劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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新刊発売予定日が三月十日、しかも上巻って事は引っ張れない……IFでも考えようか、孤立編をやってまた引っ張るか……


分かりにくい照れ隠し

 照れ隠しで幹比古を蹴り飛ばして家の中に戻ってきたエリカは、共有スペースで紅茶を飲んでいる響子と夕歌の側に腰を下ろし、水波が持ってきてくれた日本茶を一気に飲み干した。

 

「何かあったんですか?」

 

「ちょっとミキに辱められただけです。まぁ、しっかりとお仕置きしておいたので大丈夫ですが」

 

「婚約者がいる相手に辱めを? しかも昨夜彼女が出来たばかりの吉田家の子が?」

 

「エリカがからかい過ぎて返り討ちに遭っただけだろ」

 

 

 エリカが振り返ると、そこには達也が立っていた。まったく気配を掴ませない達也には、さすがのエリカも慣れたとはいえ驚いてしまう。

 

「急に背後から声をかけるのは止めてよね……ちょっとビックリしちゃったじゃないの」

 

「別に驚かすつもりも無いんだが。そもそも、そこは俺が座ってた場所だ」

 

「あっ、そうだったの?」

 

「まぁ気にしないが」

 

 

 そう言って達也はエリカの隣に腰を下ろす。響子は兎も角夕歌は少しムッとした表情を表に出したが、エリカには夕歌の表情の変化は感じ取れなかった。

 

「それで、達也くんはあたしがミキに蹴られたのを見てたわけ?」

 

「別に見てないし、エリカが幹比古を蹴ったなんて一言も言ってないだろ」

 

「そうね。達也さんは何も言ってなかったわね」

 

「つまり、千葉さんの自爆ですね」

 

 

 達也の言葉に夕歌と響子も追随し、エリカは素直に白旗を揚げる。

 

「そもそもミキの癖にあたしに反撃しようだなんて、ちょっと調子に乗ってると思わない?」

 

「散々幹比古をからかってきたんだから、それくらいの反撃は覚悟してたんじゃないのか?」

 

「それくらいって、達也くんはどんなことをされたか分かってるの? もしかしたらミキに襲われたかもしれないんだよ?」

 

「幹比古にそんな度胸は無いし、美月が悲しむようなことをするとも思えん。もっと言えば、エリカを襲おうとすれば返り討ちに遭う事も分かっているだろうし、俺を敵に回したいとも思えん」

 

「最後の理由が物凄く説得力があって、何にも言い返せない……」

 

 

 エリカとしても、達也を敵に回す恐怖は理解しているつもりなので、幹比古がそんな愚を犯すとも思えないと納得してしまう。そもそも自分が襲われるようなまでの事をしてきたつもりは無いので、そんな嘘が達也に通用するわけないかと、自分の浅はかさを反省した。

 

「それに、幹比古が反撃してきたというのは、それだけ精神的に余裕が出てきた証拠だろ」

 

「美月と付き合ったから?」

 

「それもあるだろうが、本来の力を取り戻して、更に上達した事で、前以上に周りを冷静に見る事が出来るようになったんだろうな」

 

「それは達也さんがアドバイスしてあげたからでは? 資料でしか見てないので断言は出来ませんけど、吉田家の次男君は、達也さんと出会う前と後で、各段に魔法技能を上げていますし」

 

「俺は気になった事を幹比古に言っただけで、実力が上がったのは幹比古が努力したからです」

 

「達也くんって、実は褒められるのが苦手なの? 褒めてもすぐ否定しちゃうし」

 

「そんなことは無いですが、褒められるようなことをしたとも思っていないので、どうしても否定から入ってしまうんでしょうね」

 

 

 響子に指摘されて、達也は冷静に自分の行動を分析しそう答えた。実際達也としては、具体的な何かをアドバイスしたつもりは無いし、一年の時に調整した魔法式は、単純に無駄を省いただけだと思っているので、それだけで幹比古の実力が格段に上がるなんて思っていないのだった。

 

「ミキが元の力以上の力を手に入れたのは、間違いなく達也くんが原因だとあたしは思うけどね。レオもそれなりに役に立ってるみたいだけど、貢献度ではどう考えても達也くんの方が上よ」

 

「それは私も同感ね。達也さんが側にいるだけで、男の子だったら頑張ろうと思うか、嫉妬で相手を貶すかのどっちかでしょうし、吉田君は前者だったんだと思う」

 

「まぁ、達也くんの側にいれば、それだけ実戦の機会に恵まれるものね」

 

「響子さん。まるで俺が事件を起こしてるように聞こえるのですが? 前々から言っているように、俺は単純に巻き込まれただけで、自分に降りかかってくる火の粉を振り払っているだけです」

 

「達也くんの場合、振り払って周りを炎上させてる気がするのよね……実際、ウチのバカ兄貴も四葉家と因縁が深い魔法師に殺されかかったわけだし」

 

「あれは私のミスでもあったわけだから、達也くんだけが悪かったわけじゃないと思うわよ。近江円麿に気をつけろと忠告した相手は千葉さんのお兄さんだけだったけど、その相手に一人で会いに行ったと思い込んでたのは私たちで、それが間違いだと指摘してくれたのが達也くんなわけだし」

 

「まぁ稲垣さんの修行が足りなかったのが一番の原因ですけどね。漸く復帰して相当鍛えてるらしいですし」

 

 

 エリカはこういうが、稲垣も決してレベルが低いわけではない。だがどうしてもエリカの基準は憎き父親であり長兄であり次兄になってしまっているのだ。その中に放り投げられれば、稲垣などすぐに動けなくなってしまうだろう。

 

「とにかく、ミキが強くなった一番の原因は達也くんだって」

 

「原因というよりは要因だと思うけどね。でも、強くなれたという事は良い事ですから、千葉さんだって分かってますよね?」

 

「美月に何かあったらただじゃおかないと思ってます」

 

 

 これが精一杯のエリカの照れ隠しであることは、人生経験豊かな三人には筒抜けであった。




影響力半端ないですから

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