時間を潰す為に何をするか考えていた達也は、背後から近づいてくる気配を感じ取り、暇つぶしを何にするかという考えは棚上げする事にした。
「達也様、少しよろしいでしょうか?」
「構わないが、香蓮が一人で行動してるのは珍しい気がするな」
「愛梨たちはリーナさんを招いて、魔法の訓練だそうです」
「リーナを? 昨日の俺との勝負を見て火が点いた、という感じか」
「そのようですね。愛梨はかなりの負けず嫌いですから」
そう言って破顔した香蓮につられて、達也も笑みをこぼす。深雪ほどではないが、愛梨もそうなんだろうとは感じていたが、本当にそうだったとはといった感じの笑みだ。
「それでですね、昨日藤林さんからお聞きした情報を、私なりに裏付けしてみたんですが」
「分かった。あんまり人に聞かれたくない話だろうし、空き教室で良いか?」
「構いません。遮音フィールドを張っても怒られない場所が良いですが、学園にそんなところはありませんよね」
「ピクシーに操作させれば問題ない。だが、あまり長時間誤魔化すのは無理だから、要点を簡潔に話してくれると助かる」
「分かりました。……ところで、達也様は以前からそのような誤魔化しをしていたのですか?」
「元々は七草先輩の得意技だったんだがな。それをピクシーに覚えさせて、軽度の校則違反なら書き換えてなかったことにしていたんだ」
「そうだったんですか。注意だけで済むのなら、それに越したことはありませんものね」
証拠が残っていたら、学校側も問題視するだろうが、生徒会で証拠を消し、注意だけで終われば、違反者も次は無いという考えを持ってくれるだろうと香蓮は感じた。もちろん、注意しかされないことをいいことに何度も違反を繰り返せば、当然その前の違反も合わせて学校に申告され、重い罰が下されることもあるのだろうがと、正確に達也の意図を汲み取っての考えである。
「ここでいいだろう」
生徒会の権限で空き教室の利用許可を得た達也は、すぐさま遮音フィールドを張って香蓮に本題に入るよう促した。
「まず九校戦が中止になるかも、という話ですが、何処の学校でもそのような噂が流れているようです。もちろん、まだ正式に発表されたわけではないので、噂の範疇ですが」
「この時期になって競技が発表されていない事や、運営委員の一新なども相まっての噂だろうな」
「はい。藤林さんのように、正確な情報を得ての噂ではなく、あくまで学生の間で流れている、信憑性の薄い噂のようです」
「だが、恐らくはその噂は事実となるだろうな」
「今の大会運営本部に、山積みとなっている問題を解決するだけの力はありませんし、反魔法主義者が九校戦を標的とする可能性はかなり高いですからね。運営本部とすれば、この反魔法師運動が片付くまでの間、九校戦を中止にしたいのかもしれません」
「それで、もう一つの方は何か分かったのか?」
「いえ、そちらはさすがに我が家では調べようがありませんでした……」
海外の極秘プロジェクトを調べるのは、さすがの香蓮でも無理だろうと思っていたので、達也はそれほど落胆することなく香蓮を労う。
「わざわざすまなかったな。香蓮だってリーナと愛梨の試合を見たかっただろうに」
「それは心配いりません。沓子さんが録画してくれてますので、後で確認出来ますわ」
「そうか。九校戦の件は、あくまでも噂だという事にしておいた方が良いだろう」
「分かりました。何か聞かれても知らないと答えておきます」
「そうしておいてくれ」
遮音フィールドを解除し、空き教室から出た達也たちはその場で別れ、達也は先ほどから聞き耳を立てていた不審者に声をかける。
「亜夜子」
「達也さんから隠し通せるとは思ってませんでしたが、その殺気はしまってください。別に危害を加えるつもりなんて無いんですから」
「分かっているが、盗み聞きとは感心しない」
「聞こえませんでしたけどね」
陰から姿を現した亜夜子は、少し悔しそうな表情で達也の前に立つ。
「ついこの間までは、達也さんより私の方が魔力のコントロールが上手かったのに、あっという間に達也さんに抜かれてしまいましたね。その所為で達也さんの遮音フィールドに対抗出来なくなってしまいました」
「香蓮は兎も角、俺は口元を見られないようにしていたからな。話の内容は半分しか分からなかった、というところか」
「九十九崎さんの口元は私の位置からは見えませんでしたので、完全に何を話しているのか分かりませんでした」
「大したことは話していない。昨日の裏付け調査の結果を聞いただけだ」
「藤林さんの情報は確かでしょうから、九十九崎さんの調査はあまり意味がないと思いますが」
「一高だけではなく、他の魔法科高校でもそのような噂が流れているらしい」
「そうなってくると、いよいよ九校戦は中止になる流れなのでしょうか?」
「亜夜子は参加したかったようだな」
「深雪お姉さまと本気で戦える、数少ない機会だと思っていましたから」
実戦で深雪に勝てるわけがないと分かってる亜夜子だが、競技ならもしかしたらという考えがあったのだろう。深雪と戦いたいなんて思うのは、それだけ亜夜子が深雪の事を認めているからだろうと、達也は一年の時の雫の態度を思い出して、ついつい懐かしい気分になっていたのだった。
諜報向きの人が多いな