劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。


ありがたい友人

 漸く質問攻めから解放された幹比古は、ふらふらになりながら安全地帯である達也の隣に足を向けた。

 

「随分と疲れてるようだな」

 

「女子に囲まれるだけでも疲れるのに、あれだけ質問されたら達也だって疲れると思うよ……」

 

「どうだろうな」

 

 

 幹比古にジュースが入ったグラスを手渡し、達也は明後日の方を見ながら答える。

 

「そういえば水波さんが一番喰いついて来ていたけど、彼女ってあんな性格だったっけ?」

 

「恋愛小説を読み始めてから、少し変わったようだ」

 

「失礼な言い方だけど、彼女はそういうのに興味ないのかと思ってた」

 

「水波だって十六の普通の女子高生だからな。少なからず興味はあったんだろうな」

 

「おっ、漸く見つけたぜ」

 

「レオ? 僕になにか用だったの?」

 

 

 口ぶりから随分と探していたのだろうという事が分かったので、幹比古はレオに視線を向け彼の用事がどのようなものなのかを尋ねる。

 

「いや、ずっと見かけなかったから何処に行ったのか気になってただけだ。そういえばさっきまであった人垣は結局何だったんだ?」

 

「あぁ、ちょっと僕と柴田さんが質問攻めに遭ってただけだよ」

 

「幹比古と美月が? この間の動画の事か?」

 

「違うよ。あれは達也が何とかしてくれたから、今でも気にしてる人はそうそういないだろうしね」

 

「じゃあ何だ? 達也の誕生パーティーに紛れて付き合い始めたとかか?」

 

「うぇ!?」

 

「おっ、図星か?」

 

 

 的中したというのに、レオはそれほどはしゃぐことなく幹比古の手を取り、そして激しく上下に振った。

 

「良かったじゃねぇか。これで美月に近づこうとする後輩共は減るだろうし、そうすればお前の心労も幾分か和らぐな」

 

「う、うん……ありがとう」

 

「それにしても、達也は婚約者多数、幹比古は美月、俺だけ決まった相手がいないのはちょっと焦るよな」

 

「あんまり焦ってるようには見えないけど?」

 

「そうか? まぁ焦っても恋人が出来るわけじゃねぇってのは理解してるからな。それに、別にいなければいないでいいかなとも思ってるし」

 

「そう言うところは達観してるよね、レオって」

 

「ん、そうか?」

 

 

 本人は自覚していないようだと、幹比古は苦笑いを浮かべながらレオの手を握り返す。

 

「レオのように素直に祝福してくれる友達がいて嬉しいよ」

 

「友達に恋人が出来たんだから、普通祝福するだろ。まぁ、達也の場合は恋人をすっ飛ばして婚約者だったから、少し戸惑ったけどよ。まぁ四葉家の跡取りじゃ仕方ねぇって割り切ったけどよ」

 

「ほんと、レオって凄いよ」

 

「そんな褒めるなよな。恥ずかしいじゃねぇか」

 

 

 半分は皮肉だったのだが、レオは幹比古の言葉に素直に照れる。この友人に皮肉は効果ないなと、幹比古は再び苦笑いを浮かべた。

 

「幹比古と美月が付き合うかもとは俺も思ってはいたが、まさかこのタイミングだったとはな……」

 

「こればっかりは僕と柴田さんのタイミングだからね」

 

「まぁそうだろうけどよ……? ところで幹比古」

 

「何だい?」

 

「何時まで美月の事を苗字で呼ぶつもりなんだ? 付き合い始めたんだし、いい加減名前で呼んでやれよ。美月もそっちの方が嬉しいと思うぞ」

 

「そうかな?」

 

「じゃあ幹比古は、美月から名前で呼ばれたらどう思うんだ?」

 

「柴田さんが、僕の事を名前で……?」

 

 

 レオに言われて想像してみた幹比古は、急に顔が熱くなるのを感じた。

 

「おっ、顔が真っ赤だぞ」

 

「何を想像したのか気にはなるが、それは幹比古の自由だからな」

 

「エリカだったら聞き出そうとか言い出しそうだがな」

 

 

 何を想像したのかは追及しないが、顔が赤くなったことはからかう達也とレオに恨みがましい目を向けながらも、幹比古は名前呼びの威力を痛感していた。

 

「も、もう少し柴田さんと付き合ってるんだという自覚と自信が持ててからにするよ」

 

「相変わらず自分に自信が持てないんだな、幹比古って。俺から見てもお前と美月はお似合いだと思うし、周りの連中も文句言わないと思うんだが」

 

「そういう問題じゃなくて、ずっと友達として過ごしてたからさ……急に恋人らしくしろって言われても難しいんだよ」

 

「そんなもんか?」

 

「俺に聞かれても分かるわけないだろ」

 

 

 恋人がいたこと無いレオが達也に尋ねるが、達也も『恋人』と呼べる相手はいたことがない。そこをすっ飛ばして婚約者という立場で付き合っているのだから、分からなくても無理はないだろう。

 

「相談できそうな人って誰かいたか……?」

 

「五十里先輩のところも、あんまりあてにはならなさそうだしな」

 

「あそこも婚約者だからな」

 

「二人とも、真剣に悩んでくれてるのはありがたいけど、僕と柴田さんの問題だから」

 

「おっと、そりゃそうか。まぁ、あんまり役には立てないかもしれないが、相談とかならいつでも大丈夫だからよ」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 レオは百パーセント善意から言ってくれているというのが理解出来るので、幹比古は素直にお礼を言う。これがエリカとかなら、からかい半分――いや、ほぼ百パーセントからかうつもりだと疑うだろう。

 

「そっか、幹比古も彼女持ちか……それだったら今美月を一人にしてるのはマズくねぇか? エリカあたりが質問攻めにするだろうし」

 

「さっきまでされてたから大丈夫だと思うけど、心配だから僕は行くね」

 

「おぅ、行ってこい」

 

 

 レオに背中を押され、幹比古は美月の許に駆け出したのだった。




レオはほんと便利なキャラだなぁ……

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