劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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無能な連中の尻拭いは大変だ


現実味を帯びた噂

 生徒会室で作業を終えた達也は、ピクシーが淹れてくれたお茶を飲みながら一息ついていた。本当は誰かの作業を手伝うべきなのだろうが、ここで達也が手伝ったりすると、万が一達也が長期間学校を休むような事態になった時に作業が滞る恐れがあると、先代の会長であるあずさが達也が手伝う事を禁じ、深雪もその流れを汲んでいるのだ。

 お茶を飲み終えた達也は、何時ものように山岳部に顔を出すか、地下施設で資料でも漁っていようか考えていたのだが、何やら視線を感じそちらを見ると、深雪が作業の手を止めて達也をじっと見つめていた。

 

「深雪、どうかしたのか?」

 

「達也様、先ほどカウンセリング室に向かわれたとお聞きしたのですが、いったいどのような用件だったのでしょうか?」

 

「小野先生から呼び出されただけで、俺個人の意思で向かったわけではないのだが」

 

「小野先生が達也様を呼び出し、ですか? もしかして、先日お呼びしなかった事に対する抗議でしょうか?」

 

「それもあったが、本筋はその件では無かったな」

 

 

 真っ先にその話題が出たのだが、達也は特に重要では無かったと判断しているので、あくまでもついでの用件だったと伝える。それを聞いた深雪と、聞き耳を立てていたほのかは、同時にホッとした雰囲気を醸し出したが、その事にツッコミは入れなかった。

 

「では、どのような用件で達也様をカウンセリング室に呼び出したのでしょうか? ましてや授業中に教師が生徒を呼びつけるなど、普通ならあってはならない事です」

 

「ちょっとした情報交換だ。この間三矢さんが攫われた件、どうやら小野先生も独自で調べてたようだしな」

 

「小野先生が、詩奈ちゃん誘拐の件を、ですか?」

 

 

 遥の正体を知らない泉美が、怪訝そうな顔で深雪に尋ねる。達也に尋ねなかったのは、単純に深雪と話したかっただろう。

 

「小野先生はああ見えて情報通ですからね。カウンセラーとは思えないほどの情報網を持っているから、そこに引っ掛かった詩奈ちゃん誘拐未遂事件の顛末を達也様に尋ねたのでしょう」

 

「そんな感じだな。もしも三矢さんが不安を抱えているのならカウンセリング室に来るようにと言伝を預かっている」

 

「カウンセリング室に、ですか? でもあれはただの連絡ミスだったんですよね? 私は誘拐されたわけではないですし」

 

「一応そういう事になっているが、小野先生はそこまで知らなかったようだ。あれでもカウンセラーだから、三矢さんの事を気にかけてたんだろうが、何故俺を呼び出してそんなことを尋ねたのか、俺にも分からん。俺は特別三矢さんと親しくしているわけではないんだが」

 

「達也さんが一番正確に情報を握ってると思ったのではないでしょうか。実際私や深雪が呼び出されても、事の顛末を正確に、冷静に話せたかどうか分からないですし」

 

「ちょっとほのか。私はそれくらい出来るわよ?」

 

 

 深雪が笑いながら抗議すると、ほのかも軽く舌を出して肩を竦めてみせた。遥の正体を知っている深雪と、達也の愛人であることを知っているほのかは、それぞれ違う理由で達也を呼び出したのだろうと考え、話題の終息を計っての事だ。

 

「その後保健室に引っ張り込まれたって聞いたけど?」

 

「雫……いつの間に隣に座ってたの?」

 

「今さっき。深雪、これ今日の報告」

 

「確かに受け取ったわ。後で確認しておくわ」

 

 

 雫がすぐに風紀委員会本部に戻るわけがないと知っている深雪は、すぐに報告書に目を通す事はせず、雫の話題を広げる事にした。

 

「小野先生とのお話が終わった後、保健室で何をしていたのでしょうか?」

 

「こちらも雑談程度だ。どうやら安宿先生も九校戦の事を知っているようで、その事を気にしていた」

 

「九校戦の事、ですか?」

 

 

 この中で唯一、九校戦が中止になるかもしれないという事を知らない詩奈が首を傾げたが、他のメンバーは怜美まで知っているのかとため息を吐いた。遥の事をよく知らない泉美ですら、遥よりも怜美の方が情報に疎いと思っていたようで、その怜美が知っているという事はいよいよ中止が濃厚になってきているのだろうと感じたのだろう。

 

「まだ決定ではないが、今年から暫く、九校戦が中止されるかもしれないという噂が流れている」

 

「どうしてですか!?」

 

「まず一つ目は、将来有望の魔法師の卵が集まる九校戦は、反魔法主義者の標的になる可能性が高いからだろう。いくら実力者が参加する九校戦とはいえ、それはあくまでも高校生の中でのことだ。武装した集団に襲われて、冷静に対処出来る人間が多くいるとは考えられなかったのだろう」

 

 

 達也の説明に、詩奈も何となく納得したようで小さく頷いた。一つ目の理由だけでも十分だったのだが、達也は残りの可能性も詩奈に説明する事にした。

 

「後は、九校戦の大会上層部メンバーが一新された事で、運営に支障が出てるのかもしれない」

 

「何故一新されたのですか?」

 

「昨年の軍の介入を防げなかった点と、一昨年の大会運営に工作員が紛れ込んでいた事に気付けなかった事が重なっての事だろう。新メンバーのみで開催するのは難しいと判断したのかもしれない」

 

「競技の見直しなどもありますし、今年はほぼ間違いなく中止だろうと、一部では話題になっているほどですものね」

 

 

 達也の説明を捕捉するように泉美が言うと、詩奈は納得と同時にがっかりしたように肩を落とした。詩奈も一高生として、今年の九校戦を楽しみにしていたのかもと、達也と深雪は顔を見合わせて苦笑いを浮かべたのだった。




軍の介入を許した前運営本部は本当に無能だ
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