劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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注目されて当然です


注目に値する実績

 授業終了のチャイムが鳴り、生徒会室に顔を出そうとした達也だったが、カウンセリング室のすぐ隣の保健室から現れた相手に引っ張り込まれ、そのまま保健室に寄る事になった。

 

「お久しぶりですね、安宿先生」

 

「えぇそうね。随分久しぶりな気がするわ。それに、その呼び方は気に入らないわ。さっきまで小野先生と二人きりで、何を話してたのかしら?」

 

「大したことではありませんが、おいそれと他人に話せることではありません。それで、それを聞きたくて俺を保健室に引きこんだんですか、怜美さん?」

 

 

 呼び名を変えただけで、怜美は満足そうな笑みを浮かべる。だがそんなことを聞きたいがために達也を保健室に連れ込んだわけではない。

 

「一昨日、君たちの新居で達也さんの誕生パーティーが行われたそうじゃない」

 

「えぇ、そうですが」

 

「遅ればせながら、誕生日おめでとう」

 

「ありがとうございます。話はそれだけでしょうか? もしそうなら、俺はこれで失礼させていただきますが」

 

「これで終わりなわけ無いじゃない。どうして私は呼ばれなかったのかしら? 愛人とはいえ、誕生日を祝う権利くらいはあると思うんだけど」

 

「別に呼ばなかったわけではないですよ。単純に連絡が取れなかっただけです」

 

「小野先生はそうかもしれないけど、私は基本的に学校にいるんだから、連絡が取れないなんてこと無かったと思うんだけど」

 

「そもそも俺は、誰が呼ばれたのか知らなかったですから。招待したのは深雪たちですし、何故怜美さんと遥さんが呼ばれなかったのか、俺に言われても分かりません」

 

 

 本当は愛人扱いの二人を深雪をはじめとする数名が呼びたくないと言ったから呼ばれなかったのだが、達也がそのような裏事情を聞かされているわけがなく、はっきり言えば本人が言っているように分からないが答えなのだ。

 

「まぁいいけど……こうしてお祝いは言えたわけだし、少しとはいえ二人きりの時間が作れたわけだし」

 

「怜美さんは一応授業時間外ですが、遥さんは授業中に呼びつけるわけですからね……最近会えてなかったとはいえ、生徒を授業中に呼び出すのはどうなんでしょう」

 

「達也さんなら、一時間くらい授業に出なかったからといって問題ないと思ったんじゃないかしら? それか、それほど急を要する内容だったとか」

 

「それほど急を要するとは感じませんでしたが……それこそ、放課後でも十分問題ない内容でしたし」

 

「誰かに聞かれるのを嫌ったとか?」

 

「遮音フィールドを張っていましたので、放課後であろうが関係なかったと思いますが」

 

「遮音フィールド? 小野先生は使えなかったと思うんだけど」

 

「俺が張ったんですよ。最近漸く、この程度の魔法なら自由に使えるようになってきたので」

 

 

 自分の中の魔法力を上手くコントロールすることが出来なかっただけで、達也は既にかなりの量の魔法を使う事が出来るのだ。元々フラッシュ・キャストの技術を使えば使う事が出来たのだが、四葉家はその技術を知られるのを嫌ったため使う事は無かったのだが、最近はそのような事を気にせず魔法を使う事が出来るようになったのだ。

 

「突如手に入れた強大な魔法力を持て余してるとは聞いていたけど、まだ完全にコントロールは出来ないのね」

 

「三ヵ月と少しで完全にコントロール出来る程、俺は元々魔法行使が得意では無かったですからね。頭では処理出来ても、実際に発動させるには時間がかかりますよ、そりゃ」

 

「達也さんは技術方面が得意だったもんね……今年の九校戦、きな臭い噂が流れてるからまだ分からないけど、完全勝利が懸かってるわけだし、頑張ってほしいわ」

 

「戦っているのは俺ではなく選手個人ですので、俺の記録なんて関係ないですよ」

 

「そんなこと言って。君の記録を期待してる人だっているのよ? 一年の時から、君のずば抜けた調整能力に魅せられ、試合ではなく君が調整したCADに注目してる観衆だって大勢いる。私がその一人」

 

「選手を応援してあげてくださいよ」

 

「もちろん、応援はしてるわよ。でもそれ以上に、君が調整したCADに目が行ってしまうのよね。私は元々戦闘力が無いわけだし、技術方面に注目しちゃうのも仕方ないんだけど」

 

「戦闘力がないって、千秋の事を組み敷いていたと五十里先輩から聞きましたが」

 

「あれは暴れる患者を押さえつけただけで、戦闘力とは関係ないわよ」

 

 

 普段通りの笑顔でそう答える怜美に、達也は苦笑いを浮かべた。

 

「とにかく、君の技術力は注目に値する。私はそう思ってるし、私の他にも思ってる人はいると思うのよ。だから、九校戦が中止になるかもしれないって噂は、それだけ衝撃を与えているのよ」

 

「まだ噂の範疇を出ないのに、そんなに衝撃がありますかね?」

 

「一高の五連覇もそうだけど、君の記録も注目に値しているんだから、それだけ衝撃は大きくなるのよ。まぁ、対戦相手からすれば、君が卒業しちゃえば勝ち目も出てくるかもしれないって思うでしょうけど」

 

「俺が卒業したとしても、下の学年にも立派な技術者や選手がいますので、そう簡単に勝てるとは思えませんが」

 

「それでも、反則級が大勢いる君たちの学年から比べれば、まだ勝てるかもって思えるんじゃない?」

 

「そんなものですかね?」

 

 

 自分たちが反則級とは思っていない達也は、怜美の言葉に頻りに首を傾げるのだった。




反則級だらけ

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