劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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120話目です。意外と続いてるんだと自分でもちょっとビックリ……


作戦会議

 愛梨と別れた達也は、自分の部屋に人の気配を感じてため息を吐いた。二人なら兎も角、部屋からは五人の気配が感じ取れたからだ。

 

「(よほど信じられないのか、よほど暇なのか……)」

 

 

 前半はレオと幹比古に向けた言葉で、後半はエリカに向けた言葉だ。深雪が部屋に来る事は何となく分かっていたし、美月はエリカに連れて来られただけだろうと達也は思っていたのだ。

 

「こんな時間に随分と大人数だな」

 

「あっ、達也……」

 

「なあ達也、さっき十文字先輩が信じがたい事を言ってきたんだが……マジ?」

 

「七草先輩なら兎も角、十文字先輩がこんな嘘を吐く訳ないだろ」

 

「……僕には『七草先輩なら』ってのも分からないけどね」

 

 

 確かにレオも幹比古も真由美との付き合いは浅い。達也はその事を思い出し苦笑いを浮かべて頷いた。

 

「そうだったな……だがこれは嘘でも冗談でもなく本当の話だ」

 

「達也君がモノリス・コードに出場するのは納得だけど、何でコイツとミキなの? もっといい選手が居たでしょ」

 

「僕の名前は幹比古だ!」

 

「お兄様、理由をお聞かせ願っても?」

 

 

 達也は摩利と真由美にした説明をそのまま深雪たちにも聞かせた。途中までは不満そうだったレオだが、実力があると達也に判断されていた事に気分を良くしたのか、参戦に意欲的になっていた。

 

「さすが達也君ね……ちゃんと考えてるんだ」

 

「だがよ達也、自慢じゃねぇが俺は遠距離魔法は得意じゃねぇぜ? モノリス・コードってのは直接攻撃は禁止なんだろ?」

 

「これを使う」

 

 

 そう言って達也がレオに渡したのは、この前レオが実験役を務めた武装一体型CAD『小通連』だった。

 

「でも、大丈夫なのか?」

 

 

 受け取ったレオも、横で見ていたエリカも首を傾げたが、達也が無言でモノリス・コードのルールが書かれた冊子を手渡してきたので、反射的に受け取り目を通した。

 

「そこに書かれているように、物質を飛ばして相手に攻撃する事は違反ではない」

 

「物質を飛ばして……そうか!」

 

「ちょっと待って! 達也はこの事を見越してそれを作ったのか!?」

 

「俺だって何時も悪知恵を働かせてる訳では無いし、今回のは本当に偶然だ」

 

 

 幹比古の穿ちすぎな考えに、達也は苦笑いで否定した。

 

「それで達也さん、CADの準備とかは如何するんですか? レオ君がこれを使うにしても、まだ吉田君のや達也さんのだってありますよね?」

 

「コイツがこれだけって訳でも無いし、これだってまだ調整済んでないんでしょ?」

 

「CADは俺が準備する」

 

「でも、もう九時だよ? 大丈夫なの」

 

「一人一時間もあれば終わる。レオのを一番に調整すれば『小通連』に慣れる時間も取れるだろう」

 

「一時間……それでも十二時になっちゃうよ?」

 

「俺のなら十分で終わる」

 

「十分……」

 

 

 CADの調整の大変さを唯一理解しているエリカが、絶句した事で、美月もレオも、幹比古もそれが異常である事を察した。

 

「ねぇ達也」

 

「何だ?」

 

「達也は僕に言ったよね。僕が魔法を上手く使えないのは、僕自身の問題じゃ無く術式に無駄があるって」

 

「ああ」

 

 

 幹比古の質問に何の躊躇いも無く頷いた達也に、エリカは衝撃を受けた。名門吉田家が創り上げた術式を、欠陥だと言うなんて、よほどの自信家か我流こそが最強と思いこんでいる浅慮者のどちらかしかありえない……そして達也は後者とは思えなかったのだ。

 

「それじゃあ達也はより良い起動式を僕に教えてくれるのか?」

 

「教えるんじゃない、アレンジするんだ」

 

「……ゴメン、違いが分からない」

 

「幹比古がこの前使っていた雷撃魔法、あれは雷童子の派生系だよな」

 

 

 達也の断定口調に、幹比古は呆れたように頷いた。

 

「見ただけで分かるってのは本当なんだね……そうだよ。あれは雷童子の派生系だ。長い年月をかけて吉田家がアレンジした起動式なんだけど、達也が言う無駄ってのはきっとその事だよね」

 

「ああ。昔みたいに詠唱の途中で邪魔をされる可能性を考慮しての起動式になってるからな。CADで高速処理が可能な現代では無駄でしか無い」

 

「ハハ、威力で勝ってる古式魔法が現代魔法に勝てない訳だ」

 

 

 自棄になってるのか、幹比古は異様にテンションが高い。それを見たエリカも美月も、若干引いている。

 

「それは違うぞ、幹比古」

 

「え?」

 

「老師も仰ってたじゃないか、ようは使い方だ」

 

「使い方?」

 

「正面から打ち合った場合は、スピードのある現代魔法に分があるが、隠れた場所からの攻撃なら、古式魔法の隠密性に軍配が上がる。俺が幹比古を推薦したのは、その隠密性を重視したからだ」

 

「……そんな風に言われた事なんて無かったよ。分かった、達也に任せるよ」

 

 

 達也の事を信じられると判断したのか、幹比古は自分のCADを達也に渡した。

 

「信じてくれたついでにもう一つ聞きたいんだが」

 

「何? ここで秘密がバレたとしても父さんも文句は言わないと思うから」

 

「大丈夫だ、他言はしない」

 

 

 達也の返事に続くように、深雪、美月、レオ、エリカもそれに同意した。つまりはこの部屋の中だけの秘密だと……

 

「オッケー、何でも聞いてくれ」

 

「それじゃあ……『視覚同調』は使えるか?」

 

「……君は何でも知ってるんだね。答えはYESだ。同時に二つまでなら『感覚同調』は使えるよ」

 

「視覚だけで構わない。それじゃあ作戦なんだが……」

 

 

 悪い笑みを浮かべながらレオと幹比古と顔を近づけて話す達也を見て、エリカと美月は思わず顔を見合わせた。

 

「達也君の性格の悪さは何となく知ってたけど、随分と悪知恵だよね……」

 

「仕方無いと思うけど。だって達也さんが代役を頼まれたのがさっきだし、悪知恵でも働かせないと勝ち目が薄いじゃない」

 

「……二人共、聞こえてるんだが」

 

 

 慌てて達也の方に視線を向けた二人が見たのは、ジト目で二人を見ていた達也だった。

 

「でもよ達也、さっきの作戦は俺でも悪知恵だと思うぜ」

 

「レオはエリカと同意見なんだな」

 

 

 便乗して達也に口撃してきたレオを、達也は事実を使ってあしらう。そして達也の想像した通りにエリカとレオは狼狽した。

 

「なっ、コイツと一緒にしないでよね!」

 

「そうだぜ達也! 俺は別にコイツと同じ意見って訳じゃねぇ!」

 

「……それじゃあレオのCADから調整するから、『小通連』も含めて貸してくれ」

 

 

 時間が無い事を忘れていなかった達也は、一瞬だけ生暖かい目を向けただけでそれ以上の追い討ちはしなかった。

 レオのCADの調整を一時間を切る速さで済ませて、レオはエリカを伴って演習場に走って行った。

 夜遅くに若い男女が二人きりなのだが、レオとエリカでは間違いは起こらないと誰もが思ってるので、その二人での行動に異を唱えたものは居なかったのだった。

 そしてその二人の代わりに、あずさが達也の部屋を訪れた。彼女は達也の手伝いを申し出たのだが、妙にそわそわしていたと、深雪には映っていたのだった。




次回、多分始めて彼女にスポットが……

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