劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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書いていてちょっとムズムズする


初々しい空気

 とりあえず状況が呑み込めたエリカは、冷やかす事はせず素直に美月にお祝いを言った。

 

「おめでとう、美月。これでずっと頭を悩ませていたことが解決したわね」

 

「ちょっ、エリカちゃん!?」

 

「頭を悩ませる? 柴田さん、何か悩んでたの?」

 

 

 エリカの言葉が気になった幹比古が美月に尋ねると、美月は顔を真っ赤にし、エリカは呆れたようにため息を吐きながら幹比古を睨みつけた。

 

「えっ、なに?」

 

「これだからミキは……いい? 美月はずっと、ミキの人気が上がっている事が気になってたのよ? 自分は魔工科に転籍になったとはいえ、ミキは一科生の中でも上位だから釣り合わないんじゃないかって」

 

「エリカちゃん……」

 

「上位って程高くは無いと思うけど……てか、僕が人気だなんて誰が言ったのさ」

 

「気づいてなかったの? 達也くん程じゃないけど、ミキだって注目されてたのに……これだから鈍感男は」

 

 

 何か言い返そうとして、幹比古は口を開いたが言葉が出てこなかった。実際気づけなかったのだから、鈍感という部分を否定するだけの説得力が足りないと思ったのと同時に、反論しても倍返しされるだけだと悟ったのかもしれない。

 

「何故か知らないけど、レオも結構人気らしいし……ほんと、何でなのかしらね」

 

「というか、何処でそんな話になってるのさ……僕の耳には全くそんな情報、入ってこないんだけど」

 

「当たり前でしょ。女子のコミュニティ内での話だもの」

 

「そうなんだ……で、柴田さんは何で僕と釣り合わないと思ったの?」

 

「うわぁ、それを美月に聞くんだ……鈍感を通り越して無神経とすら思えてくるわね」

 

「エリカはちょっと黙ってて」

 

「なによ――」

 

「エリカはちょっとこっちにこい」

 

 

 まだ何か言い返そうとしたエリカを、達也が少し強引に連れていく。視線で達也にお礼を言った幹比古は、正面に美月を捉えて彼女が口を開くのを待った。

 

「だって、吉田君はどんどん高みに進んでいくのに、私はあまり変わらずにいたので、どことなく寂しさを感じてしまって……吉田君はずっと私の事を気にかけてくれていたのに、勝手に卑屈になっていたんです」

 

「僕はそれほど高みに進んでたつもりは無いんだけどな……もしそう感じていたのなら、きっと達也のお陰なんだろうね」

 

「達也さんの?」

 

「エリカから聞いているかもしれないけど、僕は昔魔法事故に遭って、それ以降上手く魔法が使えなかったんだ」

 

「一年の時、なんとなく聞いた覚えがあります」

 

「でもあの九校戦のお陰で、僕は達也からアドバイスを貰えたし、そのお陰で吹っ切れて事故に遭う前以上に修行に集中出来た。でもそれは高みに進んだんじゃなくて、漸く前を向けただけだったんだ」

 

「ですけど、その後実力が延びたのは間違いなく吉田君が頑張った結果ですよね」

 

「そうなのかもしれないけど、それは達也がくれたアドバイスと、柴田さんが応援してくれたお陰だと僕は思っているんだ。ありがとう」

 

「私も、ですか?」

 

 

 美月としては、無意識とはいえ好意を寄せていた相手を応援するのは当然だと思っていたのだが、それが結果的に幹比古の力に変わっていたなどとは思っていなかった。なので幹比古にお礼を言われて少し戸惑ってしまう。

 

「柴田さんが見てくれている、応援してくれている、それだけで僕は頑張れた」

 

「そんな……私なんて大したことしてませんよ」

 

「柴田さんにとっては大したこと無かったのかもしれないけど、僕にとっては十分すぎるくらいだった。だから、ありがとう」

 

「そんな、照れちゃいます……」

 

「それに、僕だって柴田さんが他の誰かと付き合うんじゃないかって心配だったんだよ?」

 

「私が、ですか……? こんなどんくさくて元二科生の私を好きになってくれる人なんて、そうそういないと思いますが……」

 

「柴田さんも、自己評価かなり低いよね。深雪さんやエリカと並んで、柴田さんもかなりの人気なんだよ?」

 

「そうなんですか?」

 

「さっきのエリカが言ったような事じゃないけど、男子のコミュニティ内での評価だから、柴田さんが知らなくても仕方がないとは思うけどね。それに、達也が上手く本人の耳に入らないように情報操作してくれてたし」

 

 

 深雪の場合は達也がそんな事しなくても情報を排除出来るが、美月の場合はそのような器用な事は出来ない。そしてどことなく卑屈な美月の耳にそんな噂が入れば、まともに学園生活を送れなくなるのではないかと心配した幹比古が達也に頼んでしてもらったのだ。もちろん、そんな裏事情まで説明するつもりは、幹比古には無かった。

 

「それじゃあ、後で達也さんにお礼を言わないといけませんね」

 

「そうだね。僕たちがこうして、その……お、お付き合い出来たのも、達也のお陰が多分にあるからね」

 

「そ、そうですね……こうして吉田君と……こ、恋人同士になれたお礼を言わないといけませんね。後は、私の背中を押してくれたエイミィさんたちにも」

 

「冷やかされるかからかわれるかのどっちかの未来しか見えないんだけど……」

 

「達也さんと婚約してるエイミィさんたちに冷やかされる謂われはありませんけどね」

 

「柴田さん、なんだか逞しくなった?」

 

「そうですか? もし吉田君がそう思うのでしたら、きっとそれは吉田君のお陰ですね」

 

 

 満面の笑みでそう告げる美月に、幹比古は思わず見とれてしまったのだった。




幹比古も早く開き直らないと……

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