劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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答えはしっかりと返さないと


返事

 レオと二人でケーキを運び終えた幹比古は、再び壁際で休んでいた。元々人混みが苦手という事もあるが、エリカの側にいたらまたからかわれると思っての事だったのだが、美月にとって幹比古が人混みから外れていたのは好都合だった。いくら決心したからといって、人といる幹比古を連れ出して気持ちを伝えられる程、美月は我が強いわけではない。わざわざ幹比古を連れ出してまでしなくてもいい、とでも思ってしまっていただろう。

 

「吉田君、少しいいですか?」

 

「柴田さん。うん、構わないよ」

 

 

 美月がこれから何を言おうとしているか知っていたら、幹比古の答えは違ったかもしれないが、生憎幹比古は女心に敏い方ではないので、美月が何かを決心しているとは気づけなかった。

 

「そういえばさっき、僕たちがキッチンに引っ込んだ後、深雪さんやエリカに何か言われてたようだけど」

 

「えっと、その事も関係あるかもしれません」

 

「その事も? 柴田さん、何かあったの?」

 

 

 そこで漸く、幹比古は美月の雰囲気がいつもと違う事に気が付いた。

 

「エリカちゃんや深雪さんに言われたからでは無いんですが、吉田君に伝えたい事があります」

 

「僕に?」

 

「はい、あの――」

 

「柴田さん、なにしてるの?」

 

「さ、七草先輩……な、何でもないです!」

 

 

 覚悟を決めて気持ちを伝えようとしたところで、タイミング悪く真由美が美月に声をかけ、急に恥ずかしくなった美月はその場から逃げ出した。

 

「えっと……ひょっとしてお邪魔だったかしら?」

 

「いえ、そういうのではないのですが……ただ、柴田さんが気になるので僕も失礼します」

 

 

 真由美に一礼してこの場を去っていった幹比古の背中を見詰めていた真由美に、エイミィとスバルが話しかける。

 

「駄目ですよ、先輩。せっかく美月が決心したのに」

 

「決心って?」

 

「吉田君に告白する決心ですよ、せっかく煽って美月がやる気になったのに、先輩に話しかけられた所為で決心が鈍っちゃったじゃないですか」

 

「まぁ勢いで言おうとした美月にも問題はあるんでしょうが、雰囲気を見れば話しかけるべきじゃないと分かったと思いますが」

 

「まさかそんな展開だったとは思わなかったのよ……柴田さんには悪いことをしちゃったわね」

 

「まぁ、ミキもちゃんと追いかけたようですし、もしかしたらミキから告白する展開になったかもしれませんね。そうなれば、先輩の行為は最悪手から最高手に変わるかもしれませんね」

 

「エリカちゃん……なんだか楽しそうね」

 

「だって、漸くくっつくのかと思うとスッキリしますよ」

 

 

 横から口を挿んできたエリカに、真由美は呆れたような視線を向けたが、自分が台無しにしてしまったという罪悪感からは少し解放されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もいない裏庭に逃げ出してきた美月は、後ろから誰かが追いかけてきている事に気付き足を止めた。

 

「柴田さん、待って!」

 

「よ、吉田君……」

 

 

 息も絶え絶えの美月に比べて、幹比古は息一つ乱れていない。男女差を差し引いても、美月はもう少し鍛えた方が良いかなと思ったのだった。

 

「えっと、さっきの話だけど」

 

「っ!?」

 

「ど、どうしたの?」

 

 

 幹比古がその話題に触れると、美月の顔はあっという間に赤く染まった。さっきは散々煽られた挙句に自分から言う決意を持っていたので顔を赤くすることは無かったのだが、幹比古からその話題に触れられると、どうしても恥ずかしく思ってしまうのだ。

 

「僕の自惚れじゃなければ、柴田さんはひょっとして――」

 

「は、恥ずかしいので言わないでください……」

 

 

 また逃げ出そうとした美月の腕を、幹比古がしっかりと掴んだ。いくら美月が暴れても幹比古の手からは逃げ出せないと分かっているのだろうが、美月は必死に振り解こうと暴れる。

 

「お、落ちついて! ちゃんと僕の話を聞いて」

 

「嫌です! 離してください!」

 

「僕は柴田さんが好きです!」

 

「……えっ?」

 

 

 幹比古からの告白に、美月は全身の力が抜け、逃げられないように美月を引っ張っていた幹比古の方に身体が引き寄せられる。

 

「柴田さんはもしかしたら、僕が君の目が目的でこんなことを言っていると思ってるかもしれないけど、僕は君の目がどんなものであろうと関係なく君が好きです。さっき柴田さんが何か言い淀んだのを見て、もしかして柴田さんも? と思った。フラれるのが怖くてずっと言えなかったけど、これは僕が――僕の方から言うべき事だと思い知らされた」

 

「あの……離してください」

 

「あっ、ゴメン……」

 

 

 幹比古に抱きしめられる形だった美月は、絞り出すようにそう告げて幹比古から離れる。幹比古の方も勢いとはいえ告白してしまったため『離して』と言われ断られたのだと勘違いしてしまい落ち込んだ。

 

「ゴメンね……今の、忘れて」

 

「あっ、いえ……私も吉田君の事が好きです。離してというのは、恥ずかしすぎて死んじゃいそうだったからでして……」

 

「えっと……それじゃあ?」

 

「はい、これからもよろしくお願いします」

 

 

 それが美月の承諾の返事だと分かり、幹比古は嬉しくて飛び上がりそうになり――漸く自分たち以外の人の気配があることに気が付いた。

 

「誰だっ!」

 

「人の家の裏庭で何してるんだお前たちは」

 

「「たっ、達也(さん)!?」」

 

「おめでとう、で良いのか?」

 

 

 たまたま夜風に当たりに来ていた達也に見られていたと分かり、幹比古と美月は未だかつてないくらい顔を赤らめたのだった。




勝手にくっつけましたが、別に問題ないですよね?

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