劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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自分も興味ないですね


自己顕示欲

 レオたちがシャワーを浴びている間、エリカは達也と美月の間に腰を下ろし、視線を美月に固定して人の悪い笑みを浮かべた。

 

「美月はミキの稽古を見たかったんだよね」

 

「そ、そんなんじゃないよ。私はエリカちゃんの付き添いとしてここに来ただけで」

 

「付き添いが欲しいなんて言ってないよね? 美月はリビングで七草先輩たちとお茶してても良かったわねだし」

 

「それほど親交が無いし、先輩たちの会話は私には分からない事が多いから」

 

 

 真由美だけでなく、小春や鈴音といった、あまり美月と親交のない相手と一緒にいるなら、暇でもエリカに付き添って稽古を見学していた方が良いと美月は考えていたのだが、エリカはそれが分かった上でからかっているのだ。

 

「それにしても、本当に美月とミキが付き合うとは思わなかったわね。このまま結婚まで行っちゃいそうな勢いよね」

 

「私たちより、エリカちゃんが結婚する方が確実に早いと思うけど。既に婚約してるわけだし」

 

「あたしの事は良いのよ、別に。そんな事よりも二人の関係をどう見守ろうかの方が大事だし」

 

「暖かく見守ってくれればそれで良いよ。エリカちゃんやエイミィさんは、なんだか余計な茶々を入れそうだし」

 

「エイミィは兎も角、あたしはそんな事しないわよ」

 

 

 説得力に欠けるエリカの言葉に、美月は首を傾げながら達也に視線で問いかける。問われた達也も、軽く肩を竦めるだけに留めたが、二人の本音は、エリカとエイミィにそれほど差があるとは思えない、ということだった。

 

「散々からかってきたけど、ミキは本気で優しい男の子だから、美月の事を大事にしてくれるって信じてるのよ」

 

「私なんかよりエリカちゃんの方が吉田君との付き合いが長いもんね。そのエリカちゃんがそう言ってくれるということは、私は安心して吉田君と付き合っていけるって思えるよ」

 

「ちょっと奥手でムッツリだけど、その辺は幼馴染のあたしが保証してあげるわよ」

 

「前の二つはいらないんじゃない?」

 

 

 美月のツッコミを完全に無視して、エリカは視線を美月から達也に移した。

 

「達也くんから見て、ミキとレオの実力はどうなの? 結果だけしか見てないからあたしには良く分からないけど、二人ともそれなりに成長してると思うんだけど」

 

「入学当初から考えれば、レオも幹比古もかなり腕を上げているだろう。まして幹比古は、腕力だけじゃなく魔法力も相当高まっているから、普通の相手なら問題なく美月を守り抜くことが出来ると思うが」

 

「だってさ。良かったね美月」

 

「でも、達也さんのように普通じゃない相手だった場合、吉田君一人では危ないかもしれないって事ですよね?」

 

「達也くんのようなイレギュラーがそうそういてたまるかって言いたいけど、ミキだって美月を守り抜くことくらい最低限だって思ってるでしょうし、美月は安全だと思うわよ」

 

「私が大丈夫でも、吉田君が大丈夫じゃなかったら意味がないよ」

 

「まぁそうよね……横浜事変の時の啓先輩や桐原先輩のような事があった場合、助けてもらった方が悲しい思いをするわけだし」

 

 

 横浜事変の際、五十里、桐原、そして小春はそれぞれ大事な人を庇って怪我をし、達也がいなければそのまま死んでしまったかもしれなかったのだ。その光景を見ていたエリカとしては、確かに残される側は居たたまれない思いを懐くだろうと理解している。

 

「それじゃあ、ミキにはもっと強くなってもらわないと困るわね。侍朗を鍛えるついでに、ミキも鍛えてあげようかしら」

 

「エリカちゃん、矢車君の事を本気で鍛えるつもりなんだ」

 

「自分の手で大事な人を守りたいって思うのは良い事だしね。それに侍朗には、三矢家で鍛えるよりあたしが鍛えた方が身になると思うし」

 

「確かに最近見た矢車君は、入学当時から考えれば気力が充実している感じだったな。あれはエリカが鍛えたお陰だろ」

 

「見ただけで気力が充実してるなんて、普通は分からないんだろうけど、達也くんなら何でもありよね……多分達也くんが思った通り、あたしたちが鍛えたから侍朗も強くなってるんだと思うわよ。後は、詩奈が誘拐紛いな目に遭った事が、アイツのやる気をますます高めたのかもしれないわね。実際に詩奈が攫われて、自分一人では何も出来なかった事が悔しかったのかもしれないし」

 

「なんでも一人で出来ると思わない方が良いと思うんだがな」

 

「殆どなんでも一人で出来る達也くんが言っても、説得力ないわよ」

 

 

 エリカの言葉に、達也はもう一度肩を竦めてみせる。達也としては一人で解決してきたわけではないのだが、結果だけ見れば達也一人で解決しているように思われても仕方がない戦果を挙げてきているのだから、エリカの言葉もあながち間違いではないと感じたのだ。

 

「もちろん、侍朗に達也くんと同じ動きが出来るとは思えないし、一人で抱え込むのはよくないって事も分かってるわよ。それでも、大事な人くらいは守りたいって思うのが、この年頃の男の子ってものなんだとあたしは思ってる」

 

「そうかもしれないな。自分の力を周りに認めてもらいたいと思うのは、この年頃の男子なら普通だろ」

 

「達也くんが言っても説得力ないわよ。名誉とか名声とか、興味ないんでしょ?」

 

「さぁ、それはどうだろうな」

 

 

 美月が知らないことを話しているので、二人とも具体的な事は言わなかったが、美月は特に疑問を懐くことなく二人の会話を大人しく聞いていたのだった。




エリカの保証っていったい……

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