劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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当たり前のように出来るから怖い……


高度な技術

 深雪たちの側から移動した達也は、夕歌の手招きに応じて彼女の隣に足を進めた。

 

「大変そうね、深雪さんたちといると」

 

「深雪だけが問題なわけでは無いんですが」

 

「まぁ、七草さんや亜夜子ちゃんもいろいろと問題あるもんね」

 

「まるで自分には問題がないみたいな言い方ですね」

 

「それほど問題はないでしょ?」

 

 

 確かに他の婚約者と比べれば問題は無いと言えなくはない夕歌ではあるが、それでも皆無と言える程ではないと達也は感じていた。今この家の中にいる人間で問題なしといえるのは、精々美月くらいだろう。

 

「それにしても、まさか七草さんが達也さんに胸を触らせようとしていたなんてね」

 

「聞こえていたんですか」

 

「ううん、読唇術」

 

 

 四葉家の人間としての嗜みなのだろうが、当たり前のように言い放つ夕歌に、達也は頭痛を感じていた。

 

「夕歌さん、一応身内だけという事になっていますが、そういう事は堂々と言わないでください」

 

「分かってるわよ。でも、達也さんの前だけなら問題ないでしょ?」

 

「夕歌さんの他にも読唇術が使える人間がいるかもしれませんし、出来る事でしたら俺の前でも控えてください」

 

「他に使えそうな人といえば……藤林さん?」

 

「確かに響子さんは使えるでしょうが、あの人は使わなくても記録媒体をハッキングして情報を得られますから」

 

 

 読唇術など使わなくても響子の場合は問題がないという達也に、夕歌は達也も同じなのではないかと感じたが、その事を口にすることは無かった。

 

「藤林さん以外だと誰だろう……千葉さんとか?」

 

「エリカはそういう事は苦手ですから」

 

「うーん……それだと後は思いつかないわね……」

 

「吉田君や九十九崎さんとかよね」

 

「響子さん……聞いていたんですね」

 

「まぁ、それなりに大きな声だったから」

 

 

 響子が言う程大声で話していたわけではないが、彼女もまた読唇術が使える人間なので声は聞こえなくても会話の内容は知れるのだ。

 

「吉田家の次男君は、読唇術なんて使わなくても精霊魔法で盗み聞きが出来るんじゃないの?」

 

「このメンバー相手に精霊魔法を使っても、バレるだけだと思いますがね」

 

「それもそうですね……」

 

 

 達也は起動式を読み取ることが出来るし、響子は古式魔法のスペシャリストだ。この二人相手に精霊魔法を使っても意味は無さそうだと、夕歌は今更ながらに感じたのだった。

 

「津久葉さんはお酒は嗜まれないのですか?」

 

「それほど強くないので……悪酔いして達也さんに迷惑をかけるわけにもいきませんし」

 

「そうでしたか。お相手が欲しかったのですが、それでは仕方ありませんね」

 

「このパーティー自体、未成年が多いわけですから、それほどお酒は用意されていませんよね」

 

「でも全くない、というわけではありませんから。そもそも、真由美さんが少し呑むかと思っていたんだけど、あんな失態を演じていたとは思わないもの」

 

「そっちも聞いていたんですか」

 

「まぁ、何とも真由美さんらしい行動だなとは思ったわ。ところで達也くん」

 

「何でしょうか」

 

 

 何となく響子が纏っている雰囲気が変わったと感じ取った達也は、出来る事ならこの場から逃げ出したいと思っていたのだが、がっちりと響子に腕を掴まれてしまっては逃げようがない。

 

「酔っぱらった真由美さんを部屋まで連れて行ったみたいだけど、その後何もなかったの?」

 

「先輩をベッドに押し込んで、俺はさっさと部屋を出ました」

 

「本当に? 真由美さんの話では達也くんと呑んでた前にレストランで食事をしていたらしいじゃない。ドレスコードがあったんじゃないの?」

 

「まぁ、ありましたけど」

 

「それじゃあ、ドレスのままベッドに押し込んだの?」

 

 

 これ以上はぐらかしても響子は納得しないだろうと思い、達也は盛大にため息を吐いてから正直に話す事にした。

 

「さすがに皺になると思い、ドレスをはぎ取ってすぐベッドに押し込みましたので、響子さんが疑っているような事は何もありませんし、それを見て興奮するという感情も持ち合わせていませんので」

 

「それは分かってるけど、達也くんに下着姿を見せつけるなんて、真由美さんもご当主と大差ないタヌキっぷりですね」

 

「CADの調整で深雪や亜夜子のも見てますし、そこまで問題視するような事じゃないと思っているのですが」

 

「達也くんにとってはそうかもしれないけど、私たちからしたら大問題ね。ましてや調整の機会以外で下着姿を見せつけたわけだから」

 

「割と事故だと思うんですが」

 

「いいえ、達也さん。恐らく七草さんはそうなることを見越してレストランに誘い、その後お酒を呑んだのよ」

 

 

 決めつけてかかる夕歌に、達也は何を言っても無駄だと察して口を噤んだ。アルコールも摂取していないのに酔っぱらっているのではないかと疑いたくなるほどの乱れっぷりに、他の婚約者たちも遠巻きに夕歌の暴走を眺めている。

 

「響子さん、何とかしてくださいね」

 

「あら、私が原因なのかしら?」

 

「余計な事を聞き出そうとしたのは貴女ではないですか」

 

「でも、津久葉さんが暴走した原因は、達也くんが真由美さんの下着姿を見たことよね?」

 

「……先輩に任せますか」

 

「それが一番楽が出来る……いえ、一番面倒になりそうですがね」

 

「仕方ないですか……」

 

 

 夕歌の首を指圧し、彼女に冷静さを取り戻させる。一瞬寝てしまった夕歌は、目覚めて自分が暴れだしそうだったと事を思い出し、達也に深々と頭を下げるのだった。




指圧もお手の物……

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