劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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今年も無事に――かは兎も角――一年間投稿できました


家族の情

 レオを追い返したエリカは、達也に向かって思いっきり苦笑いを浮かべた。

 

「レオって気づいてなかったのね……」

 

「色恋には疎いんだろうな。他の事にはなかなか鋭い観察眼を持っているようだが」

 

「それって過大評価じゃないの? アイツは大したこと無いって」

 

「エリカはレオに対しては厳しいな」

 

「そんなこと無いと思うんだけどな」

 

 

 達也がからかってくるとは思わないが、なんとなく旗色が悪く感じたエリカは、話題を変えようと視線を巡らせた。

 

「そ、そういえば達也くんと藤林さんって、何時からの付き合いなの?」

 

「私が独立魔装大隊に配属されてからだから、五年くらいかしら?」

 

「そうですね。沖縄の時は響子さんには会いませんでしたし」

 

「達也くんってそんなころから軍属だったんだ、ちょっと意外かも」

 

「千葉さんは深雪さんが沖縄で遭った事を聞いてないの?」

 

「えっと、一応は聞いてますけど……」

 

 

 さすがに知らない人の方が多い話題なので、エリカは無意識に声を抑えた。

 

「その復讐の為に達也くんは独立魔装大隊の人間と一緒に侵攻軍に対しての反撃に参加して、そして『あの魔法』を使ったから軍としてそのままにしておくわけにはいかなくなっちゃったのよね。達也くんが『あの魔法』を勝手に使うとは思えなかったし、ご実家の力もあったから気にし過ぎだと思うけど、一応軍が保護するという形を取ったわけよ」

 

「なるほど……でもそうなるとリーナはどうなるんですか? 達也くんと同じ立ち位置なわけですし、軍が保護するんでしょうか?」

 

「リーナの魔法は確かに脅威だが、俺の魔法のように不特定多数の人間を一度に片づけられる魔法ではないからな。改良すれば出来なくもないが」

 

「そのレベルの魔法を改良しようなんて考えるのは達也くんくらいでしょ」

 

「私の魔法がどうかしたの?」

 

 

 自分の事が話題になっているのが聞こえたリーナが、人垣から離れて達也たちの許にやってくる。誤魔化そうとも考えたが、リーナも達也の魔法の事は聞いているはずだからと誤魔化さずにそのまま話した。

 

「達也くんの魔法とリーナの魔法、どっちも軍が管理するべきじゃないかって話よ」

 

「私はもう軍なんてこりごりなんだけどね……あれ以上同族殺しをやらせるつもりだったなら、私も逃亡したかもしれないし」

 

「まぁ女子高生にやらせる仕事じゃないわよね……それでも仕事だと割り切れなかったのは、リーナが未熟だったからだと思うけど」

 

「家族同然の相手がいきなり対象になったりするのよ? エリカだって躊躇ったりするでしょうが」

 

「あたしはそういう経験ないから分からないけど、多分問題なく始末すると思うわよ。家族の情なんて、持ち合わせてないもの」

 

「冷めた家族なのね……」

 

「深雪だって似たようなものだと思うけど」

 

 

 あえて達也ではなく深雪の名前を出したのは、その方がリーナに効果があるだろうと思っての事で、それ以上の意味は無かった。

 

「そういえば深雪のご両親ってあった事ないわね……達也のお母様には会ったけど」

 

「深雪のお母さんは既に他界しちゃってるし、お父さんとは絶縁状態だからね。深雪も『生物学上では父親』って言ってるし、会いたくないんでしょうよ」

 

「達也は当然知ってるのよね?」

 

「あぁ」

 

 

 達也としても興味はない相手なので、リーナの問いかけにもテキトーに返事をして話題から離脱する。

 

「ご両親の話題は達也くんに取っても触れられたくない話題だもんね」

 

「別に気にしてるわけではないですが、いろいろと説明が面倒なので」

 

「まぁ、まずご当主様とその姉君の関係を説明しなきゃいけなくなるものね。ここにいる人は表向きの事情は知ってるけど、どうして生まれてすぐに達也くんが四葉家当主の息子だと発表されなかったのか、詳しくは知らないものね」

 

「響子さんは知ってますからね」

 

 

 真夜と深夜の関係が悪化した原因は、魔法師界からアンタッチャブルとされており知っている人間は若い世代にはそれほどいない。それでも響子が知っているのは、その当時の資料を偶々見てしまったからだ。

 

「お爺様もあんな資料をテキトーに置いとくなんて酷いわよね。お陰で知りたくないことまで知っちゃったんだから」

 

「九島烈はあの二人の師でもありましたから知っていてもおかしくはありませんが、まさか響子さんまで知っているとは思いませんでしたよ」

 

「他言無用だって分かってたし、お爺様からも『四葉縁者には言うな』と釘を刺されていたんだけどね……達也くんはそんな事興味なさそうだったから」

 

 

 好奇心に蓋をすることが出来ずに、思わず達也に尋ねた時、達也の表情は未だかつて見たことがない色に染まっていた。それ以降響子が四葉家内情を達也に尋ねる事は無くなったのだ。

 

「俺としては、似たような体験をした響子さんを消すのは惜しかったですから」

 

「怖いこと言わないでよね……」

 

「もちろん冗談ですが?」

 

「そういう事を顔色一つ変えずに言うのは止めてよね……達也くんの冗談はただでさえ分かりにくいんだから」

 

 

 無表情で冗談を言う達也に、響子は割かし本気の抗議をするが、あまり効果は無さそうだった。

 

「とにかく、達也くんと深雪さんのご両親については、私は何も知らないし聞かないからね」

 

「そうしてください」

 

 

 恐らく知っているのだろうなと思ったが、あえてそこを追及するつもりは達也には無かったのだった。




来年もよろしくお願いします。
早いところ新刊出てくれないかなぁ……

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