にあるようなものではないと思うが」

 

「まぁ達也が住んでる家だし、それくらいはありなんじゃないかな」

 

 

 幹比古の言葉に、レオも納得したように頷いた。この友人は自分の事をどう思っているのかと気にはなったが、追及することも無いかと達也は再び流す事にした。

 

「そういえば達也。確か泉美さんも来るとか聞いてたけど、まだ来てないのかな?」

 

「七草先輩と香澄が一緒に出掛けて、そのままこっちに来ると聞いているが、どうして幹比古がそんなことを気にするんだ?」

 

「いやだって、関係者パスが無いと入れないんでしょ、ここ」

 

「既に香澄に渡してあるから、入る前に泉美の手に渡るだろう」

 

「一度システムに引っ掛かったらどうなるのか見てみてぇ気もするが、いろいろと面倒なんだろ?」

 

「まぁ、面倒といえば面倒だな。家中に警報が鳴り響いて五月蠅いだろうし、止めるのも簡単ではないからな」

 

「ウルセェのは勘弁してほしいな」

 

 

 何だか楽しそうに話すレオを見て、幹比古は苦笑いを浮かべる。ついこの間七草の双子の魔法の所為でくらくらしたばかりだというのに、それと似たような事になるかもしれない事に対してその程度の感想なのかと、レオの神経を疑ったのだ。

 

「とりあえず戻るか。お茶くらいなら淹れてやるぞ」

 

「おっ、マジで? 達也が淹れたお茶ってちょっと興味があるぜ」

 

「楽しみにしてるところ悪いが、ごく普通のお茶だぞ」

 

「そもそもレオはお茶に何を期待してるのさ」

 

「だって達也が淹れたお茶だろ? きっとマッドでサイエンティックなお茶に違いないだろ」

 

「どんなお茶だよ……」

 

 

 目を輝かせるレオを見て、幹比古は少し胃が痛い思いをしていた。一方の達也も、レオの無邪気な期待に苦笑いを浮かべながらも、特に気にした様子ではないのを見て、幹比古は自分がズレているわけではないと自分に言い聞かせる。

 

「とにかく、達也のお茶、楽しみにしてるぜ」

 

「期待に応えられるよう頑張るさ」

 

「いや、頑張らなくていいから」

 

「もちろん、冗談だ」

 

 

 真顔で冗談を言う達也に、幹比古は恨みがましい視線を向けるが、達也には効果が無かった。




レオが想像したお茶っていったい……

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