新人戦最終日、本来なら今日はモノリス・コードの決勝のみが行われる予定だったのだが、事情もあり、午前中に残りの予選を行い、午後に決勝を行う形になった。
そして残りの予選が始まると、客席からは好奇の目と疑問の目が向けられた。
「なあ、やっぱ目立ってねぇか?」
「試合に参加する選手が目立つのは当然だと思うが?」
「いや、そうじゃなくって……」
「達也、分かって言ってるだろ」
レオと幹比古が気にしてるのは、単純に選手に向けられる視線ではない。レオの腰に差してある武装一体型CAD『小通連』だ。
武装一体型CADの事を知ってる高校生の方が少ないので、直接攻撃の禁止されているモノリス・コードに剣を持ち込む理由が分からないからだろう。
「分かってて言ってたとしても、この好奇の視線がやむ訳じゃないんだ。気にするだけ無駄だぞ」
「それは……」
幹比古は達也ほど簡単に割り切る事が出来ない。むしろ幹比古の反応の方が普通であり、達也のように簡単に割り切る方がおかしいのかもしれない。
「しかしよ、達也……何で三高の女子まで盛り上がってるんだ?」
「……さぁな」
レオが指摘したのは、三高の一角で異様に盛り上がってる愛梨たちの事だ。達也もまさかあそこまであからさまに応援してくるとは思って無かったので、今現在頭が痛いのを堪えてるところだったのだ。
「考えても分からない事は一先ず捨て置け。もうじき始まる」
「そうだな」
「……分かったよ」
こう言った時のレオの潔さが、幹比古には羨ましいと思えていた。自分は簡単に切り替える事が苦手だと、幹比古も自覚してるのだろう……
愛梨たちが盛り上がってるのとは別の場所で、将輝と真紅郎は達也の事を見ていた。
「出てきたね、彼が」
「二丁拳銃に右腕に腕輪型のCAD……同時に三つものCADを使いこなせるのか?」
「彼の事だからハッタリ……って事は無いと思うよ」
「お手並み拝見と行かせてもおう」
試合開始の合図と共に、達也は画面から消えた。
「自己加速か!?」
「いや、移動に魔法を使ってる様子は無いけど……」
達也が木々を移動する様子に、将輝も真紅郎も驚きを隠せずにいた。魔法を併用すればサイオンの動きが可視化されているモニターには映る。だがそれが全く見られないのは、達也が移動に魔法を使ってない証拠だからだ。
達也が地上に降り、ディフェンダーを背後に置きモノリスに疾走する。それを止める為に相手ディフェンダーが魔法を行使しようとする。が……
「あっ!?」
「何時の間に!?」
真紅郎の驚きに、将輝が達也のCADの抜く早さに驚いたんだと思いそれに続けた。だが真紅郎の驚きはそっちではなかった。
「今のは……『
「『
真紅郎の呻き声に、将輝も驚きの声を上げた。
三高の二人とほぼ同時に、もう一人驚きの声を上げた人物がいた。
「今のは……あの時の」
「『
摩利が声にならない声で驚いてる隣で、真由美は淡々とそんな事をつぶやいた。
「今のが何だか分かるのか!?」
「術式解体は圧縮したサイオン粒子の塊をイデアを経由せずに対象物にぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式なんかの魔法情報を記録した想子情報体を吹き飛ばしてしまう魔法よ。だけど使える人間は殆ど居ない。想子を乱すんじゃなくって吹き飛ばすなんて、私でも無理。いったいどれだけの想子を保有してるのかしら」
「……つまり大男が力任せに巨大なハンマーを振り回すような事か?」
「余裕ね。摩利がバスで見たのがどんな事なのかは分からないけど、少なくとも五人以上の重ね掛けがされた魔法式を一瞬で消し去るんだから、達也君は普通の魔法師相手なら負けないと思うわよ」
真由美が摩利に説明をしている隣で、今度は鈴音が驚きの声を上げる。
「何ですかあれは!?」
「司波君が独自に開発、アレンジをした新魔法『小通連』です」
達也の手伝いをした事でその存在を知っていたあずさが、鈴音に武装一体型CADの説明を始める。
真由美も摩利も知らなかったのか、あずさに視線を向け、途中で何度も頷いた。
「なるほど……ですが、司波君の考案にしては杜撰ですね」
「杜撰ですか?」
「このように広いステージなら使えますが、対象物の多いステージではその役割は出来ないのではないでしょうか」
「心配いらんだろ」
鈴音の心配を、摩利は何か根拠でもありそうな声でバッサリと否定した。
「何故そう思われるので?」
「あの男がそんな事を見落とす訳が無い」
「それもそうね。達也君ならそれも見越した考えがあるだろうし」
二人が異常に達也の事を信頼してると鈴音には感じられたが、言われてみればその通りだと思わされる程、鈴音も達也の事を信頼していたのだった。
「そう…ですね。司波君なら考えがあってもおかしくはないでしょうね」
「後で聞いてみましょうか?」
「お願いします。ですが、私からの疑問だとは悟られないようにお願いしますね」
「わ、分かりました……」
鈴音の何とも言えないプレッシャーに圧され、あずさは小さく頷くのが精一杯だった。そしてそのタイミングで、試合終了のサイレンが聞こえてきたのだった。
「あら、何時の間にか終わってるわね」
「そりゃ達也君がいるし、その達也君が選んだ二人だからな。勝ってもらわなきゃ困る」
「渡辺委員長、些か司波君に期待を掛けすぎなのでは? いくら司波君が引き受けてくれたとは言え、強引に引き受けさせた事には変わりないんですから」
「それは私たちも同罪なのでは……」
あずさのつぶやきは当然のように黙殺された。
試合が終わり、三高の女子グループは異様な盛り上がりを再び見せた。
「凄かったですわね! さすがは達也様!」
「愛梨から聞かされた時は驚いたけど、これなら選ばれて当然だね」
「むしろ最初から達也さんがエントリーしてれば良かったんじゃないかな?」
「ですが、それだと瓦礫に埋もれたのは達也さんと言う事に……」
香連のツッコミに、沓子はその事を失念していたと思い出し小さく舌を出した。
「一条や吉祥寺が何処で見てるかは知りませんが、これなら三高の優勝確実なんて浮かれてないでしょうね」
「むしろ一高の優勝が確実っぽくなってきてる」
「エンジニアとしてだけじゃなく、まさか選手としても優秀だったとは……」
「ですが、どうも達也さんは実力を発揮出来てないような気もしますが」
「香蓮さん? それは如何言う……」
香連のこぼした言葉に、愛梨がすぐさま反応した。
「いえ……先ほどの『共鳴』背後からの完璧な攻撃だったにも関わらず、戦闘不能にまでは出来てませんでしたし……」
「達也さんが普段使ってるCADがかなりハイスペックって事かな? 競技用CADに慣れてないとか」
「そうかも知れないね。愛梨が聞いた通りなら、達也さんが代役を頼まれたのが昨日の夜、そこから調整しても慣れる時間は無かったかもね」
「真相は分かりませんが、我が校の僅かな勝機はそこでしょうし、あの二人がそれに気付かない訳ありませんものね」
達也の事情を気にしながらも、僅かに残っていた母校への優勝の可能性を思い出し、何処にいるか分からない二人に視線を向けた愛梨だった。
幹比古の活躍は次回で……