劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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ブラックなのは前から分かってる事


魔装大隊の裏事情

 からかわれる覚悟を決めた二人は、達也とエリカの後に続いて室内に戻る。するとさっそく美月を焚きつけたエイミィとスバルが近づいてきた。エイミィの方は悪戯する気満々という笑みを浮かべ、スバルは申し訳なさそうにしながらも、興味があることを隠しきれていない様子で。

 

「もしかして、私たちが恋のキューピットになっちゃったり?」

 

「はい。おかげさまで吉田君とお付き合い出来る事になりました」

 

「……そ、そうなんだ」

 

「それはおめでとう」

 

 

 まさか美月がこんな返事をしてくるとは思っていなかった二人は、驚きながらもその事をしっかりと祝福した。

 

「ねぇ達也くん」

 

「何だ?」

 

 

 エイミィとスバルが驚いたのに気づいた他のメンバーも集まって来て、ちょっとした人垣が形成された。その外側でエリカが達也に小声で話しかける。

 

「さっき美月になにか教えていたけど、あれって何だったの?」

 

「大したことじゃない。からかわれないようにちょっとした解決策をな」

 

「なるほどね……あの美月の態度は達也くんの入れ知恵ってわけか……そりゃエイミィも呆気にとられるわよね」

 

 

 人垣からは「おめでとう」や「やっとなんだ」という声が聞こえてくる一方で、驚いた雰囲気も伝わってきている。エリカも美月の態度に驚きはしたが、その原因が分かれば当然だとすら思えたのだった。

 

「これで、ミキと美月も落ち着いて付き合う事が出来そうね」

 

「そもそもエリカを筆頭にからかおうとする友人がいなければ、もう少し早くから付き合ってたと思うが」

 

「あらあら、達也くんが他人の恋路を理解出来ているとは思えないんだけどな?」

 

「っ!? って藤林さん……あたしにも気配を掴ませないとは、さすがは独立魔装大隊の一員ってところですか」

 

「あんまり関係ないかな、それは」

 

 

 人が悪い笑みを浮かべながら背後から近づいてきた響子に、エリカは彼女の能力を今以上に上方修正して警戒しておこうと決意する。もちろんやましいことなど何もないのだが、いざ達也と二人きりになった時、もしかしたら何処かに響子が潜んでいるのかもしれないと疑う程に。

 

「そんなに警戒しなくても良いじゃないの。私たちは同じ立場なんだから」

 

「既に自立して実績のある藤林さんと、漸く親元を離れたあたしとでは、とてもじゃないですが『同じ』だと思えませんが……というか、わざと気配を消していたんですか?」

 

「その方が面白そうだったしね。まぁ、達也くんには気づかれてたみたいだけど」

 

「そもそも達也くんに気配を掴ませない人なんているんですか? あっ、九重先生以外で」

 

 

 達也の師であり忍術使いの第一人者である八雲ならば達也から逃げおおせる事が出来ると思っているエリカは、達也が何か言う前にその人物を除外するよう告げる。

 

「あとはそうねぇ……ウチの隊長かしら?」

 

「あの人は俺の兄弟子でもありますからね。隠形を見破ることは難しいでしょう」

 

「やっぱそこまでのクラスにならないと無理なんだね……風間少佐の事は次兄上も知ってたし」

 

「あっ、昇進して今は中佐よ」

 

 

 さすがのエリカも風間の昇進の事は知らなかったようで、響子が一応ねという感じで訂正する。

 

「ちなみに何ですけど、軍属のお給料とかってどんな感じなんですかね?」

 

「仕事量に対して釣り合ってないわよ。しかもウチの隊は労働基準法外だから、残業手当もないし」

 

「うひゃーブラックですね……でもまぁ、そんなこと関係なく達也くんや藤林さんは稼いでそうですね」

 

「まぁ、何個も役職があるのは伊達じゃないわよ。正規のお給料はそっちからが殆どだし」

 

「つまり、独立魔装大隊の給料はお小遣い程度だと?」

 

「響子さん、あんまり隊の事を部外者に話すのは感心しませんよ」

 

「これくらいの愚痴は良いじゃないの。給料が安いのは本当の事なんだし」

 

 

 もちろん、達也や響子レベルで考えた時の「安い」なので、普通の士官にはそれなりだと思える額は支払われている。だが響子が愚痴ったように、残業手当が無いのも事実なので、達也はそれ以上響子を宥める事はしなかった。

 

「達也くんと比べたら、私の稼ぎなんて雀の涙程度なのよ?」

 

「そりゃ達也くんは……ですしね」

 

 

 この場には達也の正体を知らない美月や幹比古といったメンバーもいるので、エリカは肝心の部分を言わずに響子と話をあわせた。

 

「なぁ達也。この人垣って何なんだ?」

 

 

 人垣をグルリと回ってきて話しかけてきたレオを見て、エリカは今の話を聞かれていたのかと身構えたが、どうやら彼の興味はその人垣に向けられていたので、エリカはホッと一息吐いてから、何時もの口調で話しかける。

 

「あらレオ、いたのね」

 

「さっきからずっと向こうにいたっての! というか、幹比古の姿がさっきから見当たらねぇんだが、何処に行ったか知らねぇか?」

 

「幹比古ならこの人垣の中だぞ」

 

「この? アイツが人垣に好んで加わるとは思えねぇんだがな……」

 

「そりゃ、ミキは人垣を形成してる側じゃなくて、取り囲まれてる側だし」

 

「何かあったのか?」

 

 

 まさか幹比古と美月が付き合いだしたなどとは考え付かないレオは、なにが原因で取り囲まれているのかに興味を示した。だがエリカはその事は教えずに、知りたかったら自分で調べろと言わんばかりの態度で、レオの脛を蹴り上げた。

 

「イてぇな、この!」

 

「何でもかんでも人に聞かない」

 

「何だよ、教えてくれてもいいだろうが」

 

 

 何で蹴られたのか分からないレオは、当然の如くエリカに詰め寄ったが、結局エリカの口からは何も教えてもらえなかったのだった。




レオはエリカに勝てないのだろうか……
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