実力者同士の戦いを目の当たりにした平河姉妹は、姉の部屋で先ほどの事を話し合っていた。
「達也さんの実力は何となく聞いていたけど、リーナさんも凄かったね」
「あんな人に対抗しようとしてたなんて、私よく生きていられたなって思った」
「あれは千秋の勘違いでしょ? 散々達也さんに迷惑かけておいて、私が言えた義理ではないけど、普通なら迷惑かけ過ぎて婚約者に名乗り出ようなんて思わないわよね?」
「でも達也さんは許してくれたし、その後も私にソフトの指導などをしてくれてるもん。ちゃんと謝ったし、達也さんなら多少危ない目に遭っても大丈夫だし」
「それは達也さんの魔法特性を教えてもらったから言えるだけで、あの時はそんな事知らなかったでしょ?」
「まぁ、お姉ちゃんを助けてくれるまでは知らなかったけどさ」
実際施術された身である小春は、達也の魔法の凄さを千秋以上に知っていると言えるだろう。だがその特性は、達也に大きすぎる代償を支払わせるものなので、おいそれと人に言えるものではなかった。
「あんな魔法が待機してるなら、普通の魔法が上手く使えないのも仕方ないよ……というか、それと共に四葉の事情で魔法力を封印されていたわけだし、あの状態でも強かった相手に喧嘩売ろうとした自分が恥ずかしい」
「最初っから言ってたでしょ? 私が代表を辞めたのは達也さんの所為じゃないって。それを千秋は……」
「だって、お姉ちゃんが学校を辞めなかったのは達也さんが説得してくれたからで、それだったら代表の事も思い留めてくれるって勝手に思ってたから……だから、裏切られたって思っちゃったんだよ」
「そもそも達也さんに、私を思い留めさせる義務はなかったのよ。学校を辞めさせなかった事だって、カウンセラーの小野先生に半ば強引に頼まれたからであって、私に特別な感情を懐いてたわけじゃないんだしさ」
「でもあの時はそんな事分からなかったし、ネットで知り合った人にいろいろと思い込まされていたから……その洗脳も結局、達也さんのお陰で何とかなったんだけど」
当時の事をなんとなくしか覚えていない千秋は、どれだけ達也に迷惑をかけたのかが良く分かっていない。ただ迷惑をかけたという事だけは分かっているので、未だにその事を気にして積極的になれずにいるのだ。
「私だって、急に代役を押し付けた形になっちゃったし、達也さんだから出来たことであって、普通の人なら出来るわけ無かったのよね……」
「でもお姉ちゃんは、市原先輩に達也さんが代役に相応しいと言って代表を辞めたんだから、最低限のけじめはつけてるでしょ?」
「相応しいとは言ったけど、達也さんの了承は貰ってたわけじゃないし、その後は完全に達也さんに押し付けた形だし……」
「お姉ちゃんは精神的に参っていたんだから仕方ないよ……というか、お姉ちゃんの代役を引き受けてくれた達也さんの邪魔をしていた私の方が、よっぽど悪いって……」
「操られていたんだから仕方ないわよ。達也さんだって、千秋個人が悪いわけじゃないって言ってくれたんだし」
「それも、達也さんだから言える事であって、普通の人だったら大迷惑だって……挙句の果てに大亜連合の魔法師が攻め込んできて、それも達也さんが中心になって解決する破目になってしまったし……」
「それは私たちが原因じゃないわよ。あの人たちが勝手に攻め込んできたところに、たまたま達也さんが――いや、私が代役を押し付けなければ、達也さんたちはあの場所にいなかったかもしれないのよね……ということは、あの事件に達也さんが巻き込まれた原因は私って事になるわね……」
小春が考え過ぎではないかと笑い飛ばそうとしたが、千秋にはそれが出来なかった。
「というか、達也さんの情報を敵に流してたのは私みたいだし、お姉ちゃん以上に私の方が悪いと思う……」
「そもそも何で敵は達也さんの情報を欲しがったの?」
「よく分からない……覚えてないのもあるんだけど、詳しい話は聞かない約束だったと思う……向こうは向こうの目的の為、私は私の目的の為に一緒に行動していただけで、仲間になったわけじゃなかったんだと思う……」
「曖昧ね……何で忘れちゃったのかも覚えてないんでしょ?」
「病院で会った気がするんだけど……どんな人だったか靄がかかったように思い出せないんだよね……これも魔法なのかな?」
「でも、魔法だったら達也さんの術式解体で解除されるはずでしょ? それがないって事は、魔法とは違う何かで記憶消去を行ったって事よね?」
「何だったんだろう……」
本当は思い出されると面倒だから、達也がその部分の魔法を解除しなかっただけなのだが、この二人にそのような裏事情を知る術はなかったので、二人はひたすらに考えたが答えにたどり着けなかった。
「まぁ、思い出さなくてもいいような事だったんだろうね。どうせ迷惑かけた時の事しか忘れてないんだし、達也さんも気にしなくていいって言ってくれてるし」
「少し甘えすぎな気もするけど、思い出したら千秋が自責の念に押しつぶされそうだしね」
「甘えすぎって、深雪さん程甘えてないよ」
「あの子は私たちとは事情が違うもの……家庭環境を考えれば、多少依存してしまっても仕方ないと思えるわよ」
「まぁね……父親が酷すぎるもんね」
司波家の家庭事情を聞かされているので、深雪が多少達也に甘えすぎていても大目に見るようにと、婚約者同士で取り決めているのだが、さすがに甘えすぎではないかと、最近では真由美を中心に文句が出ているので、深雪はこの家に来られなかったのではないかと千秋は考えているのだった。
他所から見ても、司波家の事情は酷すぎるようです