劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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気配は何となく分かるけど……


気配と存在

 ようやく落ち着いた感じになった達也の許に近づいてきた三高女子四人は、疲れ果てているような雰囲気を醸し出している達也に、料理と飲み物を持って近づく。

 

「達也様、こちらをどうぞ」

 

「達也殿の周りはいつも騒がしいのぅ。そういう星の下に生まれたのじゃろうが、ワシらが話しかける隙が無いのはちと気に食わんの」

 

「私たちがもっとアピールすればいいだけだと思いますが」

 

「その暇すらないって事じゃないかしら」

 

「君たちか。愛梨、済まないな」

 

 

 愛梨から飲み物をを受け取りそれを飲み干した達也は、漸く一息吐けたという感じで空のコップをテーブルに置き、四人と話すべく顔を彼女たちに向けた。

 

「達也さんでも疲れるんだね」

 

「栞は俺を何だと思ってるんだ……疲れもすれば腹が減ったりもする」

 

「分かってはいるけど、疲れてるところをあんまり見たこと無かったし」

 

「そう言われればそうですわね。達也様は普段からいろいろと働いていらっしゃるのに、疲れているところを私たちに見せてくださいませんでしたし」

 

「私が調べた限りでも、達也様がお疲れになられているところは見たことがありませんね。本当に珍しいと言えるでしょう」

 

「まぁそれだけ達也殿がワシたちに心を開いてくれているという事じゃろ。ワシらといても気を張ることなく、本当の達也殿を見せてくれてると解釈すれば、珍しさより嬉しさの方が勝るじゃろ」

 

 

 沓子の言葉に、三人は「そういう解釈もあるのか」という感じで目を見開き、そして嬉しそうに頷いた。

 

「漸く私たちも、達也様にとって『家族』だと思っていただけたという事ですわね」

 

「最初の方は気を遣われている感じがしてたけど、漸くそれも無くなってきたしね」

 

「達也様が自然体を見せていたのは、司波深雪、桜井水波両名を除けば数える程しかいませんでしたから、これはかなりの快挙だと言えるでしょうね」

 

「快挙って……香蓮は大げさすぎないか?」

 

「そんなことありませんわ! 達也様の家族だと認めてもらえたという事は、それだけ私たちにとって嬉しいことなのですから」

 

 

 愛梨の勢いに気圧され、達也はそれ以上何も言わなかった。もともと家族だと思うようにしていたのだが、やはりどことなくぎこちなかったのかと、達也は今までの自分の態度を振り返り苦笑いを浮かべた。

 

「ワシらといる事が窮屈じゃなくなったからこそ、吉田殿と美月嬢の事を後押し出来たのではないかの?」

 

「それは俺がやった事じゃない。エイミィやスバル、後は本人は認めないだろうがエリカがしたことだ」

 

「何故千葉さんが認めないと?」

 

「エリカにとってあの二人がお似合いだというのはからかい半分だったからな。本気でくっつけるつもりだったら、あそこまで弄ったりしなかっただろう」

 

「つまり、持ちネタがなくなってしまったと?」

 

「恐らくな」

 

 

 冷静にエリカの心情を分析する達也と香蓮に、沓子が呆れたような声でツッコミを入れる。

 

「そうやって何でもかんでも分析する癖は、達也殿と香蓮の悪いところじゃの。素直に祝福しとるかもしれんじゃろうが」

 

「祝福はもちろんしているだろうさ。エリカだってあの二人がお似合いだと前々から思っていたんだし」

 

「なら、それだけで良いじゃろ。エリカ嬢の持ちネタがなくなったといって、彼女があの二人をからかう事を止めるとは思えんしの」

 

「それはありえそうだな。さっきだって最前線で二人の事をからかっていたようだし」

 

「達也さん、あの人垣の中にはいなかったけど、どうして千葉さんが最前線にいたって知ってるの?」

 

「存在を探ればそれくらい分かるだろ」

 

「達也様だからこそ簡単に言える事ですが、普通の人はそこまで人の気配に敏くはありませんわよ? ましてや私たちはそれほど実戦経験があるわけではございませんので」

 

 

 愛梨は達也が言った「存在」という言葉を「気配」の言い間違いだろうと受け取ったようだが、沓子と香蓮は達也が使った「存在」という言葉に引っ掛かっていた。

 

「達也殿、特に深い意味があったわけではないのかもしれんが、今お主は『存在を探る』と言ったな? 何故『気配を探る』と言わなかったのか?」

 

「言葉通りだ。俺はイデアに直接アクセスする事で、相手の存在を探ることが出来るからな」

 

「なるほど。だから『気配を探る』ではなく『存在を探る』って言ったのですか……達也様がそのような言い間違いをなさるとは思いませんでしたので、何か意味があるのだろうとは思いましたが……まさかそのような事情があったとは」

 

「君たちは論文コンペの際、襲撃してきた相手の存在を探ったのを見ていたはずだが?」

 

「あの時は普通に気配を探ったのだと思いました。達也様ならそれくらい造作もないだろうと思っていましたし」

 

「そうじゃな。あの時も驚きはしたが、まさか気配ではなく存在を探っておったとは思わんかった」

 

「私には違いが良く分かりませんが、とにかく達也様が素晴らしい技術をお持ちだという事は分かりました」

 

 

 愛梨にとっては気配を探るのも存在を探るのも大差ないという考えなのか、イマイチ凄さが伝わっていなかったが、それでも達也が凄いという事は伝わっているので、沓子も香蓮もとりあえずはそれで良いかと思った。

 

「むむむ……」

 

「栞、なにしてるのじゃ?」

 

「存在を探るってどんな感じなのかと思って……」

 

「私たちにイデアに直接アクセスする技術はありませんよ」

 

 

 香蓮のツッコミで諦めたのか、栞は難しい顔から少し疲れた顔に変わったのだった。




頑張っても存在は無理だな……

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