劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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香澄が一番まとも…?


七草三姉妹の変態性

 香澄に引きずられて客室にやってきた泉美は、いつの間にか移動していたことに驚いた表情を浮かべた。

 

「あら? 先ほどまで大広間にいた気がしたのですが」

 

「ボクが引きずってきたんだよ! 十七夜さんや四十九院さんがやって来ても気づかずに妄想を続ける妹を見られるのは恥ずかしいからね!」

 

「ちゃんとご挨拶もせずに部屋に来るなんて失礼ではないですか?」

 

「ボクは一緒に住んでるんだよ! 挨拶なんて毎日してるし、泉美はそもそも気づかなかっただろうが!」

 

「ちょっと香澄ちゃん? 何を叫んでるのよ」

 

 

 部屋の外まで声が響いていたのか、様子を見に来た真由美が怪訝そうに香澄に問いかける。

 

「別に、何時もの泉美の病気が発病しただけ」

 

「あぁ、深雪さんね……でも、それで何で香澄ちゃんが大声で怒鳴ってるのよ?」

 

「十七夜さんや四十九院さんの前でもそのままトリップしてて、挙句に挨拶しないのは失礼だとか言い出したから原因である泉美に言われたくないって言ってただけだよ」

 

「泉美ちゃんも、少しは妄想する癖を治さないとね。このままじゃ泉美ちゃんだけ行き遅れになっちゃうわよ?」

 

「私は別に結婚したいとか思いませんので。深雪お姉さまのお側にいられるのでしたら考えますが」

 

「これだよ……そもそも昔達也先輩と司波会長がデートしていた時『非生産的』とか言ってた泉美が、そんな非生産的な考え方で良いの?」

 

「それを言ったのは香澄ちゃんでしょうが」

 

「そうだっけ?」

 

 

 曖昧な記憶を辿る香澄を見て、泉美は呆れたように首を振ってから真由美に視線を向ける。

 

「そもそもお姉様。私は御姉様や香澄ちゃんのように本気で男性を好きになった事がありませんので、結婚より先に恋愛をしたいと思っています」

 

「深雪さんに懐いている気持ちは、恋とかではないのね? お姉ちゃん、泉美ちゃんがアブノーマル的な思考の持ち主なんじゃないかって心配してるんだけど」

 

「恋なわけありませんわよ。恋とは相手と対等に付き合いたいと願う事ですから、私と深雪お姉さまが対等な関係になれるわけ無いじゃないですか」

 

「……普通に恋してくれていた方がまだマシだったかもしれないわね」

 

「これが双子の妹かと思うと、ボクが大声を出す理由が分かるでしょ?」

 

「香澄ちゃんも苦労していたのね……」

 

 

 泉美の危ない思考を聞いて香澄に同情する真由美だったが、真由美から見ても妹であることに変わりはないので、自分も苦労していたのかと今更ながらに気が付いたのだった。

 

「とりあえず、達也くんと深雪さんが呼んでるから、二人とも下にいらっしゃい。もう料理も完成して、乾杯の準備も出来てるんだから」

 

「乾杯って、ボクたちは未成年だけど」

 

「お酒じゃないわよ。ちゃんとジュースだから」

 

「本当ですか?」

 

「まぁ、もしかしたらハイになるかもしれないジュースだけどね」

 

「それをお酒って言うんだよ!」

 

 

 言葉遊びに付き合うつもりは無い双子は、真由美の冗談をバッサリと斬り捨ててリビングに向かう事にした。香澄は達也が待っていると聞いて、泉美は深雪が待っていると聞いて、急いだほうがいいと思ったのだろうと、真由美は一人苦笑いを浮かべてから妹の背中を追った。

 

「というかお姉ちゃん」

 

「何よ?」

 

「京都でやらかしたとか言って、しばらくお酒呑んでなかったじゃん。どうして今日は呑もうと思ったの?」

 

「どうしてって……やらかしても達也くんが何とかしてくれるからよ」

 

「お姉さまが一番司波先輩に迷惑をかけているのではありませんか?」

 

「そ、そんな事ないわよ!」

 

「京都でやらかしたって、何をしたんですか?」

 

 

 当時はそこまで気にならなかったことだが、今更ながらに気になったので、泉美は素直に真由美にそう尋ねた。香澄も当時は詳しく聞き出そうとしなかったが、泉美がいれば逃げられる事はないと考えたのか、疑わしい視線を真由美に向けている。

 

「ちょっと悪酔いしただけだって……別に大したことはしてないわよ」

 

「じゃあ言えるよね? 何をしたの?」

 

「それは……」

 

 

 気まずそうに視線を逸らした真由美だったが、その頬が少し赤くなっているのに香澄は気が付いた。もしかしたら襲おうとしたのかと邪推したが、達也が真由美相手に後れを取るとは思えなかったので、とりあえずその考えを否定し、真由美が何をしたかを言うまで睨み続ける事にした。

 

「そ、そんなに睨まないでよ」

 

「じゃあ何をしたか教えてよ」

 

「どうして今になってそんなに気にするのよ! あの時は『あっそ』で終わったじゃない」

 

「あの時と今とでは、ボクの立場も違うからね。お姉ちゃんが達也先輩に失礼を働いていたなら、早々にお姉ちゃんとの関係を清算しておかないと」

 

「そこまで酷いことはしてないわよ! 精々、胸の谷間にカードキーを仕込んで、達也くんに取ってもらおうとした――あっ!」

 

「そんなことしたの!? というか、やっぱりお姉ちゃんは淫乱じゃないか!」

 

「淫乱じゃないわよ! というか、やっぱりってどういう事よ!」

 

「お姉ちゃんも泉美の事を言えないくらい、変態でサイテーだって事だよ!」

 

「私は別に変態じゃないですわよ?」

 

「自覚無いのが本物の証拠だってば!」

 

「さっきから何を叫んでるんだ?」

 

「た、達也先輩……」

 

 

 今までのやり取りを聞かれていたのかと知った三人は、それぞれ恥ずかしそうに達也から視線を逸らしたのだった。




全員駄目だった……

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