劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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裏ってほどでもないかな


裏事情

 聞いても応えてくれるとは思っていなかった遥だったが、思いの外スムーズに答えてくれる達也に、気味の悪さを感じていた。

 

「随分とあっさり答えてくれたけど、達也君も国防軍所属じゃなかったっけ? 国防軍の不祥事とも言える事を公安の私に教えちゃっていいわけ?」

 

「もうじき抜けますし、俺は情報部所属ではありませんので。そもそも、深雪を狙った時点で遠慮する気など起きませんので」

 

「そりゃそうよね……世界最強のシスコンって揶揄されてたくらいだもの」

 

 

 まだ深雪が妹だと思われていた時代、達也の事をそうやって揶揄する連中がいたことは達也も知っている。自分が普通だと思っていた事も、世間一般の兄に当てはめると普通ではないという事も、真由美や摩利にからかわれて漸く理解したくらいだが、シスコンと言われる筋合いは無いと思っていたのだが、どうやら自分の行動を客観的にみれば、シスコンと言われても仕方がないと理解したのだった。

 

「それで、情報部が犯人だと分かってる君は、どうするつもりなのかしら?」

 

「どうもしませんよ。既にある程度の報復は済んでいますので」

 

「それって、一部で噂になっている、情報部が極秘で使っていた研究施設が襲われた事と関係してるのかしら?」

 

「極秘って程隠してる感じはしませんでしたが、そこを襲ったのは自分です」

 

「……簡単に言ってるけどさ、普通に考えて犯罪行為よね?」

 

「非合法活動をしている施設に囚われたUSNA軍人を救出しただけで、犯罪行為に当たるような事ではないと思いますが。そもそも情報部が違法薬物で自我を奪い、USNA兵を傀儡にした証拠がありますので、こちらが責められる事は無いと思いますよ」

 

 

 そう言って達也は、遥に証拠となるデータを見せ、情報部に非があることを証明する。

 

「こんなデータ、何処で入手したのよ……」

 

「俺は被験者にも会ってますし、あの施設に侵入もしていますからこの程度簡単に手に入ります」

 

「この程度って……どう考えても極秘情報に分類されてるものだと思うんだけど……」

 

 

 こんなもの造作もないと言われ、遥は自分の存在価値に疑問を懐き始めた。

 

「君がいれば、私やエレクトロン・ソーサリスの存在なんて必要ないんじゃない?」

 

「いえいえ、響子さんの技術は、どう術式を改良しても真似出来ませんし、遥さんの隠形だって、俺には真似できないものですから」

 

「そう言ってもらえると幾分か気持ちが楽になるけど、やっぱり君には情報収集で勝てる気がしないもの」

 

「そんなこと無いと思いますが」

 

 

 達也はいろいろな情報網を持っているからこれだけの情報が手に入るだけで、達也一人で遥と競えば、どう頑張っても遥の方が勝つだろうと思っている。

 

「そういえば、これは魔法科高校全体に関係する噂なんだけど」

 

「九校戦が中止になるかもしれない、という噂ですか?」

 

「はぁ……やっぱり知ってたのね」

 

 

 遥としては、達也が知っているかもしれないと思いながら切り出した話題だったので、それほど衝撃波受けなかったが、それでもガッカリしてしまうのは避けられなかった。

 

「達也君を驚かせる日は来るのかしらね」

 

「その内来るんじゃないですか?」

 

「まぁいいわ。それで、九校戦の話だけど、一昨年の無頭竜の介入、昨年の軍事色が色濃く出た競技内容を見直す為という名目になっているけど、大会本部の本音としては、当分の間九校戦を中止したいだけみたいね。不祥事が重なって上層部全員が辞任して、若い人たちだけじゃまだやっていけないみたいだしね」

 

「そういう裏事情がある事は聞いていませんでした。てっきり、俺の素性がバレて中止になるものだとばかり」

 

「まぁ、君と深雪さんが参加してる時点で、一高有利なのは確定的だものね……何せ『あの』四葉家の次期当主と血縁者なんですもの」

 

「俺は競技に参加するつもりは無いんですが」

 

「君が担当した選手は、互いに負けただけで事実上無敗。こんな伝説を持ってる君が参加したら、普通に考えて勝てないわよ。ましてやその人物が四葉の次期当主だと知れれば、張り合うだけ無駄だと思っても仕方ないでしょ」

 

「そんなものですかね……俺にはそのような感情はありませんので」

 

「君の感情欠陥については聞いてるけど、表情一つ変えずに言われるのは慣れないわね……誰かに聞かれるかもって思わないわけ?」

 

「遮音フィールドを張ってるので聞かれることはないでしょうし、この角度なら口の動きも見えないので、読唇術を気にする必要もありません」

 

 

 特殊な技術ではあるが、達也と遥はその事を気にした様子はない。二人とも使えるし、知り合いで使える人物にも心当たりがあるので、この程度の技術なら会得するのは難しくないと感じているのかもしれない。

 

「九校戦が中止になった場合、心無い子は君の事を責めるかもしれないわね」

 

「俺を標的にして気が紛れるなら、それでも構わないですけどね。まぁ、俺は兎も角深雪がどう思うかは知りませんが」

 

「彼女が暴走した場合、止められるのは君だけなんだけど?」

 

「深雪の前だという事を忘れて発言した奴の自己責任だと思いますが? 深雪の干渉力の強さは、この二年間で十分理解してるはずですし」

 

「まぁね……それ以外にも、君の悪口に敏感な子は大勢いるものね」

 

 

 遥が誰を思い浮かべたかは分からないが、確かに敏感な女子はいるかもしれないと、達也は苦笑いを浮かべて遥の言葉に頷いたのだった。




深雪の報復は過激だからなぁ……

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