劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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たかだか数日で我慢の限界


ちょっとした我が儘

 パーティーもそろそろお開きという時間になり、達也は引き続き騒ぐだろうメンバーに釘を刺して部屋に戻った。達也としても騒がしい空間よりこうした静かな空間を好むので、一人で部屋にいる時は彼にとっても安らげる時間となる。もちろん、人がいたとしても疲れるという事は無いので、安らぎの時間を邪魔されたとしても怒ったりはしない。

 

「入って来なさい」

 

『はい、失礼します』

 

 

 扉の前で逡巡していた深雪に、達也は入室を許可する。達也に気付かれていたという事は分かっていたのか、深雪の返事も冷静なものだった。

 

「こんな時間にどうしたんだ?」

 

「達也様は深雪の事を幾つだと思っていられるのですか? この歳ならこの時間に起きていても不思議ではありませんよ。それに下では、まだエリカたちが盛り上がってるんですから」

 

「そうだな」

 

 

 達也としても深雪の事を子供扱いしたわけではないので、深雪の反論に笑顔で頷いた。その表情を見て深雪も怒られているわけではないと安堵して、すぐに達也の側にすり寄った。

 

「どうかしたのか?」

 

「達也様、ここ最近の達也様のお誕生日の事を覚えておいででしょうか?」

 

「去年は当日は深雪と水波の二人が祝ってくれたな。後日雫が盛大なパーティーを開いてくれたが。その前は確か、エリカたちとアイネブリーゼで過ごしたんだったな」

 

「はい。高校に入学なされてから達也様の周りには達也様の事を認めてくださる人たちが大勢現れました。深雪はその事を嬉しく思う反面、寂しくも思っていました」

 

 

 深雪の告白に、達也は口を挿む事はせずに黙って聞いている。深雪の言葉が途切れた今も、まだ続きがあるようだと思い黙って先を促している。

 

「まだ中学生の頃、達也様のお誕生日をお祝いするのは深雪だけの特権でした。叔母様にも直接お祝いさせることはありませんでしたし、夕歌さんや亜夜子ちゃんも今ほど気軽に達也様に会えるわけでもありませんでした。ですが高校に入学してからはエリカやほのか、雫たちといった達也様の事を認めてくれる友人や、今日のように大勢の方が達也様のお祝いをするようになって、深雪は達也様のお側にいられない時間が増えたと感じていたのです。達也様の事が認められるのが嬉しいはずなのに、寂しいと感じてしまった深雪はいけない子なのでしょうか?」

 

 

 寂しそうに達也を見上げる深雪の目には涙が浮かんでいた。達也はそんな深雪の髪を優しく撫でながら答える。

 

「深雪がいけない子なわけないだろ。俺は深雪が良い子だという事を側でずっと見ていたからな。寂しい思いをさせてしまっているのは申し訳ないと思うが、深雪の気持ちを聞けたのは良い事だと思っている」

 

「深雪は、達也様のお邪魔はしていませんか? 迷惑をかけてはいませんか?」

 

「そんなことは無い。俺が深雪の事を邪魔だとか迷惑だとか思うわけないだろ?」

 

 

 優しい表情でそういわれ、深雪の顔は一瞬で真っ赤になる。だが達也に撫でられているので顔を背ける事が出来ずに、ただただ恥ずかしそうに顔を俯ける。

 

「達也様は、深雪を辱めて楽しんでいるのですか? そのように優し気な表情でそんなことを言われれば、深雪じゃなくても照れてしまいます」

 

「別に楽しんでいるつもりも、辱めてるつもりもなかったんだが」

 

「もうっ! そう言うところが達也様のズルいところですわ。真顔で女性が嬉しい言葉を言ってくれるのですから」

 

 

 今度は本気で照れた深雪は、髪に触れていた達也の手を外して顔を背けた。深雪のそんな仕草が可愛いと感じた達也は、先ほどよりも柔らかい笑みを浮かべながら深雪の事を見詰めていた。

 

「それで、この部屋に来た理由は、深雪の気持ちを俺に伝える為だったのか?」

 

「目的の大半はそうでした。ですが、達也様に迷惑じゃないと言われて、深雪は一つ我が儘を言いたい気持ちになってしまいました。パーティーの序盤で亜夜子ちゃんや夕歌さんに怒られたのに、やっぱり深雪は達也様と同じ部屋で寝たいと思ってしまうのです。ダメでしょうか?」

 

 

 上目遣いで達也に迫る深雪。自分が抜け駆けしているという自覚はあるが、それ以上に達也に甘えたいという気持ちが勝っているようで、達也にはそんな深雪の気持ちが手に取るように理解出来た。

 

「さすがにこの部屋で深雪を寝かすわけにはいかないな」

 

「そう…ですよね……」

 

「だが、深雪の部屋で深雪が眠るまで側にいる分には問題ないだろ。何時かの時みたいに、寝るまで手を握ってるくらいなら許容範囲だろうし」

 

「達也様が手を握ってくださるのなら、恥ずかしくて眠れないかもしれませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「いいよ。ここ最近深雪の事をかまってあげられなかったし、これくらいは俺から申し出るべきだった事なのかもしれない」

 

「そんなことありませんわ! 達也様はいつも深雪の事を気にかけてくださっておりました。でも深雪がそれだけじゃ満足出来なくなってしまっただけですから、達也様が気に病む必要はありません」

 

「そうかい? じゃあ、場所を移そうか」

 

「はい」

 

 

 万が一達也の部屋で深雪が寝て、誰かが訪ねて来たら問題になるが、深雪の部屋で深雪が寝るまで達也が側にいるだけなら問題にならないだろうと、二人はそう考えているのだが、客観的に見ればその二つに余り差はないのだと、二人は最後まで気づかなかった。




やっぱり深雪は甘えん坊

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