劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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かなり危ないです


泉美の趣味嗜好

 泉美の出迎えと同時にちょっとしたものを買い足す為に街に出ていた真由美と香澄は、待ち合わせ場所に泉美が現れるのを待っていた。

 

「お姉ちゃん、達也先輩との関係は良好なんだよね? もう疑われてないんだよね?」

 

「当たり前でしょ。そもそも達也くんだって本気で疑ってたわけじゃないんだから」

 

「それは嘘でしょ。達也先輩、結構本気でお姉ちゃんが克人さんに情報を流してるんじゃないかって疑ってる感じだったよ」

 

「まぁちょっとした情報は流してたけど、私はそもそも四葉家の秘密なんて知らないんだから、十文字くんに教えようがないでしょ」

 

 

 達也の魔法特性や、達也がトーラス・シルバーの片割れであることは知っているが、その程度の情報を流したからといって、克人が喜ぶとも思えないし、なんとなく気づいていそうだと真由美は思っている。

 

「同じ婚約者でも、情報を持っている人と持っていない人はいるんだから、達也くんだってそのぐらい分かってるはずよね」

 

「でも、ウチは七草だから……独自の情報網を疑われても仕方ないんじゃない? 特に、最近お父さんや兄貴がやらかしてるんだから」

 

「迷惑な話よね……」

 

「いや、お姉ちゃんがそれを言う権利はないでしょ……兄貴の考えを支持して、司波会長を矢面に立たせようとしたんだから」

 

 

 香澄の厳しいツッコミに、真由美は思わず視線を逸らした。逸らした先にもう一人の妹を見つけた真由美は、気まずい空気から逃げ出す為に泉美の方へ駆け出した。

 

「私、そんなに遅れましたか?」

 

「ううん、まだ時間前よ」

 

「では、何故駆け寄ってこられたのでしょうか?」

 

「何となくよ。それじゃあ、さっそくお買い物に行きましょうか」

 

「……香澄ちゃん。お姉様、何かあったのですか?」

 

「ちょっとね。まぁでも、心配するほどの事じゃないし、もう解決してるっぽいから。泉美が心配するような事じゃないよ」

 

 

 はぐらかされた感じがした泉美ではあったが、香澄が「解決してる」というのなら、聞き出そうとしても無理だろうと理解しているので追及はしなかった。

 

「ところで、泉美は何を買うの?」

 

「誕生パーティーだとお聞きしていますので、花束でもと思ってます」

 

「ふーん。泉美にしてはまともだね」

 

「どういう意味ですか?」

 

「だってほら。泉美って百合でしょ? 達也先輩に花束を贈るなんて、ちょっとらしくないような気がするし」

 

「誰が百合ですか!」

 

 

 周りに人がいるというのに、泉美はお構いなしに大声で香澄に抗議する。そこまで激昂するとは思っていなかった香澄は、とりあえず泉美を宥める事にした。

 

「落ち着きなよ。周りの人から注目されちゃったじゃないか」

 

「……香澄ちゃんが変な事を言うからでしょうが」

 

「ゴメンって」

 

 

 片手を上げて謝る香澄に、泉美は仕方がないという感じで一息吐いて気持ちを落ち着かせた。

 

「はっきりと言っておきますが、私は断じて百合ではありませんからね! ただ、好きになった相手が深雪お姉さまだったというだけですから」

 

「ボク、そういう世界ってよく分からないけど、それって常套句なんじゃないの?」

 

「違います! というか、双子の妹の事を信じられないんですか?」

 

「えっ、普段の言動を見て、どう信じろっていうのさ」

 

 

 生徒会に入ったのだって、深雪と同じ空間にいられるからという理由だと知っている香澄としては、泉美の何処を信じれば百合疑惑を払拭出来るのかが分からない。香澄がそのように返すと、泉美は心底心外だと言わんばかりにため息を吐いた。

 

「私は別に、深雪お姉さまとお付き合いしたいとか、そういう邪な感情は懐いていません。ただ、同じ空間にいられるだけで幸せなのですから」

 

「たぶん百合思考より質が悪いと思うよ、それ」

 

「さっきから何話してるのよ。早く行くわよ」

 

「泉美が司波会長の事が好きだって話だよ」

 

「司波会長って……深雪さんの事よね? 泉美ちゃん、貴女……」

 

「違いますからね!」

 

 

 双子の姉だけではなく、もう一人の姉からも疑惑の眼差しを向けられ、泉美は必要以上に語気を強めて否定する。

 

「そもそも、深雪お姉さまのようなお方と私とでは釣り合わない事は分かっていますから、香澄ちゃんが邪推したような事は断じてありません!」

 

「なら泉美も、彼氏の一人でも作ったら? そうだな……七宝とか?」

 

「ありえませんわね。七宝くんには悪いですが、見た目から性格まで、何から何までタイプではありませんので」

 

「うん、ボクが悪かった……ゴメン、七宝」

 

 

 この場にいない琢磨に謝る香澄。彼女自身も琢磨の事は好きではないが、泉美のようにバッサリと斬り捨てる事はしなかっただろうと思っていたからである。

 

「そもそもあんな自分がエライと勘違いしている男など、私は近づきたくありませんもの。入学早々の問題だって、七宝くんが七草家の事を勝手に敵対視して香澄ちゃんに突っかかった結果じゃないですか。その所為で深雪先輩にいらぬご迷惑をおかけしてしまいましたし――」

 

「落ち着きなさい。香澄ちゃんも、泉美ちゃんに深雪さんの話題を振らないの」

 

「ご、ゴメン……」

 

「ほら行くわよ!」

 

 

 多少強引になりながらも、泉美を引っ張っていく真由美の後に続く香澄。一時期溝が出来かけたが、誤解が解けたことで距離を置く必要はなくなったと香澄は考えているようだと、真由美も一安心したのだった。




巻き込まれ事故の七宝……

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