劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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危ない人が大勢いるな


盗撮依頼

 達也から色々と情報を貰った遥は、お礼の意味を込めてもう一杯お茶を用意する。

 

「ゴメンなさいね。わざわざ授業中に呼び出しちゃって」

 

「その言葉は本来、俺が入室する際に言ってほしかったですね」

 

「まぁまぁ、堅いこと言わないで。そんな事より、やっぱり詳しい情報を貰うなら達也君に頼むのが一番って思い知らされたわ。だいたいが当事者だしね」

 

「それで良いんですか、公安の調査官としてのプライドは無いんですかね?」

 

 

 達也の嫌味に、遥は苦い顔をしながら答える。

 

「そんなちっぽけなプライドで対抗出来るほど、君は簡単じゃないでしょ? どれだけ調べたって、君とエレクトロン・ソーサリスとの関係は分からなかったし」

 

「俺は表向きでは、軍人とは無関係な人間として登録されていましたから。いくら公安の調査力を以てしても、四葉家が完全にブロックしている情報を引き出す事は不可能でしょうし、俺が軍属であることは、所属している大隊の中でも、限られた人間しか知り得ませんし」

 

「特務士官なんでしょ? 名前も顔もどうやって隠してるの? 今までは兎も角、今の君はちょっとした有名人以上に知られているはずでしょ?」

 

「名前は最初っから違うものでしたし、公の場に顔を出す事もありませんでしたし。作戦実行の際は、フルフェイスのヘルメットを被って、バイザーにはスモークがかかってますので」

 

「完全に怪しい人よね、それ……よくそんな人と行動を共にしようと思えるわよ」

 

「最初の方はそんな話も出てましたが、一度行動を共にすれば、正体は兎も角一緒に行動するに値する戦力だと思ってもらえましたので」

 

「そりゃね……君の魔法を見ればそう思わざるを得ないわよ……敵は消え去り、こちらは即死ではない限り生き返るんだから」

 

 

 遥は実際に達也の魔法を見たことはないが、話に聞いた限りでは見たいと思わないものであると思っている。

 

「それで、今回の情報の出所もエレクトロン・ソーサリスなの?」

 

「響子さんだけではありませんよ。四葉の情報網も使ってますし、そもそも情報部の事に関していえば、響子さんは無関係です」

 

「ふーん……まぁ、深雪さんが襲われたとなれば、四葉家が黙ってる訳もないわよね……元とはいえ次期当主候補筆頭だったんだから」

 

「その情報は何処から? 話した覚えはないのですが」

 

「深雪さんからなんとなく聞いたのよ。君が次期当主に確定する前は、自分がなるはずだったって」

 

「何となくで深雪がそのような事を話すとは思えないのですが。遥さんがしつこく聞いたんではありませんか」

 

「そんなにしつこくした覚えはないわよ。ただまぁ、君の写真をあげる代わりに聞きだした事は否定しないけど」

 

「そういえば写真を撮っているなとは気づいていましたが、まさか深雪に頼まれていたんですか?」

 

「自分じゃすぐにバレて話しかけられてしまうからって言われてね。私だったらある程度怪しい動きをしても見過ごされるだろうって」

 

「まぁ、遥さんがこそこそしてるのは今に始まった事じゃありませんからね」

 

「それで納得されるのもアレだけど、そういうわけよ」

 

 

 陰で動くことに慣れている遥としては、達也にそのように思われていても仕方がないと思う反面、そんなにこそこそしてないと心の中で反論したのだった。

 

「まぁ、深雪さん以外にも君の写真を私に頼んでくる子は大勢いるんだけどね」

 

「普段から本音を誤魔化して生きてきた甲斐があった、というべきなのでしょうか」

 

「どうなんだろうね。一昨年君に言われてからは、それなりに素直に生きてきたつもりだったんだけどな」

 

「それで、深雪以外に俺の写真を欲しがる物好きはいったい誰なんですか?」

 

 

 さすがに看過できないと感じた達也は、先ほどまでの穏やかな気配を一変させ、獰猛な瞳で遥を睨みつける。いきなりそのような視線を向けられ、遥は思わず大声を出しそうになり、ギリギリのところで踏みとどまった。

 

「別に裏組織とか、そういう危ない人から頼まれたわけじゃないわよ? 光井さんとか北山さんとか、後は卒業生の七草さんや市原さん、平河さんなんかもそうね」

 

「殆ど婚約者じゃないですか……写真なんて普通に撮ればいいものを」

 

「欲しいのはあくまでも『盗撮写真』であって、普通のアングルの写真じゃないんですって」

 

「その発想、普通なら怖いと感じるんでしょうね……」

 

 

 普通の感覚を持ち合わせていないのが幸いしたのか、達也は少し呆れただけでそれ以上の事は考えなかった。遥もそう答えるだろうと思っていたからこそ、素直に写真を頼んできた相手の名を告げたのだ。

 

「とにかく、今後盗撮なんてしないでくださいね? 見つけ次第排除しますので」

 

「君が言うと冗談に聞こえないんだけど……まぁ、今後は頼まれても断るようにするわね。でも、結構いいお小遣い稼ぎになってたんだけどな」

 

「いい大人が盗撮で小遣いを稼がないでくださいよね……なんなら、また情報収集を頼んで、俺が金を払ってもいいんですが」

 

「君から振り込まれる額は、ちょっと怖いから遠慮させてもらうわ……」

 

「正体が分かってる今なら、あの程度の額がどうって事ないって分かってるでしょうが」

 

「少なくとも、高校生がそんな事言っちゃいけない額だったわよ……普通の高校生じゃないって分かった今でも、その思いは変わってないけど」

 

 

 世界的な魔工技師である達也の収入からすれば当然なのだろうが、決して『あの程度』とは言えない額を貰った身としては、そう簡単に割り切れない遥なのだった。




盗撮写真だから意味がある、のだろうか

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