劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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円盤見た感想、やっぱりリーナはポンコツだった……


幹比古と十三束

 九校戦が中止になるかもしれないという噂は、既に学園上層部に留まらず、一般生徒の間でも流れていた。

 

「今年の九校戦、かなり楽しみにしてたんだけどな」

 

「また去年のように突如競技変更が通達されるより、いっそのこと中止してくれた方がありがたいと思う人もいるんじゃないかな?」

 

「でも、僕たちにとって最後の九校戦なわけじゃない? まぁ僕は選手としてではなくエンジニアとしての参加だったと思うけどさ」

 

「十三束くんなら、選手としてでも十分通用したと思うけど」

 

「いやいや、吉田君の方が主力選手として期待されていたんだし、僕なんかよりも残念なんじゃないの?」

 

 

 あの場にいなかった十三束の耳にまで入っている事に、幹比古は若干の驚きを感じていたが、そんなことを感じさせない態度で、十三束と話している。

 

「正直、僕は達也が調整してくれたCADじゃなきゃ競技では力を発揮出来ないから、本当の実力者と比べられるのは嫌だったんだよね」

 

「司波君の調整は凄いらしいからね。僕も実際に見たけど、確かにあれなら少ない負担で最大限の実力を発揮出来るだろうけど、僕には真似出来ないかな」

 

「他の誰にも真似出来ないと思うよ。去年中条先輩がそんなことを言ってたから」

 

「僕も五十里先輩からそんなことを聞いたよ。それだけ司波君の技術力が優れてるんだろうね」

 

 

 達也の事を素直に認めている十三束だからこのような感想が出てくるのだろうなと、幹比古はそんなことを考えていた。未だに達也の事を認められない人間は、この一高にも大勢いるのだ。

 

「いい加減達也の実力を認めれば、少しは楽になるんだろうけど」

 

「入学時、司波君は二科生だったからね……一度でも自分の方が優れてるって考えると、それを否定したくないんだと思うよ。まぁ僕みたいに欠陥を抱えて入学した人間は、すぐに司波君の凄さを受け入れられたけどさ」

 

「それは僕も同じさ。あの時の僕は、今みたいに上手く魔法を使えなかったから」

 

「でも、今は僕なんかより立派に魔法を使えてるじゃないか。それも司波君のお陰なのかい?」

 

「アドバイスしてくれたからかな。もちろん、全部を達也のお陰だとは言いたくないけどね。僕だってそれなりに努力したからさ」

 

 

 冗談めかして幹比古がそういうと、十三束も楽しそうに笑う。あまり接点が無かった二人だが、達也を通じて知り合い、今ではこうして雑談をする仲になっているのだ。

 

「部活連としても、メンバー選考が佳境に入ってるだけに、この噂は看過できなかったんだよね」

 

「噂であってほしいけど、具体的過ぎるもんね」

 

「更にその噂では、原因は司波君なんじゃないかって言われてるらしいけど、彼が悪いわけじゃないよね?」

 

「達也は高校生という枠に収まっていないからね……どこかからクレームが入ったのかもしれない。ましてや四葉家の次期当主だからね」

 

「でもさ、三高には一条家の次期当主がいるわけだし、司波君だけが問題視されるのはおかしくない?」

 

「一条家と四葉家とでは、名前が持つ威力が違うんだと思うよ。それは僕が言うより数字付きの十三束くんの方が理解してると思うけど」

 

「まぁね……四葉家はいろいろと凄い噂が付き纏ってるから……」

 

 

 数字付きとして、四葉家にまつわる噂の殆どを聞いたことがある十三束は、顔を引きつらせながら答える。その顔を見た幹比古も、それだけで相当なものなのだろうと察し、顔を引きつらせた。

 

「万が一中止になった場合、司波君を責める人が出てきてもおかしくないだろうね」

 

「そもそも中止にする理由は、競技見直しと運営立て直しなんだから、達也に責任を押し付けるのはおかしいと思うけど」

 

「一番の理由は、反魔法主義者から参加者を守る為なんだろうけど、やっぱり開催してほしかったと思う人は分かり易い犯人を作り上げるんだろうな……」

 

「そもそも達也の前には十文字先輩だっていたんだし、十師族の跡取りが参加すると均衡が破れるなんておかしな話だと思わないのかな? 一条君には悪いけど、それだけ一高が注目されているって事なのかもしれないけど」

 

「今年勝てば五連覇だしね……」

 

「そろそろ僕は本部に戻るよ。あんまり油を売ってると北山さんに怒られそうだ」

 

「委員長は吉田君だよね?」

 

 

 十三束の問いかけに、幹比古は肩を竦めるだけで何も答えなかった。もちろん、十三束もあの噂は耳にしたことがあるので、それ以上何も尋ねる事はしなかった。

 

「あっ、そういえば別の噂なんだけど」

 

「なに?」

 

「吉田君と柴田さんが漸く付き合い始めたって聞いたんだけど、本当なの?」

 

「っ! ど、どこでそんな噂を聞いたの?」

 

「確か、千葉さんと明智さんが喜々としては話しまわってるっていうのをクラスメイトから聞いたんだけど」

 

「あの二人か……」

 

 

 十三束が上げた二人の名前で、幹比古はあきらめの境地に至った。自分がからかわれるのは苦手なくせに、全力で人の事をからかう二人だと知っていたのに、釘を刺すのを忘れた自分が悪いと考えたのだろう。

 

「確かに柴田さんとはお付き合いさせてもらってるけど、それで何かが変わるわけじゃないよ」

 

「吉田君はそうかもしれないけど、僕の友達でも柴田さんを狙ってた人がいるからね。これで漸く諦めがつくんじゃないかな」

 

「柴田さん、人気だったからね」

 

 

 幹比古も美月の人気は知っていたので、これで諦めてくれればいいなと思っている。だが自分がそんな美月の彼氏に相応しいのだろうかという不安がある為、万が一美月が別の人を連れてきてもいいようにという覚悟は、常に持っていようとも思っていたのだった。




十三束にまでからかわれる幹比古

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